仲間と絆
「人の事を上司だなんて言った癖に、そんな私を差し置いて社長出勤だなんていいご身分ね?悠太君。」
めちゃくちゃ怒ってらっしゃる!!しかも上司だって言った事までちゃっかりバレてるし!?
瑞穂に連行された生徒会室でドアを開けると、ハルたん会長がドア前に仁王立ちしていた。
笑顔が!笑顔が怖い!
「遅刻どころか帰ろうとしてたしね。」
「ちょ!!瑞穂!?」
「…へぇ?」
「滅相もありませんっ!?」
「一応言い訳を聞きましょうか。」
あ、これ顔は笑顔だけど返答間違えたらアウトなパターンだわ、、
間違えたらハルたんチョップ待ったなし…いやそれで済めばいいけど…。
「悠太君?」
「はいっ!」
普通に忘れてたなんて言ってみろ…。
チョップ所かクロスチョップ…いやインファイト案件である…。
「えっと…夏休みの宿題が…その終わってなくてですね…。」
「悠太君、今日は何の日だったかしら…?」
「はいっ!始業式の日です!」
「なのに終わってなかったの?」
「お、仰る通りでございます!」
「全く、悠太は詰めが甘いよね。」
瑞穂がやれやれと肩を竦めながら言う。
「うっ…。」
「夏休みの宿題なんて最終日に一夜漬けで終わらせるもんだよ?」
「んな訳ないでしょうが。」
「あだっ!?」
いやそう言うお前も一夜漬けだったんかい…!
いや…それでもやりきってるし俺より断然すごい訳だが…。
と、ここでハルたん会長がため息を吐く。
「まぁ良いわ…。
とにかく生徒会の人間になった以上他の生徒の模範となる生活態度が求められるの。
宿題を終わらせてない、なんて言語道断よ。」
「そうだよ、全く計画性が無いんだからさー。」
「「あんた(お前)が言うな。」」
瑞穂の言葉に思わずツッコミのタイミングがハルたん会長と被る。
「あたしはちゃんと終わらせてるもーん。
おかげでちょっと寝不足だけどー。」
「そう言うのが無計画だって言ってんのよ。」
「あだっ!? 」
「私達はちょこちょこ二人で教え合いながらやったよー!ね?」
「そやなー。」
絵美の声かけに蘭ちゃんが頷く。
この2人本当仲良いよなぁ。
夏祭りの時は会わなかったけどその時も一緒に勉強してたのかなぁ。
「え…。」
意外そうな表情のハルたん会長。
あ、これ知らなかったやつだな…。
「会長どないしたん?」
「い、いえ…なんでもないのよ…。
ほ、本当になんでもないの…。 」
自分だけ誘われなかったの気にしてそうだよなぁ…。
「ふ、二人って仲良いよな?よく一緒に遊んだりするのか?」
「え?うん。
家も近いし、夏休みはお互いの家に行ったり来たりして勉強したり、外に遊びに行ったりしたかな!」
「そ、そう…。」
絵美の返答に、ハルたん会長の表情が一層曇る。
あちゃー…これは地雷だったか…。
「蘭ちゃんちの猫ちゃん本当可愛いの!
お腹とかも触れたんだけど本当いつまででも触ってられるくらい気持ちよくてね!
あ、そうだ!悠太!お腹撫でて良い!?」
「うん、今の話の流れでうん、いいよってなると思うか…?」
「えー良いじゃん!
一日中ずっと撫でてたいなぁ。」
何それ案外悪くない気がする…!
「悠太?」
「はい!嘘です冗談です!」
そんな事を思っていたら、瑞穂がゴミを見るような目で睨んでくる。
と言うか口に出してないんだからそんな顔しなくても良いじゃない、、。
「ね、蘭ちゃん!皆に写真見せてあげようよ!」
「お、そうやな。」
絵美の提案に蘭ちゃんは快く了承して、ポケットからスマホを取り出す。
「ほら、この子やで。 」
手際よくスマホを操作して、猫の画像を見せてくる。
見せられたのはさっき話に出た絵美が猫のお腹をナデナデしている所の写真だ。
ふむ、チャトラか。
英語ではジンジャーキャット、レッドマッカレルタビーとも呼ぶ。
生姜猫ってなんだろ、、と調べたら茶色の毛色が生姜に似てるから、らしい。
「へぇ、確かに可愛いね。」
写真を見て素直に感想を述べる瑞穂。
対してハルたん会長は、その画面を食い入るように見つめていた。
その瞳はまるで小さな子供が玩具売り場で凄く欲しい物を見つけて目を輝かせているような感じ。
「猫…可愛い…。」
普段は完璧生徒会長だなんて言われてるけどたまにこう言うあどけない仕草を見せたりするとこ、本当可愛いよなぁ…。
「あれ?会長そんな猫好きやったん?」
「大好きよ!クマッキーと同じくらい!」
まさかのクマッキーと同列だった、、。
まぁ手の動きとかもなぁ…。
今にも画面の中の猫を撫でたそうにウズウズしてるような感じになってるし…。
「あのさ、二人っていつも一緒に居るイメージだけど会長を誘ったりはしないのか?」
「え?
うーん、あんまりかなぁ。」
絵美のその返事に、ハルたん会長がバツの悪そうな表情を浮かべる。
「一緒に帰ったりとかは…?」
「それもあんまりかな?
会長帰るの遅いし。」
「そ、そうか。」
そう返すと、瑞穂に唐突に引っ張られる。
「ちょいちょい、何?いきなり…。
ハルたんの傷をエグる気?(小声)」
「あぁいや…そう言うつもりじゃなくてさ。
なぁ、絵美と蘭ちゃん。
二人はハルたん会長の事好きだよな?」
「ゆ、悠太君!?いきなり何を聞いて…!?」
「うん!」
「勿論!」
「え…?」
「だってな?今まで三人でやっとったけど会長はいつもウチらに余計な負担かけんように遅くまで頑張ってくれとるんやで?」
「そうそう!
私はもう少し残りの仕事進めてから帰るから二人は先に帰って良いわよって。
しかもそれを嫌な顔一つしないでちゃんと優しさから言ってるのがちゃんとわかるんだもん。
良い人過ぎて嫌いになんかなれる訳ないよ!」
「せやな。
ウチらとしてはもうちょい頼ってくれてもえぇのになぁとは思うけどなぁ。」
「そうだよ!会長が陰でずっと努力してたの知ってるんだよ?」
「あ、あなた達…。 」
「料理も苦手だったみたいやしな?」
「…瑞穂?」
バラしたの?と言いたげにハルたん会長が瑞穂を睨んだが、瑞穂は知らない知らないと手を振る。
「いや、あんなん近くで見よったら分かるやろ。」
そう言って笑う蘭ちゃん。
「朝も弱いしねー。」
「だ、だからそれは!」
「せやから会長、無理して頑張らんとたまにはウチらに頼ってぇな。」
「そうだよ!これまで一緒に頑張って来た仲間じゃん。」
「絵美…蘭…。」
名前を呼びながら、ハルたん会長が瞳を潤ませる。
「今は俺らも居るしな。
なぁ瑞穂。」
「ま、乗りかかった船だしね。」
「ね!折角人数も増えたんだし仕事に一段落ついた時にこのメンバーで打ち上げとかしたいよね!」
「えぇな!」
「うん、うん。」
元よりここまでなんだかんだ一緒に頑張ってきた仲間なのだ。
きちんと腹を割って話をするきっかけさえあれば、こうして今までよりもずっと距離を縮められる可能性なんて幾らでもあったのである。
「その、今度お家にお邪魔しても良いかしら……あ、後たまには一緒に帰ってみたりとか……。」
「「勿論!」」
改めて三人の絆を感じさせられる一日となるのだった。




