それでも観覧車はゆっくりと回っていた。
「悠太!こっちこっち!」
「ワンっ!」
次に選ばれたのは絵美で、場所は広場だ。
と言うか狙ったような配置な気もするが...。
今はその広さを活かして、絵美とキャッチボールならぬキャッチフリスビーをしている。
「悠めっちゃノリノリやん...。」
蘭ちゃんに呆れられたが、仕方あるまい。
俺は形から入る男、三澄悠太である。
お前クマ耳カチューシャだろって?
クマだってたまにはワンと鳴きたくなる時くらいあるだろ。(大嘘)
それにしても、なんと言ってもこの敷地の広さである。
やんちゃなキッズ大喜びの広さで、普通に公園の遊具まである。
バトミントンやバランスボールの貸出もあり、家族でもデートでも楽しめる。
ちなみにフリスビーの貸出は無い。
この娘、持参である。
本当に志麻と言いこの子といい準備良すぎない?
いや、志麻は持って来させたんだった、、。
「フリスビーいつもカバンに入れといて良かったー!」
まさかの常備で草。
フリスビーなんか遊ぶ時ぐらいしか使わないし普通に邪魔だろうに、、
いや、でも雨とか降った時の傘代わりに...なるか馬鹿野郎w
やっぱり邪魔である...。
それにしても本当楽しそうだよな...。
一時期は疎遠になり、修復不可能かと思われた絵美との関係だが...。
今ではそれがまるで嘘だったかのように笑い合えている。
今こうしてこの笑顔が見れているのだから、和解できて良かったのだろう。
まぁ楽しそうにしてる理由が理由なだけに複雑な訳だが...。
「悠太!キャッチ!」
「ガウッ!」
「完璧に獣人化しとるやん!?」
やるからには形から入る男、三澄悠太である。
さて、ひとしきり絵美と広場でキャッキャウフフ「いや...それを言うならワンワンガウガウ...。」
キャッキャウフフしてから。
「絶対譲らんやん...。」
さて、絵美と存分に戯れた後。
「さ、遂に次でラストだよ!
遊園地のラストと言えばやっぱり観覧車だよね!」
観覧車、か。
確かに辺りが暗くなり始めたこの時間からの観覧車はロマンチックだし、ライトアップとかもされるらしい。
フィナーレにピッタリなチョイスと言えるだろう。
問題はその相手だ。
こんな所で満を持して秋名たんと二人でなんてなったら目も当てられない。
まぁ……喜ぶやつも居るだろうが……ハッチーとかハッチーとか。
そう考えてたらハッチーが一瞬ニヤリと笑った気がした。
「悠兄からBLの波動を感じたから...グフフ...。」
何それこっわ。
と言うかBL展開どころか観覧車が重量オーバーで墜落する可能性すらあるぞ...。
「いや流石にそこまでじゃねぇわw」
遂には秋名たんにまで心を読まれただと!?
「いやあたしが言ったからだよ。」
なんだよ...。
っていうか瑞穂さん...さりげなく自分は読めるって認めてないかしらん...。
「さ、気を取り直して最後に選ばれたのは!」
話を逸らしやがった...。
「……瀬川さんだね。」
「「へ?」」
二人して変な声が出る。
「い、いやいやいや...。」
そこからまず先に反応を示したのは宏美だ。
「何?嫌なの?」
そんな宏美の微妙な反応に、怪訝な表情の瑞穂。
「嫌っていうか...。」
思いっきり目が泳いでる...。
ちなみに俺は彼女が何故そんな微妙な反応なのかの理由に心当たりがあった。
でもなら素直に断れば良いのに...。
「はい!じゃあなら私が代わりに!」
ここで元気よく志麻が挙手をする。
「そうはいかないんだから!
お兄ちゃん!私と乗ろ!」
それに割り込むように日奈美が言う。
「まりだってまだ選ばれてないもん!」
「選ばれてなくても割り込んで来た癖に!」
「まぁまぁ皆さん落ち着いてくださいぃ。
悠さん、ここは間をとって私とご一緒しましょうぅ。」
「「あ!先生ずるい!」」
ずるいとしても魅力的な提案!
でもなぁ...。
なんとも気まずそうにこちらを見る宏美。
「良いの?瀬川さん。
乗らないならあたしが乗るよ。」
そんな宏美に見かねてか、瑞穂が声をかける。
「っ...。」
心苦しそうに口ごもる宏美。
なんでそんな顔すんだよ...?
瑞穂も瑞穂でなんでそんな煽るような言い方...。
「と言うか本人がまだ何も言ってないじゃない。
代わりをどうするかよりまずは本人がどうしたいかでしょ?」
と、ここで口を挟んだのはハルたん会長だ。
「でもハルたん、瀬川さん見るからに嫌そうじゃん。」
「そんなの本人に聞かなきゃ分からないじゃない。
その上で嫌なら嫌でまた抽選すれば良いし。」
これには他のメンバーも一応同意したようで、肝心の宏美に視線が集まる。
それに宏美の肩が一度ビクリと震える。
見てられないな...。
「なぁ、お前こう言うのは確か...「大丈夫だから!」」
そんな俺の心配に被せるように宏美は叫ぶ。
「乗る!私!乗るから!」
半ばヤケクソと言う感じで宏美が叫ぶ。
それに瑞穂は小さく「そうこなくっちゃ。」と返す。
なんだ...?
でもまぁとりあえず...。
「良いのかよ?」
「い、良いって言ってるじゃん。」
めちゃくちゃ目が泳いでるし冷や汗ダラダラなんだよなぁ...。
「ほ、ほら行くよ!」
言いながら俺の服の袖を引っ張る宏美。
「あ、おい!引っ張んなって!」
と、言う訳で二人して乗り込んだ訳だが。
こう言う場所で男女が二人きり。
暗くなり始めて徐々にライトアップも始まって、その様子を少しずつ登っていく観覧車の中から一緒に眺める……。
……なんてロマンチックなシチュエーションがあると普通は期待するだろう。
でも残念ながらそんな物は無いっ!
「おい...本当に大丈夫かよ...?」
「だ、大丈夫だってば...。」
相変わらず冷や汗ダラダラ流しながら言われてもなぁ...。
そう...この娘、高所恐怖症なのである。
「だからやめとけって言おうとしたのに...。」
「だ、だって嫌だもん...。」
「ほん? 」
「べ、別に良いじゃん!
それとも私と乗るのそんなに嫌なの!?」
「いや...別にそう言う訳じゃないけど...。」
「な、なら良いじゃん。
っひ...!?」
体も使ってヤケになって叫んだが為にか車体が軽く揺れる。
「ほら言わんこっちゃない...。」
そう言いながら、コイツと付き合う事になった日の事を思い出す。
その前辺りからメールで思わせぶりな発言をしていた宏美。
夕方の観覧車と言うロマンチックなシチュエーションで告白して晴れてカップルに!なんて妄想を俺も最初はしたさ。
でも実際は終始ガクブルな宏美にそんな話出来る筈も無く...。
「本当に申し訳ない...。」
「いや仕方ないだろ...。」
「だってせっかく良い感じなシチュエーションだったし、多分悠太もそれを狙ってくれてたんだろうし...。」
「自覚はあったんだな...。」
「だって絶対チャンスだったじゃん。
でも私がこんなだから...。」
そう言って彼女は気まずそうに目を伏せる。
それを見て俺は小さくため息。
「お前とそんなロマンチックな展開なんて期待してねぇよ。」
「ちょ、それどう言う意味!?」
「どうこうもしないって、それがお前なんだろ?」
「うっ...。」
「だから別にシチュエーションとかどうだって良いだろ。
こう言う時にポンコツなのがお前で、その...そんなお前だから付き合いたいって思えたんだから。」
「うん、うん!」
「だからその付き合ってくれるか...?」
「勿論!」
こうして俺達は付き合う事になった。
「でもやっぱりこんな私だからって言われるのはちょっと複雑...。」
「はははー。」
「笑ってごまかした!?」
とまぁ...そんな感じのやり取りもしながら俺達は順調に交際を続けていた訳だが...。
今となってはそんな時間があったのかも疑ってしまう程遠い記憶に思えてしまっている。
でもこうしてポンコツな宏美を見てるとこんな風にその時の記憶が蘇ってくる。
「今ポンコツって思ってたでしょ...?」
「なんでお前らそんな俺の心読めんの...?」
「やっぱり思ってたんじゃん!」
まさかの誘導尋問!
「それに分かるから...普通に。
好きな人の事だったら……その……それだけ見てるし...(小声)」
「え?」
「うるさい!女の勘!」
「えー...。」
ほんと女の勘こっわ...。
ムキになって否定するがために体を乗り出したせいで車体がグラりと大きく揺れる。
「ひぃっ...!?」
「やっぱポンコツじゃねぇか...。」
「今度ははっきり口で言った!」
なんだか信じられない事を聞いたような気がするんだが...。
「い、今は違うから...!」
「何がだ?」
「き、聞こえてないなら良い!」
気のせい...だよな。
そう自分に言い聞かせ、また蓋をする。




