こちらパパサンタ。煙突に詰まった。暖炉まであと2メートル
12月25日。それは聖夜。
可愛い我が娘が寝静まる午前二時。
煙突につっかえた。
どうしよう! これほんとどうしよう!?
うわー! 調子に乗ってサンタの格好して煙突から入ったりしなきゃよかったー!
だってさ! だってさ!
最近の子どもホントやべえんだよ!
サンタを捕まえてやるとか正体を確かめるとか、そんなことに本気を出したりするんだよ!
うちの子もさー! ゲームとかユーチューブとかにハマって夜ふかしするようになってから簡単には寝てくれなくなったしさー!
じゃあサンタの格好するじゃん!
煙突から入るじゃん!
夢を壊したくないんだもん!!
そうは言ってもなぁ……これどうしよう。本当に身動きできない。
あと汚い。そして臭い。煤が溜まっててザリザリする。
決めた。年末の内にちゃんと掃除しよう。ダイエットもしよう。でもその前に。
誰か助けてー! かあさーん! かあさーん!
「はいはいなんですかアナタこんな時間に……あの子起きちゃいますよ。あら? アナタどこにいるの?」
「煙突の中ー! 詰まっちゃったー!」
「何してるんですか!?」
何と聞かれても。そういえば、サンタの格好をすることは話していても煙突から入ることは話していなかったっけ。
いやあ失敗失敗。
「それより、暖炉に明かり入れてくれない? 真っ暗で距離感掴めないんだけど」
「あら、焚いていいの?」
「駄目だよ!? 暖炉は焚いちゃ駄目だよ! 燻されちゃうよ! ランプでも蝋燭でもなんでも良いから明かりだけ入れて!」
「仕方ないですねえ」
ごそごそと音がして視界に光が入ってくる。よかった。まずはこれで現在位置を確認して……あれ、目測二メートルくらいある? 煙突のほぼ中間くらいじゃない?
これじゃ上からも下からも引っ張れない! くっ、一番最悪の位置だ!
「アナタ〜? どうですか〜?」
「駄目! 上も下も遠い! どうしよう!」
「仕方ありませんね。私が頑張って屋根に登って上から何か潤滑剤になるもの流しますから、滑って降りてきてくださいな」
なんだろう、凄く嫌な予感がする。
うちの嫁、美人だけど凄くポンコツだからなあ。でももう動き出したようだ。もう止められまい。
暫く待っていると、何やらヌルヌルした液体が流れてきた。
僕の体に纏わりついたそれは、僕をゆっくりと暖炉へ運ぶ。
ずるり。ようやく下までたどり着いた僕を出迎えたのは。
眠い目を擦りながら起きてきた、可愛い我が娘で。
「ブラックサンタだーー!?」
聖夜に娘の悲鳴が響いた。
翌日、嫁が流した油のことをすっかり忘れて暖炉に火を焚き、煙突が炎を吹いたのはまた別の話。