ゲスミここに極まれり、、
「よっ。」
生徒会副会長選挙から数日。
俺は非常階段に腰かけて一人弁当を食べている片杉に声をかける。
すると片杉はめちゃくちゃ嫌そうな顔で睨んでくる。
「なんですか....?」
「こんなとこに居たんだな。」
「わざわざ探してたんですか...?
あなたも暇人ですね。」
「そうでもない。
今もストーカーをなんとか撒いて来た所だ。」
「反応に困る返しをしないでください...。
それで、なんの用ですか?
まさか...勝ったからって負けた私に何かしようなんて思っているのですか...?
本当にゲスの極み...いえ、ゲスミの極みですね。」
「なんだよゲスミの極みって...ゲスミと極みで三文字目を揃えて上手い事言ったつもりか...。」
「良かったですね、文字数も揃ってよりあなたにピッタリになったじゃないですか。」
「嬉しくねぇんだわ...。
大体そんなの極めた覚えないし、固有名詞なら極めなくてもオンリーワンでナンバーワンだろうが...。」
「そうですね。
あなたにもこれで唯一の個性が出来たじゃないですか。」
「だから嬉しくねぇんだわ…。
と言うか分かっててワザと言ってんだろ...?」
「当たり前じゃないですか。
なんですか?私と仲良く会話が出来るとでも?」
「いや、俺が悪かった...。」
「分かれば良いんですよ。
ではさっさと消えてください。
せっかくお母さんが朝早くから心を込めて作ってくれたお弁当が不味くなるので。」
相変わらず散々な言われよう...。
「なぁ、お前がいじめの相談窓口を作るって言い出したのってさ。
もしかして俺の話を聞いたから、だったりするのか?」
「...どうしてそう思うんですか?」
「最初は確かにお前自身がいじめられてたからのかなとも思ったけどさ。
実際嫌われてるみたいだし。」
「き、嫌われている訳ではありません。
仮にそうだとするなら私を嫌っている相手と世の中が悪いのです。」
出たよ...嫌われてるやつの常套句...。
「でもお前ならいじめなんか絶対に許さなそうだし仮にいじめられても自分の方が正しいって逆に相手をねじ伏せそうだし...。」
「そうですね。
あの手この手を使って徹底的に相手を追い込み、再起不能にまで追いやります。」
怖い怖い...。
何が怖いってコイツならそれを正義の為だからとか言ってマジにやりそうな所である...。
「...仮にそうだとして私はあなたの話を聞いて利用しただけに過ぎません。」
「まぁそうかもな。
でもそれだってお前なりの正義に基づいた行動なんだろ?」
「それは...まぁ。」
「だったら俺の為、でもあるって事だろ?」
「はぁ?どうしてそうなるんですか?脳みそお話畑なんですか?」
相変わらず辛辣がすぐるww
「わざわざそんな事を言いに来たんですか...?」
「それもあるけど普通にお前と話してみたいと思ってさ。」
そう言うと片杉は露骨に距離をとってくる。
「なんですか気持ちの悪い...私まで誑かすつもりですか、やっぱりゲスミの極みですね...。」
「それ気に入ってんのかよ...。
そう言うんじゃねぇっての...。
と言うかなんだあの挨拶は。」
「何って、挨拶は挨拶でしょう。」
「いやいや、あんな一部の人だけが得するみたいな公約じゃ駄目だろ。」
「別に全ての人に理解されようなんて思っていません。」
「確かに理解してる奴も何人かはいたのかもな。
でも瑞穂はそうじゃなかった。」
「そうですね。
あんなに悪い噂を流されても、それを簡単に覆して周りを惹き付けてました。」
「だよな。」
「私にはあんな事出来ません。」
「へぇ?だから負けたんだってのは一応自覚してる感じか?」
「...だったらなんですか...?
わざわざ私の心をえぐりに来たんですか。
やっぱり性格最悪のゲス野郎、いえ、ゲスミ野郎ですね。」
「だから...そのニックネーム好き過ぎだろ...。」
「でもクラスの奴らから私の方がゲスミなのかもしれませんね。
自己中で、バカ真面目で、めんどくさくて。」
あれ...なんか自爆してる...。
「あなたも内心ではそう思ってるんでしょう...。
めんどくさい堅物女だって。」
「そんな、いや...なくはないな...。」
「...どうせ誑かすつもりならそこは否定するべきじゃないですかね...?」
「いや、悪い...。
でも自覚はあったんだな?」
「自覚も何もあんな隠す気ゼロの陰口を毎日のように聞いてたら嫌でも分かります。」
「なら...。」
「でも今更他の生き方なんて出来る筈がないでしょう。」
「その、正しく生きる事を強いられて来た、から?」
「...そうですね。」
「それだけ頑固になってるって事は相当な理由があるんだろ?」
「...私の父は警視総監でした。
人一倍正義感が強く、信念を持って仕事に取り組む姿は本当にカッコ良くて、私の誇りでした。」
「そんな父親に憧れて?」
「父はいつも私に言っていました。
真進はいつも正しくありなさいと。
お前は俺の自慢の娘だから出来るよな?、と。」
なるほど...。
尊敬する父親からの洗脳...って訳か。
「だから私は父の期待に応える為に必死に努力しました。
勉強もそう、日常生活でも常に正しく見られるよう真面目にやって来たんです。」
随分極端な話ではあるが...。
でもコイツにとってはそれが全てだったのかも...。
「ですが、常に正しある事を示した父は逮捕されました。 」
「っ!?...そりゃまたなんでか聞いても...?」
「痴漢ですよ、警視総監が聞いて呆れるでしょう?」
「おぉう...。」
まぁ警察も一応一人の人間だから、なんだろうか...。
「でもあれだろ?冤罪とかの可能性も...。」
「目撃情報もあったし本人も認めましたから。 」
「おぉう...(2回目)」
「だから今、私に正しさを求めてくる存在はもう居ないのです。
あんなに私に正しさを求めて来た父にも正しくあり続ける事なんて無理だった。」
「ならお前はなんでそんなに...。」
「私は父のようにはならない。
これからも正しくあり続けてそれを証明する。
裏切られ泣き叫ぶ母を見て私は誓いました。
まぁもっとも...。
これまでも自分の正義の為に行動して疎まれていた私には、もうそれ以外の道なんて残されていなかったんです。
父の噂もあってクラスメイトからそれまで以上に腫れ物扱いされるようになっていた私には。
だから随分離れた学校に転校しても私は自分のスタンスを変える事はしなかった。」
「そりゃ、そうなるのかもな。」
「っ...!てっきりまだ否定してくるのかと...。」
「いや、だってそうだろ。
ずっとそんな生き方で生きて来たんだろ?
それ以外の生き方を知らずに生きて来たんだろ...?
どんなに後悔して今を嘆いたって今更進む事も戻る事も出来ないもんな。
今更変えたくても簡単には変えれないし、そんなに風変えようとする事って結局これまでの自分は間違っていたって認めるって事だもんな。
そんなのお前のプライドが許さないだろ。
お前の場合は常に正しくあろうとしてたんだから尚更だ。」
「あなたに何が分かって...!」
「言ったろ?俺だってそうだったんだ。
いじめられてた俺が変わろうとしなかったのはさ...誰も味方が居なかった中で自分まで自分が悪いんだって認めるのが怖かった。
これだけ辛くて、苦しくて寂しくて、なのにそれが全部自分のせいだなんて認められる訳ないだろ。」
「っ...!?」
「似てるんだよ、根本的なとこで。
だからほっとけない。
それじゃダメか?」
「あ、あなたと一緒にされるのは不服です!」
「そう言いつつそう思えるような話をしてくれるんだもんな?」
「それは、あなたが勝手に話したから私も話さなければフェアじゃないと思ったからで...。」
「はは、お前らしいな。
それでも良いよ。
お前はお前の正義に基づいてやった。
でも俺はそれで共感したり、その頃の自分に味方をしてもらえたような気がした。
だからありがとう。」
「っ...!勝手な想像で勝手に感謝されても困ります!」
「感謝するのは自由だろ?
と言う訳でお礼にちょっとしたお節介をさせてもらう。」
「何を言って...」
「あ、もしもし?」
「ちょ、まだ話は...。 」
「今から行くってさ。」
「何を言って...。」
「ここに居たのね、片杉さん。」
そこから数分後、そんな声と共に非常階段のドアが開かれる。
「あ、綾瀬会長!?」
そう、俺が召喚したのはハルたん会長である。
「ど、どうして綾瀬会長がここに...。」
「あなたさえ良ければだけど片杉さん、生徒会に入らないかしら。」
「っ!?」
「副会長は瑞穂で決まったけど、そうね、あなた新聞部だし広報なんてどうかしら。」
「私が...生徒会に?」
「えぇ、あなたが良けれだけど。」
「でも...。」
そう言って顔を伏せる片杉。
「私と部長が作った新聞は生徒会にも迷惑をかけてしまいました。
当然綾瀬会長にも。」
「えぇ、そうね。
あの新聞の件が広まった時のクレーム対応は中々に骨が折れたわ。」
「うぅっ...。」
「でも別に苦じゃなかったわ。
瑞穂を選んだのは私だし、あの子の事だから遅かれ早かれこうなる事は分かっていたし。
選んだ地点でそうなる覚悟はしてたつもり。
...まぁそれとは別にしてあいつにはそれなりの罰を与えるつもりだけど。」
おぉう、、ご愁傷さま、、
「悠太君?あなたもよ?」
「うぇっ!?なんで!? 」
「自分の胸に聞いてみたらいいんじゃないかしら?」
ニコリと笑うハルたん会長が悪魔に見えた、、
「それにあの先輩と一緒に仕事なんて...。
向こうも嫌がるのでは...?」
「そもそもお前を生徒会に誘おうって最初に言い出したの、アイツだぞ?」
「...え?」
「そうね、あなたが演説で私に憧れて生徒会副会長になろうと決めたと聞いて気になっていたけど、こうして誘おうと決めたのは瑞穂が言い出したからよ。」
「なんでそんな事を...同情のつもりですかね...?」
「ん?」
「自分が勝ったからって負けた私に対する当て付けのつもり「瑞穂はそんな奴じゃない。」っ!?」
俺が断言すると、片杉は怯む。
「アイツなりにお前と仲良くなりたいって事だと思うぞ。」
「私と、彼女が...。」
「私もそう思うわ。
確かに清楚系ビッチなんて言われてるけど、あの子結構面倒見はいいもの。」
「あぁ、確かにハルたん会長も「悠太君?」なんでもありません!?」
ひーん怖いよぅ...。
「コホン、それで?どうするの?」
改めてハルたん会長が片杉に向き直る。
「...本当に良いのですか...?
私、めんどくさいのでは?」
「自分で言うんだ...。
別に良いわよ。
選んだのは私だもの、何かあれば責任も取るつもりよ。」
「っ...!で、出来るのでしょうか...私に。」
「出来ると思ったから立候補したんだろ?」
「そうですが...。」
「なら大丈夫。
私もフォローさせてもらうわ。」
「はい...では...その...やってみたいです。」
と、言う訳で生徒会に新たに片杉さんが加わる事となったのだった。
「ゲスミも...その、一応ありがとうございます。
」
「感謝すんのか罵倒すんのかどっちかにしろっての...。」
「ではゲスミンに格上げしてあげます。」
「いやそれ格上げなのか...?
ンが付いてちょっと可愛いくなったってだけだろ...。」
「あなたに可愛いさなんてやっぱり似合わないですね。
やっぱりあなたはゲスミで充分です。」
やっぱりンを付けたのはそう言う目的かよ!
こりゃコイツと仲良くってのは前途多難そうだ...。
でもこれからの生徒会活動がコイツにとっていい影響になる事を願うばかりである。




