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エピソード 3ー9

 警備隊の詰め所で用事を済ませた私は、カイを連れて孤児院へと戻る。リリエラは今日の件を報告するとのことで、カルラのもとへと戻っていった。

 という訳で、カイと二人で孤児院へ戻ると、庭の方から子供達の声が聞こえてきた。シリルとルナとフィンが薬草園の手入れをしているようだ。


「ちょうどよかった。カイ、まずは彼らと話してきて」

「あん?」

「エミリアに先に話をすることがあるのよ。後で呼ぶから」


 と前置きを一つ、私は「みんなー」と子供達を呼んだ。私に気付いたみんながお帰りと言って駆け寄ってくる。今日もうちの天使達が可愛い。


「アリーシャ姉さん、その人は?」

「カイって言うの、新しい孤児院の仲間だから、仲良くしてあげてね」

「そうなんだ。えっと……カイさん? 俺はシリルです」

「呼び捨てでいいよ。俺はここの新参者だからな」


 カイがにかっと笑えば、子供達が「じゃあカイで!」といった感じで話し始める。そうして自己紹介が始まるのを横目に、私は孤児院の中へ入った。


「エミリアは……どこかしら?」


 厨房やリビングを探すけれど見当たらない。もしかしてと思って部屋に行くと、エミリアは薄暗い部屋のベッドの上で膝を抱えていた。

 そう、だよね。まだ十五歳の女の子だ。私だって、回帰前はもっとなにをするにも自信がなかった。エミリアがこんな風に不安に思うのは当然だろう。

 私は無言でベッドの縁に座り、エミリアの肩に顎を乗せた。


「話、付けてきたわよ?」

「――え!?」


 エミリアが急に振り返った。肩に顎を乗せていたせいで、顔と顔がぶつかりそうになった。というか、触れた。私の髪にエミリアの唇がちょっと触れた。


「び、びっくりした、急に振り返らないでよ」

「ご、ごめん!」


 エミリアは真っ赤になって唇を両手の指先で隠す。だけど次の瞬間、「――じゃなくて、話を付けてきたってどういうこと!?」と詰め寄ってきた。


「あぁ、そうだったね。もう大丈夫。エミリアが売約済みとか言ったふざけたエセインテリメガネは地獄に落としてきたから」

「エセインテリ……メガネ?」

「気にしないで。とにかく、エミリアはもう大丈夫ってこと」


 私が微笑めば、エミリアがくしゃりと顔を歪めた。


「……そう、なんだ。よかった。ありがとう、アリーシャ。私、ホントは怖かったの。すごく怖かったの。だから、だから……本当にありがとうっ」


 エミリアの声には不安が滲み出ていて、彼女がどれだけ心細かったかが伝わってくる。彼女の小さな体が震えているのを感じながら、私は優しく微笑んだ。


「言ったでしょ、私にはエミリアが必要だって。あなたを守るためなら、悪人の一人や二人、ぶっ飛ばすくらいなんでもないよ」


 私の言葉を聞いた瞬間、エミリアのワインレッドの瞳から大粒の涙が零れた。それから私の言葉に救われたように可愛らしい笑みを浮かべて抱きついてきた。


「~~~っ。アリーシャ、大好き!」


 エミリアが可愛すぎる。「私もエミリアのことが大好きだよ」と返しながら、この子が成長したら、たくさんの男の子を泣かせそうだなと思った。

 そこまで考えた瞬間、カイのことを思い出す。


「そういや、エミリア。カイのことを心配したんだって?」

「え、誰からそれを?」


 エミリアがびっくりした顔をして私から身を離した。そのワインレッドの瞳が驚きで大きく見開かれている。


「エリオさんだよ。さっき会ってきたから」

「そ、そうなんだ。その……ごめんね?」

「……なんで謝るの?」


 コテリと首を傾げて尋ねると、エミリアは胸のまえで合わせた両手の指をもじもじさせる。


「それは、その……だって、カイは私達の敵だったし、アリーシャのことも攻撃したし」

「でもエミリアは助けられた。だから、心配してるんでしょ?」

「それは……うん、そうなんだけど」


 なんだろうと首を傾げた私はピンときた。


「もしかして、押し倒されて恋に落ちちゃった?」

「そ、そんなんじゃないよ! ただ、その……助けられたから気にはなってたの」


 ……なんか、カイといい、エミリアといい、可愛い反応をするわよね。意外とお似合いだったりするのかしら? いまのところ、そこまでの感情はなさそうだけど。


「そのカイだけど、孤児院で受け入れることにしたから」

「……はい?」


 ぱちくりと瞬くエミリアに「実はもう中庭にいるわよ」と告げると、彼女は「ええええぇぇぇえぇっ!?」と、素っ頓狂な声を上げた。

 

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