体育祭開幕!
体育祭当日。
全校生徒が集まったグランドは、暦の上では秋を迎えようとしている時期の物とは思えない暑さだ。
雲一つない晴天の空からは容赦なく強い日差しが差し込んでいる。
「皆さん、今日は待ちに待った体育祭当日です。」
そして今は開会式の真っ最中。
校長であるリュウたんが、朝礼台に立って話している場面だ。
「私も運動は得意です。
走る事は勿論ですが、木登りや水泳、穴掘りも得意です。」
穴掘りは別に運動じゃないだろ…。
一説によると熊は時速40km〜60kmものスピードで走れるらしいし、泳ぎも得意らしい。
鋭い爪や力で木登りや穴掘りも得意だが、当然リュウたんは着ぐるみだからそんな物ある筈も無いし、着ぐるみだから普通に走るのも泳ぐのも木登りも難しそうである…。
「あとはそうだ、川で何度も鮭を取りました。」
それも運動なのか…?
いや、そもそも嘘だろうなぁ…
基本鮭の捕獲って法律で禁止されてるし…。
…嘘だよね?
「しかし、そんな私にも弱点があります。」
「弱点?」
「それは…暑さです…。」
あ、(察し)
「熊は基本暑さが苦手です。
種類によっては得意な種類も居ますが、私達日本の熊は暑さには勝てません…。
皆さんも今日を精一杯楽しむ事は大切ですが…熱中症には気を…付け…て。」
突如、倒れるリュウたん。
「校長!?」
慌てて近くに居た教員と保健委員が駆け付け、担架でリュウたんを運んでいく。
おそらくその場に居た全員が思っただろう…。
そりゃそうだろ…。
熊が暑さに弱いのは毛皮があるからだ。
それを再現するかの如く着ぐるみである。
この炎天下の中、通気性も悪く密閉されている着ぐるみ内はそれはもうサウナのようになっていた事だろう…。
「あらあらぁ今年もやっぱり駄目でしたかぁ…。」
これには千鶴さんも苦笑い。
…どうやら毎年恒例らしい…。
対策してあげて!
着ぐるみのクールビズ化を推奨します!
「はぁ…皆さんおはようございます。」
おぉう、ハルたん会長ガチため息である…。
「校長が身をもって熱中症の怖さを教えてくださったと言う事で…。
皆さんももし自分は勿論周りに体調が悪そうな人が居たら声をかけ合い、必要に応じて救護テントで愛沢先生や保健委員の指示に従ってください。
私からは以上です。」
そう言って一礼するハルたん会長。
「はい!では早速!開会宣言に移らせていただきます!
体育祭実行委員長、水瀬咲夜さん、お願いします!」
絵美がテンション高めで開会式の司会を務めている。
「はい!」
「うぉぉ!サクちゃぁぁん!
可愛いよぉぉおおお!こっち見て!きゃぁぁぁ!」
隣で大興奮な秋名たん。
どうでもいいけど男がきゃぁきゃぁ言うんじゃない…。
「みんな!気合い入ってる!?」
「うおぉおおお!」
これには、秋名たんだけでなくサクのファンらしき男子生徒や友達らしき女子らも盛大に返事を返す。
「そうだよね!
今日まで沢山頑張って来たもん!
みんな!今日はその頑張りを見せる時だよ!
精一杯頑張って!一杯笑って!悔いの無い最高の体育祭にしよ!」
そう言って眩しい笑顔を浮かべる咲夜。
「うぉぉおおおお!」
いやこれ開会宣言てかアイドルのライブ前パフォーマンスでは…。
まぁでも持ち前の明るさで瞬時に雰囲気を作れるカリスマ性は流石である。
「じゃ、改めて!只今より!中山高校体育祭!開幕だぁ!」
そう叫びながら、拳を突き上げる咲夜。
「うぉぉおおおお!」
大歓声。
こうして、体育祭は幕を開けた。
そして幕を閉じたのだった…。
「何ちゃっかり終わらせようとしてるですか…。」
リオが呆れ顔でツッコミを入れてくる。
「えぇ…だってダルいし…。
あとダルいし…。」
「どんだけダルいんですか…。
それに良いんですか?
この後の準備体操が終わったら応援合戦が「そうだった!動画準備しないと!」
そこでしっかり動画まで撮ろうとする辺り流石のシスコンっぷりですね…。」
「当たり前だろ?この時の為に今日まで生きてきたと言っても過言じゃない。」
「うわぁ…。」
「学ラン姿の日菜美を目に焼き付けたらもう死んでも良い…。」
「駄目だこの人…。」
頭を抱えるロリ天使。
「では、次は応援団による応援合戦です!」
絵美の宣言で、学ランを着た数名が入場門から出てくる。
その中には当然!学ラン姿の日菜美もいた!
赤いハチマキ、黒の学ランの下には同じく赤いTシャツ。
ちなみに白組は青の学ランに白Tシャツスタイルである。
「良い…!流石ひーちゃん…あんなボーイッシュな格好さえ完璧に着こなすなんて…!」
「…まぁ、確かに似合ってますけど…。」
「ただ似合ってるんじゃない!とても似合ってるんだ!
ここ重要!」
「はぁ…。」
ちょwガチため息ww
…と言うか…!
「三澄さん、頑張ろうね。」
「うん!」
なんでアイツが隣に!しかも近い!
角森のやつがちゃっかり日菜美の隣を確保してやがったのである!
しかも近い!
「なんか仲良さそうですね。」
「そ、そうか?普通だろ…。」
「だと良いですけど。」
「なんだよ…?」
「別に、あ、始まるみたいですよ。」
「おぉ!」
流石に練習を重ねただけあり、全員の息はピッタリ。
完成した動きに、思わず見入ってしまった。
流石日菜美…。
誰よりも輝いて見える…。
あと角森、もうちょっと離れろ…。
「ありがとうございましたー!
ではではここからは順番に競技を始めて行きたいと思います!
実況は私絵美と!」
「私、咲夜がやるよ!みんな、宜しくね!」
「解説は会長にお願いしてるよー!」
「なんだかよく分からないけどお願いするわ…。」
ハルたん会長大丈夫かしらん…。
さて俺は…。
「だから、何しれっと帰ろうとしてるんですか…。」
「えぇ…駄目…?メインイベントもう終わったしもう思い残す事とかないんだけど…。」
「いや、メインイベント早すぎでしょう…。
まだ始まったばかりですよ?しっかりしてください。」
「分かってるよ…。」
「ほんとに分かってるんですか…?
このまま帰ったら角森さんに日菜美さん取られるかも「よし、やるか。」うわぁ清々しいまでの手のひら返し…。
コホン、それに宏美さんとも話すんですよね?」
「…そうだな。」
そっと宏美の方に目を向ける。
宏美はこちらを見ておらず、ただ前を見ていた。
見てろよ…。
何がなんでもとっ捕まえてやるからな。
こうして俺たちの体育祭は幕を開けた。




