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4.音楽は二人を繋ぐ

 その日、永盛が勤める総合商社「鴻円商事」では新たな事業が発表された。

 来月より、農業分野へ参入するのである。

 そのための準備が始まることとなり、そのプロジェクトリーダーに京極天亜蘭課長が抜擢された。

 それに伴う人事も発表され、京極永盛──会社では蟹山永盛も、そのメンバーに選ばれた。正直なところ、「え? 僕が?」という驚きで現実感がない。とはいえ、すぐになにかが始まるわけではない。とくに下っ端である永盛には。

 まずはリーダーである京極課長が、どのように事業を進めていくかを話し合いながら検討していくのだ。

 商社といっても、買い付けた商品を右から左に流して利益を得るばかりではなかった。

 消費者に新たな価値ある商品を提供するため、生産から小売りまで管理する例が増えてきた。会社は、いくつもの新事業を立ち上げ、その中から軌道に乗るものを選択して資金をつぎ込む。そうやって事業を拡大していくのだ。

 農業は他社でもなかなか成功しない事業のひとつだった。だが、国内の農家は減少の一途であり、海外からの農作物の輸入も、その国の事情によって万全ともいえない。今後重要となってくるのは明らかだ。

 そこでどのような方法でなら参入が可能なのかを調査、検討を重ねるところから始まる。

 これまでの先行リサーチから、ある程度の方向性は定まってはいたが、まだまだ詰めるところもあり、最初はそこを固めるのである。永盛の出番はその後、実際に事業として走り出してからだ。

 そういう事情から、永盛はまだ通常勤務だ。これからどういう指示で動いていくかは未知である。

 さほど忙しいわけでもなく、定時で帰れる日は多かった。

 そんな日はいつも駅ピアノで演奏してから帰宅する。LINEでアリサに連絡すると来てくれた。

 垢ぬけた感じのアリサは、シンガーソングライターとして活動し始めていた。歌だけで生活するほどの稼ぎはないからコンビニでアルバイトをしているが、それ以外の時間はできるだけ音楽に浸っているという。

 アリサが本名かどうかは知らない。べつに知ろうとは思わなかった。

 そんな彼女のために、その日も永盛は演奏する。すると彼女もそのあと演奏するのだ。それを聴くのも楽しかった。

「どうでした?」

 感想を求めるアリサ。

 しかし正直なところ、永盛はアリサの曲の良しあしを言葉にできない。

「良かったですよ、抑揚もあって。ゆっくりだったり速くなったりで……楽しい曲でした」

「そう……」

「すみません。僕は聴き手としてはいまひとつかもしれないです」

「うーんと……。ちょっと、場所を変えませんか?」

 アリサと会うのは今日で四回目だ。これまではお互い二、三曲弾いて別れている。そのたびに感想を言い合ったりしているが、短いコメントに終始してしまっていた。

「はい……?」

「あの……もし、夕食がまだでしたら、ごいっしょにどうでしょう?」

 小首をかしげ、アリサの突然の申し出に、

「ええっと……」

 永盛の頭に京極課長のことが思い浮かんだ。しかし妻という感じのまったくない課長はいつも勝手に夕食をとっていて、今日も遅くに帰ってくるだろう。そういえば結婚してから一度たりとも二人きりで食事をしたことがなかった。

 他の女性と食事をしても悪くはないだろう、と思った。お互いのプライベートには干渉しない、と課長も言ったではないか。浮気をしているわけではなく、単に話をするだけなのだから。

「いいですよ」

 と返事をした。いちいち課長に言う必要もないだろう。

「どこへ行きましょうか」

「この駅の近くになにか適当な場所がありますか?」

「どこかあるでしょうけど……」

 乗り換え駅なので、通勤の行き帰りに通り過ぎてばかりで、この周辺になにがあるかは全然知らない。

「それじゃ、わたしがよく利用する店に行きましょう。こっちです」

 アリサはコンコースを颯爽と歩いてゆく。

 そのあとをついていく永盛。

 駅の外に出ると、夜を追い払うかのように明るく街灯が照らす広場があり、その向こうに五階建てのショッピングセンターがガラス張りの壁面を反射させていた。いつも通勤電車の窓から見えていた場所だ。

 そこの一階、外側に出入り口のある洋風居酒屋にアリサは入っていった。やや落とした照明の店内にはワイン樽が飾ってあり、永盛にはあまり縁のない店だった。

 客がけっこう入っており、空いているのはカウンター席だけだった。やむなく二人して並んでそこへ落ち着いた──いや、永盛は落ち着かなかった。

「ここへは、よく来るんですか?」

 店内の雰囲気にたじろぐ永盛。馴染みのない内装に気が散りそうだった。

「ときどきですけど」

「一人で、ですか?」

 もし一人で入るというなら、かなり根性があるな、などと思ったりした。

「一人……ですね。できれば一人ではなくて──いえ、そんなことより、まずは乾杯しましょう。お酒は飲めます?」

「ま……付き合い程度でしたら」

 会社の歓送迎会に参加することはあった。アルコールを飲むのはそのときぐらいだ。家で一人で晩酌する習慣はなかった。

「わたしは父がオーストリア人なんですよ。それでかな、お酒には強いんです」

 顔だちがどことなく白人っぽいと思ったら、やはりそうだった。

 彼女はカウンター越しに、厨房の店員にグラスワインを二つ注文する。

「あの、それで……話というのは……?」

 永盛は訊いた。

「うーんと、どこから話しましょうか……」

 アリサは一度中空を見つめ、永盛を振り返る。ネックレスが照明を反射して光った。

「最初に蟹山さんのピアノを聴いたのは、バッハの『G線上のアリア』でした」

「あ、あのとき……」

 初めて駅ピアノを弾いたときだ。久々のアコースティックピアノの鍵盤の固さにぎこちない演奏になってしまった。

「そのあと、わたし、同じバッハの『プレリュード』を弾いたんですが、もう蟹山さんはいなくなってて」

「あのときはひどい演奏をしてしまって、すぐに立ち去ってしまったんですよ。後ろから『プレリュード』は聴こえてはきましたけど」

「わたし、蟹山さんの独特な弾き方に惹かれたんですよ。それで、また聴いてみたくて、しょっちゅう駅でピアノを弾いて待ってたんです」

「え……でも僕の演奏は……小さなコンクールでも入賞できないレベルで……」

 そんなに人を惹きつけるとは思えなかった。音楽の才能なんかない、とその道に進むのをあきらめて、いまに至っている。

「教科書どおりの基準でしたら、蟹山さんのピアノは評価されないでしょうね」

 お待たせしました、とワインがカウンターに置かれた。

「乾杯しましょう」

 アリサがグラスの足を指で持ちあげる。赤ワインが揺れた。

「じゃ、乾杯……」

 グラスを合わせ、お疲れさま、とつい言ってしまう永盛。

 話が中断していた。

 一口飲んだワインをカウンターに置くと、アリサはまた話し始めた。

「わたしがシンガーソングライターをしているっていうのは話しましたよね。オーストリア人の父は音楽家の一家で育ったせいで、わたしをクラシックの世界へ向かわせようとしたんですけど、わたしはしがらみがいやで、母のいる日本でシンガーソングライターを目指すことにしたんです。でも、一人で活動してきて、なにかが足りないと感じていたんですよ。その足りない〝なにか〟のために、いまひとつ波に乗れていない。だからいまだにくすぶってて……。わたしにないそれを蟹山さんが持っているんだと思ったんです。図々しいとは思うんですが、わたしといっしょに、音楽活動を……してくれませんか」

 アリサは永盛の目を見つめてきた。

 なにか返事をしなければならないが、どう言えばいいか考えてしまう。

「そんな……僕の腕前なんて大したことないですよ。買いかぶりすぎです」

 シンガーソングライターとして大成しようと努力するアリサと活動できるのはうれしい限りだが、同時にそれほどまでの技術は持っていないと自己分析する永盛だった。プロとして活動しようという根性はなかった。

「買いかぶりだなんて、そんなことないですよ」

 突然、アリサは永盛の手を握りしめてきた。

「わたしは、この手を信じます。お仕事があるのはわかっています。ですから、お時間のあるときだけでいいですから、わたしに力を貸してください」

 遊びではない。アリサは真剣に音楽と向き合っている。

 一方、永盛は趣味の領域から一歩たりとも出ていない。本格的に取り組む姿勢はとっくの昔に置き去りにした。いまさらそれができるとは思えなかった。

 しかし永盛がそう主張してもアリサは納得しない。

「わかりました……。では、微力ながら、お手伝いしましょう」

 実力を知ればあきらめてくれるだろうと、そんな思いで協力することにした。

「ありがとうございます!」

 アリサは弾けるような笑顔になり、

「今日は、わたしにおごらせてください」

 勢いでそんなことを言った。

「いや、それはだめですよ」

 永盛はあわてた。そこまでしてもらうのは悪い。

「これはわたしからのお礼です」

 すこぶる機嫌のいいアリサ。

「だったら、それは実際になにかやってからにしましょうよ」

「そうですね。舞い上がってしまって。蟹山さんって紳士ですね」

 職場では、いるかいないかわからない昼行燈と呼ばれ、京極課長からの評価も芳しくない永盛の印象がこうまで高いことが意外すぎた。戸惑ってしまうほどのアリサの反応だった。

 夢に向かって突き進む──。その顔はこんなにも輝いて見えるものなのかと、永盛はアリサにひかれていく自分を意識してしまった。



 アリサと別れ、帰宅したのは十時をまわったころだった。

「遅かったのね。会社を出たのは早かったのに、なにをしていたの?」

 京極課長がリビングにいた。テレビもつけず、静かな部屋でテーブルについていた。

「あの……遅いとなにか問題でしょうか?」

 なにをしていたのか永盛は答えない。正直に言う義務はない。

「べつに……。ただ、次の日の仕事に響かなければいいわ」

 突き放すような言い方に課長の機嫌が表れていた。

 テーブルの上にウイスキーと炭酸水のボトル。課長の手にはグラスが握られていた。ここへ引っ越してきて、初めて晩酌をしているところを見た。が、酒を楽しんでいるわけではないのは一目瞭然だ。

 新プロジェクトのリーダーとして、永盛にはわからない苦労があるのだろう。

「では、シャワーを浴びて、就寝します」

 永盛は一礼して、自室に入った。クローゼットが使えないので、いまだ段ボールから着替えを出して、バスルームに移動した。

 課長との暮らしのルールとして、浴槽に湯を張ってつかったら、出るときは必ず湯を抜いて掃除をする、というのがあった。仕事から帰宅する時間もまちまちであるし、その間、保温しているのはムダだという課長の言い分だったが、単純に「永盛の入ったあとの湯船につかりたくない」というのだろう。

 が、もちろん、いちいちそんな指摘はしない。洗濯物でさえも別々なのだから、そこは推して知るべしだった。

 永盛は面倒なのでいつもシャワーしか使わない。もしかしたら課長はそれさえ本音は嫌なのかもしれなかったが、それなら最初から同居なんかしなければいいのにと、いつかこの生活が解消されるのではと予感した。単に形だけの結婚なら別居でも永盛はよかった。行動の自由もあるわけだし。自由すぎて交友関係が乱れる?

 結婚している以上、他の女性との結婚はできないが、そんなことが起きる未来が来そうな気配はなかった。

 が……。

 シャワーのコックをひねり、お湯を止めると、アリサの笑顔と握りしめられた手の感覚を思い出してしまった。

(待て待て待て、早まるな──)

 永盛はひとつ深呼吸した。

 彼女との語らいは楽しかった。しかし実績を残していないうちから浮かれるのは見苦しい。

(協力はするが、アリサの期待を裏切るかもしれないではないか)

 それに、課長との結婚を持続している以上、アリサとの関係はビジネスライクに徹するしかないし、おそらくアリサもそう望んでいる。プロのミュージシャンのグループでも、プライベートはべつべつでそれぞれの生活がある、というのと同じだ。

(へんな方向に考えるな!)

 永盛はバスルームを出る。

 リビングを通り過ぎるとき、もう課長はいなかった。自室に移動したようだ。

 片づけられていないグラスを流し台に運び、洗って食器乾燥機に入れてから、永盛も自室に入った。



 翌日、永盛は残業となり、帰るのが遅くなってしまった。

 乗り換え駅のコンコースを通ったとき、駅ピアノは演奏できる時間帯をすぎていて柵がされていた。

 マンションのリビングで、永盛がコンビニ弁当で遅い夕食をとっていると、課長も帰ってきた。

「蟹山くん、これを受け取ってちょうだい」

 帰ってくるなり封筒を差し出してきた。

「なんですか?」

「遅くなってごめんなさい。友だちからやっとお金をもらってきたから。これで許してくれる?」

「なんのことですか?」

 目の前の封筒を受け取り、永盛は意味がわからない。

「永盛くんの電子ピアノ、音が出ないところがあるでしょ? あれ、わたしの友だちが遊びにきたときに壊してしまったのよ」

「えっ?」

(それっていつのこと? もう何日も前だろ)

「わたしもつい忙しさにかまけて謝れなかった」

 永盛は食べかけの弁当をテーブルに放り出すと自室に駆け込んだ。キーボードをとり、電源を入れる。順番に音を確認する。キーボードの左端、低音部のキーから音がでない。しばらく駅ピアノを弾いて、それで満足していたため電子ピアノに触っていなかったから気がつかなかった。

 永盛はキーボードを持ってリビングに取って返す。

「いったいどういうことですか? ひとの物を勝手に持ち出して壊すだなんて」

「蟹山くんの部屋においていたわたしの服を見せようとしたときに、友だちも入ってきてね。で、そのキーボードに気づいたのよ。そのときに落としてしまって」

「でもいまごろ言ってくるなんて」

「だから謝っているじゃないの。友だちも悪いと思ったから、弁償するってお金を用意してきたんだし。それだけあれば、あのモデルのピアノは余裕で買えるでしょ?」

 封筒には十万円も入っていて、それだけあればじゅうぶん足りるが、さすがにこの神経はちょっと疑ってしまう。

「そういう問題? 他人の私物にさわるようなご友人とはつきあわないほうがいいですよ」

 たっぷりな皮肉をこめて、永盛は言い返した。

「わたしが誰とつきあおうと勝手でしょ。友だちのいない蟹山くんにそこまで言われる筋合いはないわ」

「僕の部屋に入ってこなければいいんですよ。ついでに僕の部屋に課長のものが置いてあるという状態を是正していただければありがたいですが」

「それは無理。わたしの部屋だけでは収納が足りないし。だいたい、わたしが家賃払っているんだから、それくらい我慢しなさい」

「着ない服や履かない靴を所有していてもしょうがない気がしますが」

「わかってないわね。女ってのは物を持っていないと不安になるものなのよ」

「そうでしたか。僕は課長のことがよくわかっていなかった、というのが、改めてわかりましたよ」

 いろんな意味で──。そう言い残し、弁当の続きをとる気もなくなって、永盛は電子ピアノを持って自室に閉じこもった。



「今日は、つきあってもらってありがとうございます」

 土曜日、永盛はマンション最寄り駅の商業ビルの、以前立ち寄ったことのある楽器店にいた。壊れてしまった電子ピアノを買い替えるためである。

 アリサもいっしょだった。コトの顛末を聞いて、アリサは永盛に同情した。

「ひどいですよね、その奥さん」

「奥さん……なんか、そんな呼び名が似合わないよなぁ……」

 結婚に至った経緯についても話していたから、アリサは余計に永盛が幸せに見えなかった。

「そんな結婚生活って……蟹山さん、いいんですか?」

 永盛のいまの姓が京極になっていても、LINEに登録された「蟹山」と呼ばれることに抵抗がない。会社でも家でもそう呼ばれているし、京極さん、と呼ばれたのは銀行で通帳の名前を変更したときぐらいなど、公的な場所以外はほぼなかった。滅多に京極と呼ばれないので、むしろそっちのほうに違和感がある。

「疑問はあったけど、職が保証されるならいいのかなって……」

「そんな打算的な結婚って……」

 アリサに呆れられて、永盛は苦笑するしかない。それでも永盛にしてみれば、自分の家庭環境について理解してもらえる人がたった一人でもいてくれて少しは気が楽になった。

 楽器店に並ぶ電子ピアノを二人して眺めながら、どれがいいだろうと意見しあった。

「どれも弾きやすいと思うけど、アリサさんが作る曲調に合ったモデルがいいと思うんですよ」

「うーん、アコースティックピアノの音色や鍵盤タッチにはこだわらないですから、やっぱり弾き手の好みですよね」

 これまで安物の電子ピアノを使ってきたから、この際、上位機種を選んでもいいかな、という気もしたのだが。

「でも、アコースティックピアノではない音色とか、多く搭載しているほうがいいですよね」

 電子ピアノはピアノ以外の楽器、たとえば弦楽器や管楽器のような音がサンプリングしてあって、キーボードだけでさまざまな楽器を弾いているような気分にさせてくれた。

 これまでは、あくまで趣味として楽しんでいただけだったから、そこまで性能にこだわらなかったが、今回はそうもいかない。高機能に越したことはないだろう。本格的に始めるわけなのだから、道具もきちんと選ぶべきだ。幸い資金はある。ある意味、新しいのを買ういい機会だったと前向きにとらえてもよかった。もらった十万円で足りなければ、不足分を払ってもかまわなかった。

 鍵盤のタッチをたしかめ、かれこれ一時間ほどかけて検討して、決めた。

「これにしましょう」

「わたしもこれがいいかな、と思ったんです」

 ヤマハ製の黒い、キーボードだけのモデル。スタンドやペダルは別売りで、今回は購入しない。後日自宅に配送してくれるので、それが楽しみだった。

 購入の手続きをすませたそのあと、昼食を交えて今後の活動についてアリサから話を聞いた。

 そこで初めてライブハウスでの演奏を手伝ってほしい、という目標を掲げた。

「もちろん、蟹山さんの仕事に支障がでないよう、あせらないでいきましょう」

「やるなら、しっかり練習していかないとね」

「どういう編曲にするかも考えないといけないし、スタジオも借りたいですよね」

「すると、お金もかかりますよね……」

「そうなんですよ……」

 アリサはコンビニでのアルバイト。両親と暮らしているとはいえ、潤沢な資金があるとはいえない。

 永盛は正社員として働いているし、結婚するまでは一人暮らしだったとはいえ浪費はしていないから貯金はそこそこあった。しかしそれを出すというとアリサは、そこまでしてもらうわけには、と遠慮した。

「でもとりあえずは、やれるところからやりましょう」

 アリサは楽譜を出してきた。広げてみると、すぐにわかった。

「これはこないだ弾いていた曲ですね」

「そうです。何曲かありますから、蟹山さんにも弾いてもらって感覚を知っておいてほしいんです」

「うん、買ったピアノが届いたら、練習してみます」

 永盛は楽譜を熱心に見つめた。音符が頭のなかで音に代わり、メロディが再生される。

 久しくレパートリーを増やしていなかった。実際にこれを弾いてみるのが、急に楽しみになってきた。


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