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彼女にフラれた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう  作者: 遊。


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千里の道も一歩から

翌日の朝。


いつも通り教室に向かっていると、目線の先に美江の後ろ姿が見えた。


前までの距離感なら、挨拶の一つでもする為に駆け寄ったのだろうが、今は流石に気まずい。


そのまま少し歩く速度を落として様子を見ていると、彼女が鞄に付けていたストラップが壁に引っかかり、ちぎれて落ちる。


だが、本人は気付いてなさそうだ。


うーん……教えてやった方が良い、よな。


そう思い、近付こうとした時。


「なぁ、これ落としたぞ。」


「え……?あ……。」


たまたま近くに居た男子生徒がそれを拾い、美江を呼び止める。


「ほら。」


「っ……!?」


男子生徒が差し出すと、美江はビクりと肩を震わせる。


「なっ、なんだよ?」


当然事情を知らない男子生徒は困惑する。


でも俺は事情を知ってる訳で。


流石にこの状況見て放置は無理だよなぁ……。


「あぁ……悪い、コイツちょっと体調悪いみたいなんだわ。


保健室連れてくし俺が預かるわ。」


「え、おう……。」


訝しげな表情で俺にストラップを渡すと、男子生徒は去っていく。


多分だが、彼女は今あの日襲われた事がトラウマになってるんだと思う。


当然だ。


自分よりも強いからこそ全く抵抗が出来ない。


そんな相手にただされるがままにしか出来ない状況、普通に考えて恐怖でしかない。


だからそれがトラウマになって男性恐怖症になっている、そう考えるのが自然だ。


は……!?いやいや……それならどっちみち俺が受け取っても意味がないのでは……?


「わ、悪い...俺が受け取っても意味なかったな……。


こ、ここに置いとくから。」


とりあえず近くの棚の上にストラップを置く。


「そ、それじゃあ……。」


そう言って背を向けると、背負っていたリュックのショルダーストラップを掴まれる。


「ま……待って!」


「うひゃい!?」


急過ぎて危うくひっくり返る所だったが、なんとか踏み留まる。


「ご、ごめん。」


そんな俺の様子を見てか、控えめに謝ってくる。


「い...今一人にせんとって……。」


不安そうな表情で俺を見る美江。


「わ、分かった。


ならひーちゃんを呼ぶから。」


そんな表情を見せられると、気まずさよりも心配が勝る。


「い、良い!」


「え……?」


「その……ゆ、悠君なら……大丈夫。」


「そ、そうか……。」


「うん……。」


あれだよな……?流石に男として見られてないから、とかじゃないよな……?


まぁ一度は付き合ってたんだし、それは無いと思いたい……。


「とりあえず保健室行くか?」


「い、いや……それは良い……。」


「ってもこのままここに居る訳にもいかないだろ……。」


かと言って屋上……はダメだ。


ただでさえ今こんな状態なのに、現場になった屋上に連れてくなんて更に状況が悪くなるのは目に見えてる。


「い、一緒に来てくれる?」


「え、おう。」


美江には宛があるらしい。


俺が頷くと美江はおずおずと……


「ん……?」


腕にしがみついてきた。


え、これどう言う状況?


「は、早く……。」


「あ、はい……。」


仕方無くそのまま歩き出す。


えぇ……本当どう言う状況?


元カノにしがみつかれる元カレの図。


しがみつかれた腕から彼女の手の温もりと、小刻みに震えているからか伝わってくる振動。


何か喋った方が良いのかしらん……。


流石に気まずいが過ぎる。


そうだ、付き合ってた時にもこんな風にしがみつかれた事があったっけ……。


会わせろとうるさい母さんに応えて彼女を会わせた日、元来超がつくほどの人見知りな彼女は緊張しっぱなしで……。


今みたいに緊張と不安でしがみついて離れようとしなかった。


まぁ、その時と全く状況が違うんだが……。


何より今は気まずいし……。


「その、良い天気だな……。」


「今日雨だけど……。」


Oh……。


ボキャブラリー貧困過ぎワロタ、、


そんな事を思っていると、小さく美江が笑う。


随分と久しぶりに見る彼女の笑顔は、とても柔らかく魅力的だった。


「こ、ここで天気の話して滑るとか……ほ、本当悠君って悠君だよね。」


「うっせ……。」


気が付けば震えは幾分か収まっていた。


もう大丈夫な気もする……が。


そのまま彼女に連れて行かれたのは空き教室だった。


前までは二年生の教室として使われていたみたいだが、生徒数の減少を機に使われなくなったんだとか。


今では休み時間の溜まり場だったり、昼休憩に弁当を食べに来る生徒も居たりと自由に使える空間になっている。


まぁ流石にチャイムが鳴る手前と言うのもあり

今は誰もいない。


「大丈夫か?」


「うん……その、ごめん。」


「別に……仕方ないしな。」


「うん……。」


流れでついては来たものの、これと言って俺から言えるのなんて大丈夫か聞くぐらいだ。


その答えも聞いてしまったら……。


「じゃ、俺はこれで……。」


ガシッ。


またリュックのショルダーストラップを掴まれる。


えぇ……まだダメ...?


「もう大丈夫そうだしここでゆっくりしてから来いよ。」


「私とおるん……そんなに嫌……?」


「っ……!?べ、別に嫌って訳じゃないけど……。


逆にお前こそ嫌じゃないのかよ……?」


実際前に会って謝った時も、彼女は俺を許さないと言った。


本来なら関わりたくなんかなかったはずだ。


「今は……そんなに……。」


なのに、彼女はそんなふうになんとも煮え切らない言い方で返してきた。


「あの時は……その...絶対に許すつもりなかったし、もう会わんし話さん、だからもう一生関わる事は無いんじゃろうなって思うとったけど……。」


多分喧嘩別れしてた時の事だろう。


実際お互いに顔が見えないメッセージでだっただけに言いたい放題これまで溜まって不満を言い合った。


「でもこうしてまた会って、さっきみたいに触れてみて……その……他の人は凄く怖いのに……悠君は全然怖くなくて……。」


「あー……その、全く分からないって訳でもない。」


「え? 」


「実際俺達が喧嘩別れしたのってさ、メッセージでだし直接面と向かってじゃなかっただろ?


だから俺の中で最後に残ってるお前の姿って……その、怒ってる姿じゃなくて、笑ってる姿で……。」


「うん……。」


「その笑顔が好きだった。


いや、分かってる。


その笑顔も関係も壊したのは俺だ。」


遠距離であるが故に、彼女とのやり取りは圧倒的にメッセージの方が多かった。


でもいつからか、メッセージで話す彼女と直接会って話す彼女がまるで別物のように思えてしまっていたのだ。


だからきっと何処かで期待してたんだ。


あの日メッセージの中で喧嘩別れした彼女は別人で、また時が来れば本物の彼女が笑顔で会いに来てくれる、なんて馬鹿げた妄想をしていたんだ。


「うん...。」


でも今となってはそんな気持ちも、彼女への想いも過去の物になってしまった。


「あの時はごめん。


そして、本当にありがとう。」


俺がそう言うと彼女は複雑そうな表情をする。


「だから……謝らんとってや……。」


今更何度も謝った所で意味は無い。


どんなに罪を認めて、悔い改めたところで、過去が変わる事は無いのだから。


「でも……私もありがとう。


本当に楽しかったよ。」


でも彼女は、最初にした謝罪の時とは違い、あの時を何処か懐かしむようにそう答えた。


「俺も。」


そう口に出すと、喉に引っかかっていた小骨が取れたようなスッキリとした気分になる。


それは今やっと過去を清算して、本当の意味で関係を終わらせる事が出来たからだろうか。


もう元には戻れない。


でも今なら……こうしてまた出会えた今なら、新しく始める事も出来るのではないか。


「なぁ、今度はさ、また友達として始められないか?」


以前は口にさえ出させてもらえなかったセリフが、今度はちゃんと言えた。


「えっ……。」


少し驚いた様子を見せて、美江は考え込む。


そして。


「考えとく……。」


そう言って微笑んだ。


その笑顔はあの日見せた嫌悪感等微塵も感じさせない、優しく幸せそうなものだった。


こうして、あの日絶望的なまでに遠のいた筈の俺達の距離が、今またほんの少しだけ縮まったのだ。

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