限られた時間の中で。
放課後。
「悠太さんは甘いです。」
目の前で特大サイズのパフェをつつきながら、リオがそうぼやく。
「そのパフェがじゃなくて?」
「このパフェで私が今日の事を許すと思ってる考えが甘いです。」
「チョロリオなのに?」
「許してもらうつもりありますかね……?」
現在俺は、通学路内にあるファミレス、シャイジェリエに来ている。
学生に安心の価格設定と帰り道からの寄り易さ、それでいて本格的なイタリアンが楽しめるので、大手ファーストフード店と並ぶ学生に人気のファミレスだ。
そこでリオにパフェを奢らされているところだった。
ちなみにあの後心友(暫定)はと言うと。
「あ!ショーくん!こんな所に居た!
もう!迎えに行ったのに居ないんだもん。」
「ごめんごめん、今日はほら、心友に話があってさ。」
「友達と仲良くするのは良いけど……私の事も大事にしてくれなきゃやだよ?」
「それは勿論!
いや実はさ、ユリたんの誕生日プレゼントどうしようか相談してたんだ。」
「え、そうだったんだ、嬉しい!」
「だからその、放課後一緒に買いに行かない?」
「うん!」
去りーゆくーあなたへー贈る言葉ー。
「……〇ねばいいのに……。」
「絶対そんな言葉じゃないし怒られますよ!?」
そんなこんなでよろしくやってる心友を後目に、俺は颯爽とその場を……立ち去ろうとしてリオに肩を掴まれる。
「なーに何事も無かったかのように立ち去ろうとしてるんですかー?」
ひぃ!笑顔が怖い!
「私がどんな思いをしてあの場を切り抜けたと思ってるんですかー?」
「あ、はい、その件は大変申し訳なく、はい。」
「本当に反省してるんですか……?」
「それはもう、両サイドにしか髪が生えてなくて毎回倒したら土下座する博士くらい。」
「ちっとも反省してなぁぁぁぁぁい!」
あちゃー、プレイヤーだったかー。
そりゃバレるか……。
「大体!いつもいつも悠太さん私の扱い雑すぎません!?
これでも私、あなたをサポートする為にはるばる天界から来たのに!」
「ははは、凄いねー。」
「バカにしてんのか!?」
ひーん……。
「いや、悪かったって。
あれだ、放課後パフェでも食べよう、な?」
「ぱ!パフェ!?」
あ、釣れたな。
「ま、またチョロいとか思ったでしょ!?」
「ははは、そんな訳ないだろ!チョロ(小声)」
「やっぱ思ってるじゃないですか!?
もう!一番大きいやつ頼んじゃいますからね!」
と、言う訳で。
リオは今この店で一番のサイズ感を誇るいちごデラックスを食べている。
ちなみに名前が似てるがマ〇コデラックスとは無関係です、悪しからず。
「ただデラックスが付いてるだけじゃないですか!?」
それにしてもパフェって高いのな……。
普通に定食食べれるんだけど。
デラックスサイズ、恐るべし……。
チビチビとミルクティーをすすりながら少しずつ減っていくパフェを眺める。
「悠太さんコーヒー飲まないんですか?
ミルクティーなんて中々可愛いらしいチョイスですね。」
「ばっか、夕方にコーヒーなんか飲んだら眠れなくなっちゃうだろうが。 」
「ぶっは!お子ちゃまだぁ。」
むっちゃ笑われた。
それにしてもまぁ。
「んー!」
たっぷりの生クリームと苺が乗ったスプーンを口に運び、幸せそうな表情をする。
本当幸せそうに、今にも天に召されそう。
あ、この子天使だったわ。
「なんですか?悠太さんも食べたいんですか?」
「あ、いや。」
「しょーがないですね!一口だけですよ?」
一応俺が買った物なんだけどなぁ……。
「でももうもらったから私のですよ。」
そう言って見た目相応に子供っぽい意地悪な笑みを浮かべる。
文字にするならニシシ、かな。
いやここは目刺しに便乗してニボシかな?
「笑い方ニボシってなんですか!?
それに目刺しに便乗してって!?」
えぇ……良いじゃん...。
どっちも原材料はカタクチイワシとかウルメイワシとかだし。
「まぁ、そんな事より!
ほら、あーん。」
急にリオが口にパフェを押し込んでくる。
「っ!」
「どうですか?」
そう言ってニコリと笑うリオ。
コイツ、子供扱いされたのを根に持ってたのか、いかにも年下に餌付けするお姉さんみたいな感じで俺の様子を微笑ましく見守っている。
「すまん、リオ、俺警察行って来るわ……。」
「急に何事!?」
当たり前だ。
家族でもないロリと間接キッスなんて普通に事案である。
今は触るのは勿論声をかけるのもじっと見るのですら事案に発展する世の中だ。
触らぬロリに祟りなし、である。
「さ、流石に自分からやったのに通報なんかしませんよ。
どんだけ卑屈なんですか……。」
「マジで!ロリなのに!?」
「いや、だからそうだと……。」
「マジか、ロリでも許されるのか。」
「ロリロリ言うなや!?」
「ははは、リオちゃん可愛いよう……。」
「ほんっっとーに!気持ち悪い。」
調子に乗って悪ノリしたらマジ対応された、泣きそう。
それにしてもさっきから何だか視線を感じるような……?
辺りを見回すと、窓ガラスに張り付いたヤモリ……いや志麻リがこっちをじっと見ていた。
「「ひぃ!?」」
二人して悲鳴をあげる。
「リオちゃん、お兄ちゃんと仲良くしてくれるのは嬉しいけどお兄ちゃんは私の、私だけのお兄ちゃんだからね……?」
そしてちょうど背中合わせになる席から、日奈美がひょこっと顔を出す。
あちゃー……あの冷気はやっぱ日奈美だったかぁ……。
てかひぃちゃん?顔怖いよ?お目々のハイライトどうやって消してんの?
「ご、ごめんなさい!?あれはそう言う意味では!」
流石のリオもビビってるw
「ズルい〜!まりも悠にぃにあーんする!」
言いながら隣に座ってくる茉里愛。
「あ!そこは私が座ろうと思ってたのに!?」
先を越された日奈美が茉里愛をどかそうとするが、構わず茉里愛は自分の席から持って来たレモンケーキをフォークで差し出してる。
それを奪うように日奈美が口に入れる。
「あぁっ!!ぶぅ……!」
「お兄ちゃん、私のガトーショコラもあげる!」
今度は日奈美があーんをしようとするが、それを今度は仕返しとばかりに茉里愛が口に入れる。
「あっ!ちょっと!?」
「仕返しだもん!」
この二人、なんだかんだ仲良しだよな。
「「仲良しじゃないもん!」」
「ふふん、あーんなんて甘いよ。
悠太、私をあ、げ、る、「あ、間に合ってます。」ぴえん……。 」
乗り込んできた志麻を軽く押しのける。
全く油断も隙もない……。
「好きならいっぱいあるよ?」
やかましいわ。
そうしてそんな賑やかな空間を遠くから眺める二人の存在に、俺は気付かなかった。
「宏美ん、行かなくて良いのー?」
「良いんだよ。
私が行ったってどうせ鬱陶しがられるだけだし。」
分かってる。
そうなるようにしたのは自分なのだから。
「今日だって気になって後をつけてきた癖に?」
「うっ……。」
でも決して彼が嫌いだから別れをきり出した訳じゃない。
ただ、今の自分の気持ちと、彼の幸せを私なりに沢山考えた上で決めた事だ。
そんな私に彼は友達に戻ろうと提案してくれた。
明らかに自分勝手な事を言って突き放した私に。
あの時は本当に嬉しかった。
それなのに、である
なんだかんだ、楽しそうに笑う彼を見て安心と同時に少し苛立ちもする。
「全然友達らしくないじゃん……。」
仕方ないと頭で分かってる。
そんな事言える立場じゃない事も。
いつか、本当の意味で友達に戻れる日が来るのだろうか。
お互いが違う誰かに恋をして、相談し合ったりみたいな関係になれるのだろうか。
今だってこんなに遠いのに?
分かってる。
すぐにどうにかなる訳じゃない。
でもだからと言ってこのまま話さなければ、本当に話さなくなる。
いや、実際そうなるのだろう。
「宏美ん、分かってるよね?」
そう言ってリタは不敵に笑う。
「うん。」
私に残された時間は少ない。




