清楚系ビッチVS堅物眼鏡
「そんな事があったんだ。」
片杉真進が生徒会室に乗り込んできた日の夜。
部屋で寝転がって今日あった事を思い返していると、当然のように日奈美が部屋に入ってきて横に座った。
そう言えばあの女子は自分が1年だと言っていたなと思い出し、とりあえず身近にいる1年女子の日奈美に話を聞いてもらおうと思った訳だ。
「片杉さんを知ってんのか?」
「うん、一応クラスメイトだし。」
まさかのクラスメイトだった…。
「日奈美から見たらどう言う印象なんだ?」
「え?うーん。
凄く真面目で、クラス委員をやってて…成績も学年一位で…。」
「優等生って感じか。」
「うん。
でもちょっとクラスでは浮いてる感じなんだよね。」
「浮いてる?」
「うん…。
その、あんまり人のこと悪く言いたくないんだけど、片杉さんって結構思った事ズバズバ言っちゃう人だから…。」
「あぁ…それは確かに…。」
それに関してはもう既に認知済みである…。
あの後…。
「おうおう、黙ってたら好き勝手言ってくれんじゃん?後輩の癖してさ。」
「私は敬うに値すると評価した人間以外は敬わない事にしているので。
あなたが先輩であろうとそれは関係ありません。」
「カッチーン…。」
あ、瑞穂の堪忍袋の緒が…ってかそれを実際に口に出してるやつ初めて見たんだが…。
「繰り返し言いますが今日私がここに来た目的は一つです。
今すぐこの二人をクビにして生徒会副会長の座を私に渡してください。」
わたしにわたし…多分無自覚なんだろうけど…。
無自覚だからこそツボに…。
「なんですかニヤニヤと気味が悪い。
ニヤニヤしてればどんな女子でも落とせると思わないでください。」
くぅ…!
「はん、あなたの目的は分かったけどさ。
そんな事を決める権限があなたにあるとでも?」
「確かに、私個人にはありませんね。」
「なら…「あくまで私個人にはです。」何が言いたいの?」
「私は新聞部に所属しています。
あなた達の噂について私が描いて掲示すれば、どうなるか分かりますよね?」
そう来たか…。
うちの学校には学校新聞と言う物があり、それは1週間に一度新聞部が制作、完成した物は校門近くの掲示板に貼り出される事になっている。
そしてそれは校門近くだからこそ、登下校中多くの生徒の目に触れる事となる。
当然噂についてある事ない事描かれたら、それが多くの人間の目に晒されて事実として認知されてしまう。
「もしそうなれば綾瀬会長、あなたも無傷では済まないのでは?」
「…確かにそうね。」
これにはハルたん会長も頭を抱える。
「でもどちらにしろ、生徒会に入る事は出来ないと思うぞ?」
「どう言う意味ですか…?」
流石に黙ってばかりもいられず、俺も口を挟む。
「生徒会のメンバーはさ、うちの学校では基本会長になった人の指名制なんだよ。
まぁ最初は希望者を募ってやろうとしてたみたいなんだけど思いの外希望者の人数が多すぎてな抽選になったりもしたがな。」
「でもそれだとロクな人材が集まらなかったのよ…。」
「ウチと絵美も抽選で選ばれた口やけどウチらぐらいやで、マトモに仕事しとったん。」
二人もだったのか…。
それは初耳だな…。
「それです。
私もそれは納得出来ません!
綾瀬会長程の人材なら慕って共に働きたいと思う人間が多数いるのも頷けます。
ですが抽選と言うのは納得がいきませんし、綾瀬会長とあろうお方が直々に指名した人材がこんなビッチとゲス野郎だなんて!
綾瀬会長ならもっと素晴らしい人材を選べた筈です!
きっと素晴らしい人望と人脈、そしてその中から瞬時に才能を見抜く目で!」
それにその綾瀬会長ことハルたん会長は冷や汗ダラダラ垂らしながら渋い顔をしてらっしゃる。
分かる、分かるぞ…!
ハルたん会長の今の気持ちが…!
そもそも自分で指名出来ないからこその希望者を募る、抽選と言う流れなのだ。
最初からそんな人を見抜く目があるのならそもそもそんな段階なんて必要ない。
そして何より指名するような相手がいないから身近に居た俺たちに指名が回って来ていると言う地点でもはやお察し…。
「いやいやハルたんには無理っしょ。
だってハルたん友達…「うぇっほん!」」
瑞穂の発言を遮る大きめな咳払い。
「これでも二人は私の目で選んで採用した人材だから。」
うんうん…そこをぼやかすならそう言うしかないよね…。
「綾瀬会長、本気で仰っているのですか?」
片杉さんの目が鋭くなる。
「どう言う意味かしら…? 」
「親は一流企業の社長。
それを引き継ぐかのように成績は常に全ての科目で一位。
そんな優秀な能力を当時の会長に買われて1年次には生徒会副会長。
2年で生徒会長に上り詰めた貴方が、こんなどこの馬の骨とも知れないビッチとゲス野郎を選ぶだなんて…。」
おぅ…清楚系すら付けない…。
「だから、それは…。」
「悠太はそんなゲス野郎じゃないもん!」
これには絵美も反論する。
「え、絵美。」
「なんですか…?」
「それに悠太を会長に教えたのは私だから!会長は悪くないもん!」
「絵美…。」
それにハルたん会長も思わず名前を呼ぶ。
「津川さんやってウチらの仕事でミスした時とかはカバーしてくれたり手伝いに来た人に適切に仕事割り振ったり生徒会の為に動いてくれとったで。」
これに蘭ちゃんも参戦。
「ふ、藤沢さん…。
あ、ありがと。」
それに瑞穂が一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに返す。
「え、えっと!悠太はちょっとアレだけど!
その!居るだけで癒されるから!」
うん、ちゃんとフォローして?
俺庶務じゃなくて実は生徒会のマスコットだった?
ミスミン頑張っちゃう!
応援してね!
「癒しを求めるだけならハムスターでも飼えば良いと思いますが。」
「うぅっ!?」
そしてそこで言い負かされないで!?
「は、ハムスターは可愛いけど悠太の可愛いさはまた別ジャンルと言うか…。
お腹とか柔らかくてずっと撫でてられると言うか…!オヤツを見せたら喜んで来たりとか!」
ちょっと!?悠太と悠太が混同してない!?
と言うか片杉さんにもゴミを見るような目で見られてるし!?
かと思ったら露骨にため息吐かれた。
「そんなのハムスターで良いじゃないですか。
うちのハムスターはいつでもさせてくれます。」
急にハムスター出してきたと思ったら飼ってるのか。
「それは…その…だから…。」
「絵美…もう良いから…。
お前はよく頑張ったから…。」
「あう…。
違うもん…。
悠太じゃなきゃダメなんだもん…。」
あ、なんかいじけちゃった…。
なんだか可愛いらしい発言が聞こえた気がするが多分犬の事だろうなぁ…。
「こほん…兎に角、二人は快く引き受けて精一杯やってくれているわ。
あまり悪く言わないでちょうだい。」
快く引き受ける前に採用されてたどうも僕です。
いや、言わないけど…。
「何故ですか…!?
何故私では駄目なのですか!?」
それに片杉さんはまだ納得いかないとばかりに食いさがってくる。
「そうは言ってももう決まった事だから…。」
これにはハルたん会長も困り顔。
「話は聞かせてもらった!ガウ!」
と、急に生徒会室のドアを開いたのは我らがリュウたん校長。
「校長先生…入室の際はノックを…。」
「ガウッ!」
「えっと…私がノックしたらドアが壊れるから駄目だって言ってるな。」
「いや今のでなんで悠は分かっとん!?」
なんでだろう…作者補正…は駄目だな。
絵美のペット設定がここで役に立った。
うし、これだ。
「いや…それでも分かるわけないでしょ…。」
瑞穂に呆れられた…。
「ガウガウ!」
「何々…え!?」
「え?何!?」
「それなら副会長を改めて選挙で決めれば良いって言ってる…。」
「しかもほとんど同じ鳴き声なのにめちゃくちゃ細かい内容で言い当てるやん…。」
蘭ちゃんがげんなりした表情でツッコんでくる。
「ちょ、ちょっと待ってください!
会長選挙は兎も角副会長を選挙で決めるなんて…そんなの前代未聞ですよ!?」
これにはハルたん会長も驚いて口を挟む。
「ガウガウガウ!」
「ふむ。」
「な、なんて言うとるんや!?」
「変化無くして成長はならず。
決まりきったルールに縛られていては大きな成長は生まれない、と言ってるな。」
「あの鳴き声にそんな深い意味が!?」
「いや…でも…。」
まだ納得がいかない様子のハルたん会長。
「まぁまぁ、良いじゃん。
ようは勝てば良いんじゃん?」
対して瑞穂はそんな風に余裕の笑みを浮かべる。
「あなたと意見が合うのは誠に遺憾ですが私も同意見です。
それに負けるつもりもありません。」
「ふ、ふん、その生意気な態度をへし折ってあげるから。」
「逆にへし折られないと良いですがね。」
「何おぅ!?」
バチバチと火花を散らす両者。
「ガウガウガウ。」
「詳細は追って連絡する。
次の連絡までに応援演説をする相手を探して準備をしておくように、との事だ。」
「もはやツッコまんわ…。」
あ、蘭ちゃんが遂に諦めた…。
と、まぁそんな感じで急遽副会長を選挙で決め直すって話が出た訳だが。
「悠太は勿論あたしに付くよね?」
「まぁ…片杉さんは俺らを名指しで外そうとしてる訳だしな。」
そんな訳で瑞穂の相方はそうそうに俺に決定。
後は片杉さん側がどうなるか、だが…。
「うーん…片杉さん誰にお願いするんだろ。」
話を聞いていた日奈美が、可愛いらしく小首を傾げる。
可愛い。
「心当たりとかないのか?」
「うん。
だってさっき言ったと思うけど片杉さんクラスでも浮いてるから…。
誰かと親しそうに話してる所とか見ないし。」
おぉっとぉ…?これは雲行きが怪しくなってきたぞぅ…?
でもなんか瑞穂に対しては余裕ぶっこいて煽ってたしなぁ…。
何か考えがある…んだよな?
「とりあえず日奈美、ちょっと様子を見といてもらえるか?
俺は俺で他の方面から彼女の情報を探ってみるから。」
「うん、分かった。
でもあんまり期待はしないでね……。」
「おう。」




