お見舞いイベントって実際ある?俺は無かった
「怠い。」
あれから生徒会のヘルプで何度か呼ばれ、一夜漬けの勉強も終え…てない……な。
いつも気が付いたら寝落ちしてて、最近は全然ベッドで寝てない。
そのせいか首が痛い…。
でもそろそろ起きないと……。
……おや?
起き上がろうとして体が随分重い事に気付く。
寝てる間に志麻が忍び込んできて抱きついてきた…?
いや、それはないな…ないよな?
「お兄ちゃんおはよ!そろそろ起きて支度しないと…ってお兄ちゃん!?」
勢い良く扉を開けて入ってきた日奈美がそんな俺を見て慌てて近付いてくる。
「顔色すごく悪いよ!?大丈夫!?」
どうやらガチで体調が悪いらしい。
そう言われてみたらなんだか頭も痛いような…。
なんて言ってたら柔らかい感触が額に触れてくる。
「ん!?」
日奈美の手が、自分と俺の額それぞれに当てられる。
ふわぁ……!?これラノベとかで見たやつぅ!
「や、やっぱりちょっと熱い!」
それが本当に熱があるからなのか、朝から突然のご褒美イベントに興奮が高まったからなのかは分からない、、
あ、いや…これ本当にヤバいかも…。
「お兄ちゃん!?
お母さん!!お母さん!!」
そこで俺の意識は途絶えた。
さて、その後に目を覚ますと俺は額に冷却シート、後頭部には氷枕のひんやりとした感覚。
完全な病人の就寝スタイルになっていた。
「あぁ、起きた?
あんた、この頃夜更かし続きだったみたいだし無理がたたったのね。」
そう言って起きがけに声をかけて来たのは母さんだ。
「お、おん。」
こんな風に母さんに看病されるのなんていつ以来だろう。
そもそも前世ではあんまり熱を出して寝込む、なんて事自体そんなに無かったように思う。
「いくら若いからって、あんまり無理はし過ぎないようにしなさいな。
最近は本当びっくりするぐらい真面目に試験勉強してたみたいだけどその分あんまり寝れてないんでしょ?
こういう時ぐらいしっかり寝ときなさい。」
「おう、、」
「で?食欲は?」
「あんまり…。」
「そ、ならこれ飲んどきな。」
そう言って渡されたのは湯気が立っている紅茶のカップだ。
「なんか…懐かしいな。」
「そう?」
小さい時、熱を出して寝込んだ時は大体母さんが砂糖たっぷりの紅茶を出してくれた。
一口分口に含むと、懐かしい味と温もりが身体中に染み渡る。
なんだか本当に昔に戻った気分だ。
「じゃ、私は仕事に行くけど何かいる物があったらメールしといて。」
「あいよ。」
そして母さんが部屋を出て、そのまま家を出る音がすると、俺以外誰も居なくなった家はしんと静まり返る。
そんな中だと、大きな音でもないし普段は全く気にならない時計の針の音さえも今日はやけに気になってくる。
こうしてると本当に世界に自分一人だけになったみたいだよな…。
と、そこで。
急にスマホが着信音を鳴らす。
画面を見ると志麻からだった。
いや、本当あいつ連絡早いな…。
せっかく浸ってたのに…。
まぁ実際心細くなって来てたのも事実か。
「もしも「悠太大丈夫!?今から行こうか!?」いや…それより学校…「そんな事より悠太が心配だよ!と言うかもう向かってるし。 」いや早いな!? 」
行動力が限界突破してて草。
「志麻さん、学生の本分は勉強ですよ。」
「私の本分は悠太だから。」
あー…うん、そんな気がする…。
と、ここで呼び鈴が鳴る。
おや…こんな時間に誰か来たようだ…。
俺が反応を示さないでいると、延々と呼び鈴が鳴り続ける。
いや、怖っw
絶対志麻だって分かってるけど普通に怖いなww
数分程鳴らすと、諦めたのか鳴らすのをやめてかえ…
「悠太ー?」
まさかナチュラルに入って来ただと!?
え、と言うか母さん鍵閉めて出てた筈なんだけど...。
家の防犯性がヤバイのか志麻のピッキングスキルがヤバイのか...。
多分後者なんだろうなぁ...。
「なんだ、やっぱり居るんじゃん!」
そしてナチュラルに部屋に入って来ただと!?
「お前…だから学校…。」
「悠太が体調崩して休んでるのに授業なんて聞いてられないよ!」
「いやまぁ気持ちはありがたいけど…。」
つうかラブコメでありがちなヒロインお見舞いイベントの相手がよりにもよって志麻だなんて…。
まぁ贅沢も言ってられないか…。
現世ではこんな機会一度も無かった訳だし…。
「じゃあお見舞いと言えばまずは添い寝だよね!」
「まずはじゃないんだよなぁ…。」
いや実際美少女と添い寝イベントなんて現世では無かったけども!でもこれはなんか違う!
「そこは何かつく…あ、良いや。」
「何か作ってほしいの!?」
「あ、良いです本当無理ですすいませんでした!」
「全力で拒否られた!?ぴえん。」
コイツに料理なんかさせてみろ、パスタが無かったから代わりに私の髪を入れたとか言って出してきたりするんじゃ…。
「……悠太ものすごく失礼な事考えてない?」
「え、違うの!?」
いや、それともケチャップが無いから代わりに私の血をかけたとか言ってオムライスを出して来たり…。
「私、料理は普通に得意だよ?」
「え? 」
「え?」
「ヘアゲッティーじゃなくて?」
「何それ?」
「ブラッディオムライス(本物)じゃなくて?」
「そんなの作らないよ!? 」
「え? 」
「で、でも悠太がどうしても「いや、結構です。」ぴえん……。」
マジでやりかねないからな……。
「じゃあさ、うどんを作ってくれないか?」
「分かった!任せて!」
そう返すやいなや部屋を飛び出し、そのまま材料を買う為か一度家を出て行く志麻。
それから数分程で戻ってきた音がして、数十分経つと段々いい匂いがし始める。
「出来たよー。」
志麻が言いながら持ってきたのは具に卵と肉、ワカメ等が入ったうどんだった。
きちんと取り皿まで用意されている。
見た目は普通のうどん。
匂いも普通に美味しそうである。
それよりも…まさかその指の絆創膏…!
「まさか隠し味にお前の血とか…。」
「入れてないよ!?
ただ材料を切る時に誤って切っちゃっただけだからね!?」
なんだ、心臓に悪い…。
「いや料理得意ならそんなミスそうそうしないんじゃ……。 」
「だって悠太に食べてもらえるんだよ!?
それを想像したら舞い上がっちゃって。」
あー……うん、志麻らしい理由だった……。
「それじゃ、悠太。
あーん。」
「いやいや自分で食べれるって…。」
「駄ー目、こういう時ぐらい甘えなさい。」
「いや、お前がしたいだけだろ…。」
「ちっ、バレたか。」
この子舌打ちしよった、、
「でも悠太の為に何かしたいって気持ちは本当だよ?
いつも無視されるけど。」
「そりゃあんだけ鬼メールされたらな……。」
「だって繋がってないと不安なんだもん。」
今でこそ返事が返ってこないと分かったからなのか頻度はほんの少し...最初と比べてほんの少し収まったけども...。
まぁこうして強調するぐらいだから実際のところはお察しの通りである...。
「そもそもそんなに暇なのかよ?お前って趣味とか無いのか?」
「趣味?悠太。」
「なんだよ、俺が趣味って…。」
どうも三趣味悠太です。
「悠太の事考えてたら他の事とか出来ないし…。」
「いやいや…。」
うーん…相変わらず一々重たいんだよなぁ…。
瑞穂がそうだったみたいに、こいつがこんな風になったのにも何か理由があったりするんだろうか。
つーかそもそも…。
「お前がそんな感じなの、両親は知ってんの?」
娘がこんな激重だったら流石に両親も心配になりそうなもんだが…。
「知らないと思う。」
「えぇ?」
だってあれでしょ?家にGPSとか盗聴器とか普通に仕込んでそうなのに?
「お父さんもお母さんも私に興味無いもん」
「え?」
「うちの親ね、結構大きな会社の社長さんなの。
で、お兄ちゃんはその跡継ぎになるつもりで親からもすごく愛されてて……でも私は全然期待されてないから。」
話を聞いてなんとなく分かった気がする。
つまりだ。
彼女が今のようになった原因はそうして親から期待も愛情も向けられて来なかったが故の寂しさなのではないか。
本当勝手だよなと思う。
産むだけ産んどいて気に入らなかったらぞんざいに扱って。
実際中にはぞんざいに扱うどころかいらないからって生まれる前に中絶するやつも、産んだ後に殺す奴だっている。
後先なんて考えずに目先の快楽の為だけに生まれた、望まれずに死んで行った命を思えば、志麻はまだマシな方なのかもしれない。
いやそもそもマシだとかなんだとか以前になんでこんなにも平等じゃないのか。
「悠太と付き合ってた時間はさ、本当楽しかった。
幸せだった。
嫌な事全部忘れられたし、私がどんなにワガママを言っても悠太は受け入れてくれたし、今だって許してくれた。」
「まぁ多少…いや……結構我慢してたけどな。」
「でも見捨てなかった。」
「お前は見捨てたけどな……。」
「だからそれは……!いや、うん……そうだね、ごめんなさい。」
「だから、今更謝られても困るっての。」
「でも……。」
「そんなに謝らなくても今更別に見捨てたりしないっての。
お前がしなければだけど。」
「もうしない!絶対しない!一生離れない!」
なんて言って距離を詰めて……って近い近い!
なんかいい匂いするしなんか引っ付いてきて柔らかい感触が!?
「うん、ちょっとは離れてね?」
じゃないと色々ヤバいから!!
繰り返し言うが志麻も性格はアレだが(意味深)普通に可愛い部類に入る女子である……性格はアレだが(2回目)
「じゃあメールと電話は!?毎日していい!?」
これだもんな、、
「ま、たまにならな……?」
「たまになら幾らでも付き合ってくれるの!?」
「たまにの意味分かってる?分からなかったら辞書で調べな?」
「吾輩の辞書にたまにの文字はない! 」
「うん、ナポレオンかなw?タチ悪いわw」
「だから、ずーっと一緒に居ようね。 」
そう言って彼女はそんな日々を頭の中で思い描いているのかとても嬉しそうに...そして幸せを噛み締めるかのように微笑むのだった。
「だからたまにだっての。」
「だからたまになんて知らなーい。 」
まぁコイツと一緒に過ごすのもたまには良いのかもな。
たまにはだけど(強調。)
そんなど平日の昼間。




