パンドラの箱
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「なんだひーちゃん。」
「もうすぐ誕生日だけど、何か欲しい物とか食べたい物とかあるー?」
リオが学校であれこれしている頃。
店休日で同じくバイトが休みの悠太は、その休みを利用して昼間っからリビングのソファでウダウダしていた。
そしてその傍らには日奈美が座っており、不意にそんな事を聞いて来た。
「おっ、ひーちゃんも祝ってくれるのか?」
「も?まだ当日じゃないのにもなの?」
「え、あぁ…実はもう宏美と美江から祝ってもらってて…。」
「え!そうなの!?」
「宏美からはプレゼント貰ったし、美江からは来週にあるライブのチケットを貰っててさ。」
「へぇ…。」
あれ、なんか不機嫌そう?
「あの、ひーちゃん?」
「お兄ちゃん、今から誕生日プレゼントを買いに行こ。」
「え?今から?」
「だって負けてられないもん。
ほら早く。」
「え、今日休みだしのんびりした「いいから早く。」あ、はい。」
「宏美さんからは何貰ったの?」
「えっと、帽子とTシャツ?」
「え、そうなんだ。
良かったじゃん私服が増えて。」
「あぁいや…なんて言うか…。」
「どうしたの?」
「あれを私服にするのはちょっと…。」
「えぇ…?」
いや、微妙な反応されてしまうのも仕方ない…。
「え、もしかしてあの…?部屋に飾ってあったやつ?」
「え、なんで知って…。」
「それはこの際どうでも良いけど。」
えぇ…どうでも良いのぉ…?
そう言えばたまに散らかってた部屋がいつの間に綺麗になってたみたいな事があったような…。
「てっきりクローゼットから出してきてまた着ようと思って置いといたのかと…。」
「少し前までの俺なら本当にしてたかもしれないから否定出来ないっ…!」
それにこのままでは一応!彼女なりに!精一杯!考えて選んでくれたプレゼントなのに…不遜な扱いを受けたまま終わってしまう…!
「あ、案外悪くないんじゃないか?シンプルだし…。
黒のTシャツは持ってなかったしちょうど良いだろ?」
「名前が入ってるのに?」
「うっ…!?
いや、無地の黒よりも何かしらの模様があった方が…!」
「でも名前だよ?」
「ギャフン!?」
「リアルにギャフンって言う人初めて見た…。」
ごめんなさい駄目でしたww
「まぁでもちゃんと宏美さんが考えて選んでくれたんだよね?
なら大事にしなきゃだよ?」
「あ、あぁ。
だから飾ってる…。」
「あっ……(察し)」
分かってもらえて何よりだが、この空気どうしてくれよう…。
助けて助けて志麻衛門!
「悠太!呼んだ!?」
「本当にすぐ出て来るよなお前…。」
「だってそこに居たし?」
廊下を指さす志麻。
白昼堂々不法侵入で草。
「またいつものストーカーか…?だからって不法侵入はやり過ぎ…「今日はちゃんと用があって来たもん!それにちゃんとノックはしたもん!」
「うん、そこはチャイムを鳴らそうな?
あとノックするなら玄関のドアだしこの部屋のドアじゃないからな…?」
「もぉ!要求が多いなぁ!」
えぇ……これ俺が悪いのかしらん……。
「まぁそんな事より!
私も悠太の誕生日プレゼントを用意したよ!
準備に時間かかっちゃったけど自信作だから!
早く渡したくてまだ早いけど来ちゃった!」
「ほう。」
志麻には誕生日教えてなかった筈なんだがそこはツッコんじゃダメなんだろうなぁ…。
「ずるい!私も買ってくる!」
慌てて飛び出していく日奈美。
「あ、ひな!…行っちまった…。 」
「やった!悠太と二人きり!
何する!?ねぇ何する!?」
「何もしません…。」
助けてほしくて呼んだ筈なのに状況をよりカオスにするのが志麻である…。
そもそもストーカーに助けを求めるのが間違いだった、、
「で?それよりプレゼントを渡しに来たんだろ?」
「そう!じゃあ悠太!この3つの紙箱から1つを選んで!」
そう言って志麻が出してきたのは大きさがバラバラな箱。
1つ目は大き…過ぎないか…?普通に志麻と同じぐらいの大きさなんだが?
2つ目はその半分くらいの大きさ。
そして3つ目はその2つを見ると随分小さく見える普通サイズのプレゼントボックスだ。
と言うかこんなのどうやって持って来たんだ…。
主に最初のやつ…。
「さ、選んで選んで?」
どうしよう…これどれを選んでもハズレな気がする…。
まさにパンドラの箱…。
明らかにデカイ箱はハズレな気がする。
「じゃあ…1番小さいやつで。」
「おぉ、悠太!流石お目が高い!」
あ、これもミスったかも…。
「中身はー!
私のぬいぐるみだよ!」
うんハズレだわ…。
・-・←目がこんな感じになってる実に可愛らしいぬいぐるみで、髪、制服など、作り込みのクオリティは無駄に高めである。
普通にクレーンゲームの景品とかになってても違和感無い…。
て言うか背中にチャックとか付いてないよな?
志麻が作ったやつだし普通にカメラとか入ってそう…。
「どうしたの?悠太。
チャックなんてないよー。
中に埋め込んでるから。」
「よし切ろう。
一思いに首を切ろう。」
「落ち着いて!?
そのハサミをしまって!?」
「えぇい止めるな!」
「違うから!カメラじゃなくて人感センサーとおしゃべり機能だから!」
「ユウタオハヨウ!ダイスキ!ダイスキ!」
「ほら!しかも音声のレパートリーは1000以上!
リアルタイムで色んな言葉を喋る優れものだよ!」
無駄に性能良すぎて草。
「ってかどっちみち電池切れたら切らなきゃいけないだろ。」
「だからって別に首じゃなくても良いよね!?
なにか恨みでもあるの!?」
「ソンナコトナイヨ?(裏声)」
「モノマネのつもり!?似てないし誤魔化せてないからね!?」
「と言うかこれ俺の名前しか言わないのか?」
「だって悠太の名前しか覚えさせてないし。」
おぉん…。
志麻らしいと言うかなんと言うか…。
「…一応聞くけど他のはなんだよ…?」
「えー気になる?悠太ったら欲張りだなぁ。
でも良いよ!全部あげちゃう!」
結局選ぶ意味無くて草。
と言う訳で次は中サイズの箱。
「私の抱き枕だよ!
どう?可愛いでしょ?」
今度は以前の夏合宿でお披露目された水着姿の志麻がプリントされた抱き枕。
表情がちょっと色っぽい!
これもたまにクレーンゲームとかで見るやつっ!
「こ、これもハズレで草…って触り心地むっちゃ良いな。」
「素材にこだわってるからね!」
「た、確かに抱き心地も良い…!」
人をダメにするクッション…なんて物もあるが、これはそれを彷彿とさせるクオリティ!
あぁ…!ダメになりそう!
「むぅ…悠太が私の絵が入った抱き枕を抱いてくれるのは嬉しいけどちょっとモヤモヤする…!
悠太!本物も抱き締めて!」
自分から贈っといて抱き枕に嫉妬してて草
「いや、間に合ってるからそれは良い…。
あと最後の一つか…。」
名残り惜しい…本当に名残り惜しいが抱き枕を一度離して横に置く。
どうしよう…開けたくない…。
「私が開けるね!」
「あぁ!なんて事を!」
「私の等身大フィギュアだよ!」
「それはマジでいらない…。」
うぉっ、でも相変わらずのクオリティ…!
ぬいぐるみのデフォルメ感とは異なり、今度はリアルなドールとして志麻を再現している。
しかも驚きの全身可動式。
着ている制服も普通に店頭に並んでるレベルである。
「その制服私の予備のやつなんだよね。」
「ブフッ!?」
まさかの本物で草。
え、これ髪の毛まで本物とか言わないよね…?
時間かかったのそのせいとかだったら真面目に怖いんだが。
「お前この髪も本物とか言わないよな…?」
「そんな訳ないよ!?
普通にウイッグだよ!?」
「じゃああれか!夜中に急に伸びちゃったりするのか!?」
「私の人形は呪いの市松人形とかじゃないから!?」
なら安心…いや…どっちにしろ結局全部ハズレじゃないか…。
まぁ…でも抱き枕だけならたまには使ってもいいかも…?
と、既に抱き枕に毒されつつあったところで…。
「お兄ちゃん?何してるの…?え?これ何… どうなってんの…?」
この後帰ってきたひーちゃんに俺も志麻もめちゃくちゃ怒られました…。
まぁ家に帰ったらこんな意味不明なものが部屋に並んでる状況、普通に困惑すると思う…。
ちなみに抱き枕も没収されました…クスン…。




