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一触即発

さて美江と話をしようと図書室を出てきた俺だが、ここで早速一つの問題に直面する。

「そもそもアイツ今どこにいるんだろう……。」

さっき会った時は確かイケメンの先輩と一緒に居たような気がする。

美江の奴、あれで結構面食いだったもんな……。

前に俺の好きな所を聞いたら迷いなく顔って答えやがったし……。

新しい彼氏もやっぱり顔で選んでたりするのだろうか。

今度の彼氏は良い人だと良いけど……。

そんな事を考えながら、宛もなく廊下を彷徨う。

「一人で探すのにも限界があるか……。」

そう思い、辺りを見回す。

「あのさ、ちょっと良いか？」

「はい？」

声を掛けた相手は同じクラスの水野由梨。

はて？何処かでなんか絡んだかしらん……。

なんだかものっそ見覚えがある気がする。

それも悪い意味で。

「あ、ごめんなさい。

私彼氏いるのでそう言うのは……。」

えぇ……なんで俺告白もしてないのに振られてんの……。

「いやいや、貴方には一切、これっぽっちも興味は無いから！」

「それはそれでムカつくんですが……。」

えぇ……どうしたら良いのよ……。

「あ！しょうたん！」

「うげっ……。」

思い出した。

こいつらあの時のリア充カップルだ……。

「ゆりたん！その人は？」

「さぁ？同じクラスの人みたいだけど……。」

えぇ……なんか微妙な反応なんだが……。

いや、俺も忘れてたけども...！

「俺のゆりたんになんか用か？」

イケメンに睨まれる。

なんでこいつらに自分から関わってしまったんだろ……。

数分前の自分をぶん殴りたくなった。

「聞いてよ、しょうたん！私に告白して来たのかと思ったら私に全く興味無いって言うの！」

「なんだと！？」

めんどくさい事になったなぁ……。

「興味があったらそれはそれでムカつくが無いなら無いでムカつく！」

だからどないせぇっちゅうねん……。

これ以上面倒な事になる前にさっさと本題に入るか……。

「えっと、二人の恋は全力で応援する、だから話を聞いてくれるか？」

「えっ！？応援してくれるの！？」

クソぅ、なんでこんな事せにゃならんのだ、、

「なんだ、お前良い奴だな。」

「ははは。

アタリマエダロ、クラスメイトダモン。」

「ありがとう！」

えぇ、めっちゃ棒読みになったのに普通に信じてもらえた。

「いや、助かるよ。

俺こう言うの相談出来る相手少なくてさ！」

どういう訳か二人に連絡先を交換させられ、やっと本題に入る事が出来そうな雰囲気になった。

「花岡さん？」

美江を探していると言う旨を二人に話すと、由梨が聞き返してくる。

「そうそう、何処にいるか知らないか？」

「花岡さんってあれだろ？

地味だけど最近すっげぇイケメンな彼氏が出来たとか今噂になってる。」

「うん、私も聞いた事あるよ。」

地味だけどは余計な気もするがそれは間違いなく美江の話だろう。

「でもそのイケメンの先輩ってちょっとヤバい噂も聞くんだよね。」

「ヤバい噂……？」

おや、話の雲行きが悪くなってきたぞ……？

「あぁ、俺も知ってる。

なんかあれだろ？

普通に何股もしてるだとか、いらなくなったらすぐ捨ててるとか。」

「マジかよ……。」

そんな奴に捕まってたのかよ……。

「そう言えばさっき花岡さんとその人が階段を上がってくとこ見たな。」

「え、それ大丈夫かな……。

行先が屋上とかだと人気がないし……」

「悪い、こうしちゃいられない！」

流石にそんな話を聞かされて聞き流せる程、俺も非情にはなれなかった。

「急げよ、心友！」

親指を立てる自称心友。

えぇ……いつの間に心友認定されたんだろう。

とりあえず親指を立て返して屋上に走る。

屋上に向かう道中、本当に人気が無さ過ぎて不安が募る。

「っ...！離してっ！」

今の声……美江だよな。

階段を駆け上がると声が更に聞こえてくる。

「なんだよ！

この俺がお前みたいな地味なやつと付き合ってやってんだぞ！」

「っ……！だからって……！」

えぇ……リアルにこんな事言うやついたのか。

屋上のドアから外を覗くと、イケメンに襲われて制服を脱がされそうになっている美江の姿が。

シャツのボタンが外され、ピンクの下着がチラリと見えてしまっている。

マジでこんな状況あんのかよ……。

ってかよりにもよって襲われてんのが元カノなんて……。

色んな意味で見たくなかった状況。

でもだからと言ってそのまま帰れる訳もなく。

「何やってんだよ。」

気が付けばドアを開けていた。

それに驚いた表情をする美江。

「あぁん？なんだお前。」

リアルにあぁんとか言うやつ初めて見たんだけど。

さて、俺は本来喧嘩なんて得意じゃないし、それは転生したからと言って変わらない。

ならどうするか。

答えはシンプルだ。

徐々に距離を詰めてくるイケメンの股間を長い足で思いっ切り蹴りあげる。

「ふごっ……！？」

まさかこんな所で足が長いのが役に立つなんてな……。

「おい、逃げるぞ！」

無理矢理彼女の手を掴み、立ち上がらせる。

「あ、ちょっ……！」

「ま、待て！」

イケメンも追いかけようとするが、流石にその状態からすぐには起き上がれまい。

流石にあそこまで綺麗に入ったら大した力が無い俺の蹴りでも相当なダメージの筈だ。

そのまま屋上を飛び出し、近くの空き教室に隠れる。

と、同時に強引に手を離される。

「あ、悪い……。」

そのままその場にしゃがみ込んだまま肩を抱いて震える美江を見て思う。

本当に怖かったんだろうな、と。

あと一歩来るのが遅れれば、彼女にはけして消えないトラウマが刻まれる事になっていた筈だ。

俺は黙って背中に上着をかけてやる。

だが、彼女はそれを振り払った。

「なんで助けたん……？」

そう言って睨んでくる。

「あのままで良かったのかよ？」

「そうじゃないけど……！」

分かってる、助けてほしかったのは事実だとしてそれが俺だったのが問題と言うだけ。

「何処に行きやがった！？」

廊下の辺りからそんな怒号が聞こえてくる。

「っ...！？」

瞬間、美江の体の震えが早まる。

顔色も更に悪くなる。

正直今すぐにでも逃げたい状況である。

実際、彼女は俺からの助けなんか求めてないし、ありがた迷惑でしかないだろう。

でも俺はまた彼女の手を掴み、教卓の裏に潜り込む。

「ちょっ……！？」

ほっとける訳ないだろ……！

当然ながら教卓の下は狭いし、黒板側から見られれば一発でバレる。

でもそんな事考えている余裕なんて無かった。

そのまま、怒号と足音が遠のくのをひたらすに待つ。

その間は流石に美江も何も言わず、ただ黙って肩を震わせていた。

そんな彼女に今度こそ上着をかけてやると、今度は抵抗しなかった。

よっぽど恐怖と心細さで気が滅入っているらしい。

しばらくして静かになると、お互いほっとして気を緩める。

ん？ちょっと待てよ……？

よくよく考えたらなんだこの状況。

いや無我夢中だったとは言え、である。

目の前、それも至近距離には未だ肩を震わせる元カノ。

超至近距離に居るせいで何処か懐かしい彼女が使っていたボディソープやらシャンプーの匂いがダイレクトに鼻腔をくすぐってくる。

その上、まだはだけたままのシャツからはピンクの下着がチラリと見えたままで……。

あれ……これ誰かに見られたら結構ヤバい状況じゃない？

「わ、悪い……俺……ちょっと外の様子を見に……。」

「行かんで……！」

腕を掴まれた。

えぇ……どうすんの……この状況……。

「勝手に助けたくせに……一人にせんといてや……。」

この方言混じりの喋り方も何処か懐かしい。

最初は変な喋り方と思ってた喋り方にも気が付けば癒されていたように思う。

仕方無く俺はまたその場にしゃがみ込む。

「その、ごめん。」

「許さない。」

即答である。

でも分かっていたからこそ続ける。

「あの時は本当に余裕が無くて、本気で思ってもない事を沢山言った。

あの時の俺は、お前の事全然ちゃんと考えられてなかった。

でもそんな事に気付いた頃には、もうお前と全く話す機会なんて無くなってて……。

ずっと謝りたかった。」

「そう……なんじゃ。」

「情けないよな。

それだって結局言い訳なんだ。

こう言う機会が無きゃお前にこうして謝ることも出来なかった。」

「うん。」

「だから良かったら……」

「それは無理。」

えぇ...今日俺なんでこんなに振られるの……。

しかも両方相手の勘違いって言う。

友達になれたらと思っただけなんだが……。

負けヒロインならぬ負けヒーロー、略してマケロー。

あれ、なんか呪いこもってない……？

「ゆ……あなたの事許すつもりはない。

でも今回の事は……その……ありがと。」

「お、おう。」

と、そこで不意に教室のドアが開かれる。

「っ！？」

二人して身を震わせる。

マズイマズイ……！

もう気付かれたのか！？

クソ……せめて美江だけは……！

徐々に近付いてくる足音が、教卓の前で止まる。

何とか美江だけでも助けようと美江の体に覆い被さるような体制を取った所で……。

「悠太……何やってるの……？」

目のハイライトが消えた志麻が居た。

正直こっちの方がホラーでした。