恋する乙女は強いのである
「まずは……そうだなぁ。
メイド服から行ってみようか。」
「い、異議あり!まずはってなんだ!?」
「え、ここにある衣装一通り試してもらうつもりだけど。」
瑞穂が何言ってんのとでも言いたげな表情で見ているが、間違い無くこっちのセリフである。
今俺は瑞穂と志麻に連行されて、隣の空き教室に来ていた。
そこには瑞穂が言う様に何着かのコスプレ衣装(女物)がダンボールに入れられて置いてあった
その中から瑞穂がメイド服を取り出す。
「悠太のメイド服……!
写真何処に飾ろうかなぁ。
そうだ!せっかくだから御奉仕してもらいたい!
いくら払えばいい!?」
志麻が写真撮る気満々なのは予想通りだとして……。
「しないからすぐ財布を出すんじゃありません……。」
「えぇ!悠太のいけず……。」
お前関西人じゃないだろ……。
「と言うか男の俺がそんなの来たって需要無いだろ……。」
「そんな事ないもん!私得だもん! 」
志麻からしたらそうだろうけども……。
「そう言うけどさ、仮装と言えば性転換コーデって結構ポピュラーだと思うけどなぁ。」
「いやまぁ……。」
前世の体育祭では確かに男性教師が女装させられると言うパターンが多かった。
ちなみにその時もクラスの女子に実験と称して女子の制服を着せられたのだが……。
「可愛い系のイケメン男子とかがやったら女子ウケ良いと思う。
メイク次第では男子も喜ぶかもね。」
「おぞましい事言うんじゃない……。
と言うかメイクまでやんのかよ……?」
「え?そりゃそうでしょ。」
当たり前じゃんみたいな顔してるけど女装は別に当たり前じゃないのよ?
「だってメイク無しだとただ男が女物の服を着るだけになるじゃん。
やるからには徹底的にやらなきゃ。」
そんな所で完璧主義出さんでもろて……。
「いや待て、話は分かった。
いや……分からないけど分かった事にしておこう……。
それよりこれは松崎が女装する為の実験なんだよな……?
さっきの理屈で行くと松崎もイケメンって事に……。」
「……あの人がイケメンかどうかはさておきさ。」
露骨に話題変えてくるじゃん……。
「いやでも待てよ?
その理屈で言うなら今女装させられそうになってる俺もイケメンって事に…」
「…結局女装が似合うか似合わないかなんてメイクする人の腕前次第なとこあるから。」
「ちょっと?瑞穂さん?そこは嘘でもイケメンだって言ってほしかったんだけど?」
なんかアナたんの時より露骨に話題変えてきてない?
しかも遠回しにフォローされてない!?
「悠太はイケメンだもん!
この世にいる誰よりもイケメンだもん!」
…今だけはちょっと志麻に救われ…いや、相変わらず重いけども…。
「いや…この世にいる誰よりもは言い過ぎ…。」
確かにイケメンって言ってほしかったのは事実だけどもそれ程のレベルを求めてないんだよなぁ…。
「本当金澤さんってそう言うの包み隠さないよね…。」
それには瑞穂もげんなり顔である。
「だって思ってる事は口に出さないと伝わらないもん。」
し、志麻がマトモな事言ってるだと!?
「悠太なんだか随分失礼な事考えてない!?」
「そんな事ないぞ?ちょっと志麻がマトモな事言ってるって思っただけで。」
「やっぱり考えてるじゃん!?
素直に言ったから許されるとかじゃないからね!?」
ダメかぁ…。
「その、私だってちゃんと考えてるもん!
最低な事したってちゃんと思ってる。
でも悠太はそんな私を受け入れてくれた。
もう一度やり直すチャンスをくれた。」
「そのチャンスでストーカーしてるけどな…。」
「うっ、それは、でも悠太は突き放さなかったじゃん。」
「離しても引っ付いてくるだろお前は…。」
「流石悠太!私の事よく分かってる!好き!」
「はいはい、愛してる愛してる。」
「なんかカップルって言うよりこなれたペット主人の関係みたいな感じじゃん…。」
「そりゃお前、一応は付き合ってた1ヶ月に加えて友達としての期間もあるからな。
こいつの扱い方なら大体分かってる。」
「いや、扱い方って…良いの?あんな事言われてるけど。」
瑞穂がげんなりした表情のまま志麻に目を向ける。
「私が悠太を養うのも良いけど悠太に手懐けられるのも良いかも…好きぃ…。」
「ダメだこりゃ…。」
頭を抱える瑞穂。
「と、とにかくね!
一度は悠太を裏切っちゃったけど、だからこそ、今度はちゃんと信じてもらえるように思った事は言葉にして伝えようって決めたの!」
「志麻…。」
そうだったのか。
確かに付き合ってた時は今ほど頻繁に好き好き言ってなかった気がする。
重かったのは間違いないけども…。
毎日メールと電話の日々は今でも軽くトラウマである…。
前世では当然仲直りなんてしようと思わなかったし、出来るとも思わなかった。
でもこうして生まれ変わって、コイツと再び関わるようになって。
コイツはコイツなりにまた俺と関わる為に変わろうとしてくれてたんだな。
そこは確かに認めて良い部分なのかもしれない。
…まぁだからってストーカーは流石にやり過ぎな気もするが…。
どうにも方向性が変な方向に向きがちだがそう言うとこが志麻らしかったりするのかもしれない。
言わないけどな…。
「…まぁ悠太が一般的にイケメンかどうかはさておきさ。」
「いや、そこでその話に戻るのかよ…。」
「少なくともあたしにとっては1番ってのは…その…間違いない…と言うか…。」
「え…。」
「あーもぉ!やめやめ!こんな事言うつもりじゃなかったのに!」
照れくさそうに顔の前で手を振る瑞穂。
コイツ、清楚系ビッチとか言われてる割に案外照れ屋なとこあるんだなぁ。
「何…?あたしがこう言う反応するのが意外だって言いたいの?」
「ピッタリ当ててくるじゃん…。」
「あ、あたしだってびっくりしてるんだよ…。
自分がこんな反応するなんて…。」
確かに瑞穂は今まで清楚系ビッチと言う肩書きの通り沢山の異性とそう言う関係を持ってきた。
だから異性に対する耐性だって低くない。
むしろ高過ぎるくらいだと言って良いだろう。
「これまで誰かと付き合って、こんな感じになった事なかった。
うぅん、多分いつからかそう言う感情が麻痺してたんだと思う。」
それは…そうかもしれない。
こんな言い方をするのもあれだが、瑞穂だって最初は普通の女の子だった。
そんな普通の女の子だった筈の瑞穂を変えたのは本来守るべき立場である人間の醜い欲望だった。
「でもこうしてまた悠太と関わってたらさ、そう言う麻痺してた感覚が戻ってくると言うか…。
だから好きになったと言うか…。」
「そ、そうか…。」
「ゆ、悠太だって照れてるじゃん!」
「そ、そりゃお前みたいに可愛い女子に面と向かって好きって言われたら誰でも照れるだろ…。」
そう言うと赤い顔でバシバシと叩かれた。
「と、とにかくこの話はおしまい!
全く…金澤さんに当てられて変な感じになっちゃったじゃん…。」
「…とりあえず志麻にあてられてお前までストーカーにならないでくれよ…?」
そうしなくても志麻への対抗か最近色んなやつがストーカーしだしてんだから…。
「悠太のストーカー技術なら誰にも負けないもん!」
と、唐突に
「そんなので張り合うな…。」
「いや…あたしだってストーカーとして張り合うつもりとかないけどさ…。」
呆れ顔の瑞穂。
いやそれは本当そのままでおなしゃす。
「でもライバルとしてなら負けるつもりないから。」
「私だって!」
いい感じにまとまった、のか…?
「でも、それはそれとしてさ?」
「好きな人の可愛い姿は見たいもんね?」
いい感じに話が流れたと思ったのに!?
コイツらライバルなのにこんな所で息ピッタリなのかよ!
これが同じ相手を好きになった物同士の団結力と言うやつなのだろうか。
結局のところ…恋する乙女は強い、と言う事なのだろうか…。




