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エピソード 1ー6

 今日中に孤児院の院長マグリナ、あるいは人身売買の組織を摘発する。そのためにはまず、ダリオンをその気にさせなければいけない。一つ目の問題は、私の差し出す情報に担保がないことだ。知識系の情報は今日の昼までに証明することができない。

 もっと即物的な担保が必要だ。


「ダリオン、私の依頼は現金でも引き受けてくれるのよね?」

「あん? そりゃ、相応の金が支払われるのなら問題ねぇよ。というか普通はそっちだ」

「なら、宝飾品を担保にするのはどうかしら?」

「宝飾品だぁ? 嬢ちゃんが持ってるのか?」

「ええ。――これよ」


 首にヒモでぶら下げていた指輪を見せる。


「……ほう? 思ったよりも高そうな指輪だな。少し見せてくれ」


 彼が手を伸ばすけれど、私は指輪をさっと隠した。


「この指輪を見せるまえに約束して欲しいの」

「約束だ? まぁ……言ってみな」

「まず、この指輪は担保よ。一緒に魔力回復薬の情報も渡すわ。だから、私が差し出すレシピが本物かどうか確認されるまで、この指輪は誰にも渡さないで」

「それはまぁ、担保なら当然だな。ほかには?」

「この指輪と私のことは秘密にして。これは、私の渡したレシピが偽物だと確認されるか、取引が完了するまで有効よ。そして指輪の返還は、魔力回復薬の取引が成立したときだけね。それまではなくさないようにしっかり保管してもらうわ」

「……それも当然だな。ほかには?」

「それだけよ」


 私が頷くと、彼は拍子抜けしたような顔をした。


「どんな条件を突きつけてくると思ったら、その程度かよ」

「ええ、その程度よ。だから、契約してくれるわよね」

「契約? 紙にでも書けってか?」

「ええ、お願い出来るかしら?」

「……まぁいいだろう。面白そうだから乗ってやる」


 彼は私の出した条件を紙にしたため、自分の名前を署名して差し出した。彼のブラウンの髪と鋭い目つきが、少し考え込んだ表情とともに印象的だった。

 私は渡された書類に目を通し、どこにも不備がないことを確認する。


「言っておくが、これで成立するのは担保の扱いについてだけだ。担保に相応の価値がなければ、取引自体は成立しないからな?」

「ええ、もちろんよ」


 私は小さく微笑んで、パチンと指を鳴らした。ローテーブルの上に魔方陣が浮かび上がる。


「――これは、契約魔術!? 嬢ちゃん、まさか、魔術を使えるのか!」


 私は悪戯が成功した子供のようにニヤッと笑った。


「だったら? 契約をなかったことにすると言うつもり?」


 ノウリッジのマスターともあろう人間が、守れない契約をするつもりだったの? と挑発すれば、彼は虚を衝かれたように目を見張って、それからガシガシと頭を掻いた。


「まぁいい、内容に問題はないんだ、契約魔術くらい応じてやる」

「なら――契約成立ね」


 契約書に血判を押して契約の魔術を行使した。これで、彼は魔力回復薬のレシピが本物か確認するまで、私の指輪のことを誰にも話せない。それを理解して私はほっと息を吐く。


「で、そこまでして秘密にしたい指輪って言うのはどんなのだ? あぁ、さすがに出所を聞くほど野暮じゃねぇから安心しな」

「あら、これを見ても同じことが言えるかしら」


 私はクスリと笑い、ダリオンに指輪を投げてよこした。それを空中で掴み取る仕草は格好よかったのだけれど、指輪に視線を落とした彼はぽかんと口を開けて固まった。


「……じょ、嬢ちゃん、これがなんだか知ってるのか?」

「それは星辰のエテルナイトという、この国でしか採れない宝石を填めた指輪よ。リングに刻まれているのは、ヴァルディアス皇国の紋章ね」

「皇族の紋章の偽造は重罪だ!」

「偽造ならそうでしょうね」


 ダリオンはものすごくなにか言いたげに口をパクパクさせた。


「……待て。嬢ちゃん、アリーシャと名乗ったよな? しかも、今年で十四歳と言ったか? いやそれよりも家名。家名は……あるのか?」

「家名はヴァルディアスよ」

「――行方不明の皇女様じゃねぇか……っ」


 ダリオンは震える手で指輪を見つめる。その目には、恐怖と驚愕の混ざり合った感情の色が滲んでいた。

 

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