好きこそ物の上手なれ
カフェを出てすぐ。
「今度はどこ行くんだ?」
「うーん...そうだなぁ。
ね、悠太。」
「ん?」
「撒かない?」
「へ?」
そう言って瑞穂は急に俺の腕を強く掴み……全力で走り出した。
「ちょ!?おま!?」
これには流石のハルたん会長もいきなりの事過ぎて出遅れた。
その間に瑞穂は俺の腕を引っ張りながら走る、走る。
その顔のとても楽しそうな事……。
それを見てると、一緒に学校を抜け出した日の事を思い出す。
そう言うヤンチャさと言うか……。
無邪気さと言うか。
そう言う姿だけ見るとちゃんと年相応……いや……それよりだいぶ若く見えるんだよなぁ……。
でもあの時見た黒い何かは今も忘れな……ゲフンゲフンいやなんでもないです。
「何、急に咳払いなんかして。」
走りながら聞いてくる瑞穂。
「いや、別に。」
「ふーん?」
しばらく走って完全にハルたん会長の姿が見えなくなると、一息ついたように瑞穂は手近な壁に背中を預ける。
「はぁ!こんなに思いっ切り走ったの久しぶりだ! 」
「良いのかよ...?多分後からめちゃくちゃ怒られるぞ……。」
「大丈夫大丈夫!ハルたんもなんだかんだ最後は許してくれるから!」
多分それまでに何十回とチョップが炸裂しそうだがな……。
それにしてもついでに撒けたかと思ってたのに普通にまだついてきてる志麻は流石というか怖いと言うか……。
どんなに離れてても地の果てまでついていくから!と言う無言の圧ががが……。
GPS恐るべしっ!
でもハルたん会長も金持ちだしその気になればリムジン呼び出したりヘリで空から探したりとか普通にしそうなんだよなぁ……。
「とりあえずなんか建物の中にでも入ろっか。」
「お、おう、そうだな。」
GPSで居場所把握してる志麻はともかく……いやともかくじゃねぇんだわ……。
まぁとにかく先に述べた方法でも、流石に建物の中を探すのは難しいだろう。
「とは言ってもどこに行くんだ?」
「ねーさっきはあたしが決めたんだしさ。
次は悠太が決めてよ。」
「え!?」
「あ、ちゃんと大人のデートにあった場所でね。」
唐突な無茶ぶり。
「いやいや!急に言われても!」
「そんな難しく考えなくいいよー。
あたしは別に何処でも良いから。」
「いやだからってお前……。」
「ほら、早くしてよ。
ハルたんに見つかっちゃうじゃん。」
無茶ぶりが酷い!
「い、いやほら志麻にはもう見つかってるし。」
「あぁ、あれは撒くの無理だからノーカンで。」
既に諦められてて草。
「別にあたしは悠太となら何処でも良いってば。
なんならこのまま逃避行しちゃう?」
頭皮行だって!?あ、逃避行か……。
今はちゃんとあるんや……。
いかんいかん...現実逃避の為にまた余計な事を考えてしまった、、現実頭皮っ!
「何やってんの……?」
頭を抱えて苦悩してると瑞穂に呆れ顔でツッコまれた。
「いや、髪って大事だなって……。」
「うわ、ものすごくしょーもない事考えてそ……。」
何を言う……!
頭皮の問題は中年男子にとって一生の悩みなんだぞ...!
「だ、大体お前良いのかよ?逃避行なんて……。」
「良いって言ってんじゃん。」
「いやお前そう言うのは……。」
「好きな人とやれって?」
「うっ……そ、そうだよ。」
「悠太さ、あたしにお前俺の事好きなのかって聞いたじゃん?」
「え、あぁ……。
な、なんだよ急に。」
「好きだよ?
この日の為に選んだ服を着て家を出たのに、やっぱり変だと思えてきて着替える為に家に戻るって言うのを何度も繰り返すぐらいには。」
「っ...!?」
そ、それで遅刻してきたのか……。
「あたしだってさ、可愛いく見られたいなって思うんだよ。
でもそれだけ考えて決めたコーデなのに結局今日の服装に対して悠太は大人っぽいって言っただけでなーんか失礼な事考えてたりでさ。
ちゃんと褒められた気がしないなー。」
「うぅっ!?」
「さ、あたしは悠太の質問にちゃんと答えたよ。
今度は悠太の番だよね?
行先は?
今日のコーデのちゃんとした感想は?
あとあたしの告白に対する返事は?」
そっちは一つの質問に答えただけなのにこっちは3倍になって返ってきたんだが!?
「そ、そんな事、きゅ、急に言われても……。」
「ほらほら、早くしないとハルたんに追いつかれちゃうってば。」
要求がさっきより増えて状況が悪化してる!?
くそっ、と、とりあえず……。
「その、めちゃくちゃ似合ってる。
普段の印象と全然違うのにバッチリ着こなせてて……やっぱ改めてすっげー可愛いと思う。」
そう褒めると、瑞穂は一瞬呆けた表情になり。
「ふ、ふーん。」
そう言って照れくさそうにそっぽを向く。
こ、コイツこんな表情もすんのか……。
※お化け屋敷は暗かったので瑞穂がその時も同じような顔になっていた事を悠太は知らない。
あぁ!いつの間にかまた志麻が高そうなハンカチを!
それにめっちゃ瑞穂を睨んでる!
「そ、それで?
そんな可愛いあたしをどこに連れていくつもり?」
「そ、それは……!」
えぇい!ままよ!
今度は俺が瑞穂の腕を掴んで引っ張って走る。
うぅっ!背中から志麻の殺気立った視線を感じる!
「あは、悠太積極的!」
そんな事言いながら呑気に走る瑞穂。
くそぅ、人の気も知らないで!
そして、俺達がやってきたのはと言うと。
「……ヘタレ。」
めっちゃ露骨に顔を顰めて言われた。
「し、仕方ないだろ!? 」
俺が瑞穂を連れてきたのは駅前のカラオケ店。
「それとも何?
個室だからここでもヤレるって?」
「違うわ!?」
「えぇ、返事聞かずに連れて来られたからそういう事かと思ったのに!」
「そんな訳ないだろうが!?
ここはカラオケ!歌うところ!!」
「えー?でも付き合ってた時はここでキスだってしたじゃん!」
「っ!?」
そうだ……!認める。
確かに俺は瑞穂と付き合ったその日にカラオケでオールし、その際にキスをした。
流石にそれ以上はしてない!してないったらしてない!
「あの日みたいにする?」
「いやいやいや!?しねぇわ!」
「えー、なんでよ?」
「なんでって……。」
「目の前に自分の事を好きと言ってる可愛い女子が居てしていいって言ってるのに男子が断る理由とかある?」
「いや、でもそれは違う……だろ。
まだ付き合ってないのに。」
「なら付き合う?」
「い、いやそれは……。 」
「もう、はっきりしなよ!」
「そのお前とは付き合えない……。」
「……!へぇ?」
一瞬驚いた顔をする瑞穂。
「それって恋愛をもうしたくないから?」
「……そうだよ。」
一番の理由はそうだ。
あんな惨めな思いをするくらいなら、それを繰り返すぐらいなら恋愛なんて二度としたくない。
それに俺自信が瑞穂の事を恋愛的な対象として見れているかと言うと、まだハッキリ分からないのだ。
「そんな気持ちで誰かと付き合うなんて俺には出来ない。」
「かー……相変わらず馬鹿真面目だよね。
まさかあたしが逆に悠太にフラれる日が来るなんてなぁ。」
呆れ顔で頭を抱える瑞穂。
それは本当にそうだ……。
普通誰かをフルなんて言うのは片側が成立したらそこで終わりだ。
俺達みたいな関係がそもそもイレギュラーなのである。
「まぁ、そんな人を好きになったあたしもあたしか……。」
かと思えば盛大にため息を吐く。
「良いの?あたしみたいな可愛い女子に告白される機会なんてもう人生で無いかもよ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……。」
「普通に残念そうにしてんじゃん……。」
「い、いやそれは……。」
「でもさ、知ってるでしょ?
あたし、負けず嫌いだから。
悠太にその気が無いならその気にさせるから。」
そう言って一度言葉を切り。
「だから、覚悟しといてね?」
彼女はフラれた後は思えない程、強気な態度で、まるで勝ちを確信しているかのようにニヤリと笑うのだった。




