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エピソード 1ー13

 エリオという男がいる。

 金髪に緑色の瞳。年の頃は20代前半くらい。筋肉質で背が高く、堂々とした姿勢が印象的な男性。とある下級貴族の三男で、この町の治安を維持する警備隊の隊長だ。そして、回帰前には院長先生の不正を暴き出し、人身売買の斡旋組織を撲滅した立役者でもある。

 そんな彼が――


「それで、嬢ちゃんはどこの組織の人間だ?」


 取調室で私を尋問していた。

 取調室の中には古びた木製の机が一つと、壁に掛けられた地図があるだけだ。天井に吊された魔導具の灯りがかすかに揺れ、エリオの整った顔にわずかに影が落ちた。机はあちこちに小さな傷が刻まれていて、長年使い込まれた感が漂っている。


「さっきから言ってますが、私は孤児院で暮らすただの子供です」

「バカを言え。ただの子供が魔術を使い、騎士くずれの男を圧倒できるか! 大体、馬車を止めてあの子を連れ去るまでの手際がよすぎる。おまえが一人で考えたとは思えない」

「ぐぅ……」


 正論過ぎて否定する材料が見つからない。実際、いまの私は怪しいものね。


「……ねえ、私からも質問してもいいかしら?」

「ふざけるな。質問をしているのはこっちだ」

「でも、私の言葉を信じる気はないのでしょ? それなら私が質問しても同じじゃない。それに私が質問をすることで、あなたが情報を得ることもあるかもしれないわよ?」

「口まで回るのかよ。……まぁいいだろう。答えるかは分からんが、質問を許可しよう」


 私はありがとうと感謝して、「エミリアはどうなった?」と尋ねる。


「あの子なら無事だ」

「孤児院の院長先生があの子を売ったのだけど、孤児院に連れ戻したりはしてないわよね?」

「ああ、別室で調書を取っている。そのまましばらくは保護する予定だ」

「……そう」


 それならひとまずは安心だ。


「質問はそれだけか?」

「もう一つあるわ。貴方たち、どうしてあの場所に現れたの?」

「ノウリッジから密告があったんだ。今日、人身売買がおこなわれるとな。普段ならもっと慎重に動くんだが、ちょうど俺が調べている組織だったからな」

「あぁ、そういうこと」


 私がダリオンに教えた回帰前の情報。その中に、積極的に人身売買の斡旋組織の摘発をおこなってくれた警備兵の名前があった。それがエリオだったのだけど……なるほど、この時期から調べていたのか。


「となると、現場を押さえたのは、組織の建物に立ち入り検査をする口実が欲しかったから、かしら?」

「ご明察だ。子供の襲撃現場を現行犯として逮捕。その子供が売られたという情報を根拠に、すべてのアジトを同時に強制捜索中という訳だ。ほどなく、決定的な証拠も見つかるだろう」


 エリオは卓上の地図を指でなぞりながらそう言った。地図の上には赤いマークがいくつもあり、今回の捜索が事前に計画されていたことがうかがえる。

 私がそれに感心していると、彼がふっと笑った。


「それで? 地図の見方はどこの組織で習った」

「だから――」


 違うと言おうとした直前、取調室の扉がノックされた。少しやり取りがあり、ほどなくしてノウリッジのマスター、ダリオンが姿を見せた。

 彼が纏うローブにはノウリッジの紋章が飾られている。


「ダリオン、有用な情報提供に感謝する」

「いや、こちらこそ、早く動いてくれて助かった。それで、この状況は?」


 ダリオンがチラリと私を見る。


「あぁ、この嬢ちゃんな。見ての通り取調中だ。このなりで、組織の護衛を圧倒しやがった。どこかの組織の工作員だと踏んでいるんだが、なかなか尻尾を見せなくてな」


 エリオの言葉に、ダリオンはテーブルの上にある資料に目を通した。


「……護衛は少年のようだが?」

「カイは元見習い騎士だ。上司を殴ったという理由で首になっているが、その実力は折り紙付きだ。少なくとも、なんの訓練も受けていない娘が倒せる相手じゃない」


 その名前、素性には心当たりがある。回帰前の私を苦しめたカイという傭兵だ。元は下級貴族の三男で、殴った相手は不正を働いていた上司だったはずだ。

 あの男がカイなのか。どうりで手こずるはずよ。


「まあそんな訳で、嬢ちゃんの素性をノウリッジで調べることはできないか?」


 エリオの言葉にダリオンは瞳を揺らした。契約により、私の正体を明かすことができないからだろう。そうしてわずかに沈黙した後、彼は仕方ないという顔で口を開いた。


「あ~、その、なんだ。その嬢ちゃんは孤児院の子供だ」

「それは本人からも聞いたが、本当なのか?」

「ああ。だがそれだけじゃない。実はその嬢ちゃん、うちのメンバーとして教育中でな」

「……ノウリッジの? なるほど、それで素性を隠そうとしたのか」

「まぁそんなところだ。この嬢ちゃんの身元は俺が保証する」


 その言葉が決め手になった。エリオは私を見て、そういう事情なら教えてくれればよかったのにと言って、私を解放する手続きを済ませてくれた。


「嬢ちゃん、引き留めて悪かったな」

「いえ、それはかまいません。それより――」


 と、私が顔を向けると、視線に気付いたダリオンは「ああ」と頷いた。


「エリオ、実は人身売買の情報をもたらしてくれたのはアリーシャなんだ。それで、孤児院の方も、なんとかすると約束していてな」

「それなら問題ない。アジトで証拠を押さえれば、取引相手もすぐに明らかになるだろう。その中に孤児院があれば、すぐに院長を拘束する予定だ」


 私はそこで考える。

 いまからアジトで証拠を集め、それを精査。それから院長先生を摘発するとして、早くても今夜、遅ければ明日の早朝になるだろう。だが、そのあいだに、院長先生が異変を察知して逃げる可能性が高い。なぜなら、回帰前の院長先生がそうだったから。

 あのときも結果的には捕まえられたけど、不要な手間は避けたいところだ。

 だから――


「そのことで私から提案があります」


 最速で終わらせるための提案を口にした。

 

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