優しい世界と胸騒ぎ
微睡みの中、窓から差し込む光が閉じていた目を突き刺す。
どうやら勉強しながら机で寝落ちしていたらしい。
あれ……どこまでやったんだっけ……?
日奈美が寝落ちしてから勉強を再開して、そこから俺も寝落ちするまでの記憶が全然無い。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。」
ふと日奈美の声がする。
あぁ、もう朝か……。
ゆっくりと体を起こすと、かけられていたブランケットが床に落ちる。
恐らくあの後目を覚ました日奈美がかけてくれたのだろう。
「お兄ちゃん、おはよう!」
嬉しそうな笑顔でそう言ってくる。
「あぁ、おはよう。」
日奈美とこうやって同じ部屋で挨拶を交わす瞬間も、現世では無かった物だ。
今ではそれが当たり前になりつつあるが、前世の俺からすれば当たり前と言ってしまうには勿体ない日常の一部だ。
「朝ごはん出来てるから着替えてきてね。」
そう言って日奈美は出て行ってしまう。
よし、俺も着替え……ん?
ふと、ベッドの上に視線が向く。
今朝までひーちゃんが寝てたからいい匂いがする……のはまぁ、分かる。
それは良い、いや良くないけどそれは一旦横に置いとこう。
いや、ほんといい匂いだな…。
じゃなくて!なんで昨日まで日奈美が着てたパジャマがベッドの上に綺麗に畳まれてるんだろう、、。
え、待って?それじゃあ何?今朝俺が寝てる間横で日奈美が着替えてたって事!?
訂正しよう。
こんなのが当たり前になったら俺の精神がもたない!
そんな苦悩をしながら、リビングに向かう。
今日はフレンチトーストとアイスココアが準備されていた。
「あ、お兄ちゃん!今日のお弁当はあんまり揺らさないようにしてね!」
リビングの椅子に座ると、キッチンから日奈美が声をかけてくる。
ちなみに中身を見せるつもりはないらしく、コソコソと物陰に隠れて作っている。
まぁ楽しみは取っておくべきか。
いつも通り支度を済ませて家を出る。
「悠にぃ!おはよう!」
「うぉっ!?」
ドアを開けた瞬間、茉里愛が抱き着いてくる。
「あ!ちょっと!何やってんの!?」
後ろから日奈美が駆け寄って来て、引き剥がそうとする。
「おはようのハグ〜。」
毎度の事ながら意外と大きい何がとは言わない何かが当たってるんだが!?
「悠太!おはよう!」
「お前は来んな。」
茉里愛に続いて抱き着いて来ようとする志麻の頭を手で押し戻す。
全く、油断も隙もない……。
「ぴえん...。」
「じゃあ悠ちゃん俺なら!?」
「お前はもっと来んな。」
迫ってくる巨漢、秋名たんには脳天チョップ。
「悠ちゃん俺だけ扱いが違い過ぎるw」
「だめだよ悠兄、そこは全力で受け止め……はっ!まさか……ツンデレ……?
それもありかも……?」
ブツブツ言ってる美紀の独り言は聞かなかった事にしておこう……。
等と言ってたらもう一つ聞きたくなかった独り言が聞こえてくる。
「待って……こいつにはもっとを付けてたしそれなら私にもワンチャン……「ないよ?」ぴえん……。」
全く……なんでそんな発想になるのか……。
どんだけポジティブなんだよ……。
とりあえず志麻は放置……。
「悠さんおはよう!なら僕はどう?」
智成が相変わらず爽やかな笑顔で言ってくる。
ちくしょう、相変わらずイケメンだなぁ。
「いや、逆に俺がツンツンするわ。」
「にゃうっ!?」
横腹を何度かつつくと、実に可愛いらしい声を上げる。
かっこいい上に可愛いなんてほんと智くんは智くんである。
「良い……良い!もっと頂戴!」
「ハチちゃん、鼻血……。」
言いながら秋名たんが美紀にティッシュを差し出している。
あ、今回は逆に美紀が秋名たんに面倒見られてる……。
「悠太さんおはようございます。
相変わらず朝から大人気ですねー。」
「そう見えるか……?」
「えぇ、とても。」
そう言ってニッコリと微笑むリオ。
「なぁ、チョロリ目刺し。」
「天使ですらないしもはやただの悪口!?」
「俺、こんなに幸せで良いのかな?」
皆から少し離れた場所で、そう問いかける。
「急にどうしたんですか?」
「今までの……転生する前の世界はさ、そりゃたまにいい事もあったけど何をしても全然上手く行かなくて嫌になってたんだ。」
「失恋とかの話ですか?」
「まぁそれもあるけど全体的に、と言うかさ。
だからいつも自分で自分を馬鹿にしてた。
何も出来なくて、いつも上手くやれなくて、ここ一番って所で踏み出せない自分が本当に嫌で。
でもさ、この世界は違うんだよな。
絶対会えないと思ってた人達が周りに、すぐ近くにいて……まぁ何故か元カノ達までいるけど。
でもそんな日常がなんだかんだ楽しみになってるって言うか。」
「良いことじゃないですか。
ならこの調子で恋愛も「それは嫌だけど。」
なんでー……? 」
「俺は本来死んでる筈な訳で、あの時ぶっちゃけこのまま死ぬんなら別にそれでも良いか、なんて思えてしまったんだ。」
「悠太さん……。 」
「でも俺は今生きてる。
こんなにも恵まれた環境の中で。
でもさ、こうも考えてしまう。
あまりに恵まれ過ぎていると。」
「恵まれすぎてる……?」
「この世界を作った誰かの目的は俺には分からない。
でも純粋な悪意からならこんな世界なんて作らなかったんじゃないだろうか。
もしそうならそれこそありとあらゆる手段で俺が苦しむような世界を作ってたと思う。
でも今の世界はさ、まるでそうなるように仕組まれているように恵まれ過ぎてる気がしてならない。」
「えーっと、つまり?」
「まるで誰かが俺を幸せにする為に作ったみたいな世界。」
「た、確かに言われてみればそんな気もしますね。」
「ただ、そうなると誰が、なんの目的でそんな事をしているんだろう。」
「それは分かりませんね……。
そもそもその目的に協力してる知り合いの意図もよく分からないですし……。」
「そう言えば知り合いってどんなやつなんだよ。」
「あぁ、説明してなかったですね。
名前はリタと言います。
一応天使見習いですが……とてもワガママであまり自分にメリットが無いことを積極的にやりたがらない感じの子だった筈ですが……。」
えぇ……なにそれほんとに天使?小悪魔じゃなくて……?
「何が目的なんだ……?」
「お兄ちゃん?何してるの?置いていくよー?」
考え込んでいると、少し離れたところから日奈美が振り返って声をかけてくる。
「あぁ、今行く!」
なんだか胸騒ぎがする。
何も無ければ良いけど……。




