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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

物語の中へ〜騎士と貴族令嬢〜

この小説は『人に歴史あり』を中心とした話になります。

真っ当な恋愛小説ではないのでお気をつけ下さい。

あらすじにある様に、これは恋愛小説の皮を被った【心情劇】です。

読み手によりバッドエンドにもハッピーエンドにもなります。

R15と残酷なは念の為です。明確な描写はありません。

文字数も短いので簡潔です。箸休め程度になれれば幸いです。




私は今、17年間暮らしていた家を追い出されました。



「セレスティーヌ。お前に縁談が来た。喜べ!お相手は侯爵家の当主様だ!」


この人は私の父という人です。この家で私に2番目にキツく当たる人なので出来たらこの場から逃げ出したいです。

私の家は伯爵家と言うこの国ではかなり身分の高い家なのだそうですが…私にはよくわかりません。外で家名を名乗らせてくれたことがありませんから。


「マゼラン侯爵は少しお前より年上だが、この良縁にとっては些細なことだ。向こうでは返事は必ず『はい』だ!わかったな?」


「はい」


この家でも同じ事です。ですので私には簡単な事。


「マゼラン侯爵の意向で婚姻の儀はない。明日、迎えが来るから今日は風呂に入る事を許す。わかったら下がれ」


「はい」


やりました。久しぶりのお風呂です。前回入浴の許可が降りたのは親族が家に集まる日でしたか。半年ぶりですね。

ただ…私がお風呂に入ると妹や弟達に怒られてしまうのが怖いですが…一番恐しいのは母と言う人です。

母という人はすぐに私に罰を与えます。一番辛かったのは私が文字を覚えてしまった時に与えられた罰で、家人が見ている前での冬の行水でしたね。

流石に侯爵様の元に嫁ぐ前日ですので与えられないと思いたいですが甘いでしょうか?


明日出ていかなければならないので部屋の整理をしましょう。屋根裏のベッドがあるだけの部屋ですが、17年も寝食をした部屋です。そして私の宝物があります。


「よかった。今日も見つかりませんでした」


見つかると取り上げられてしまいます。私は宝物の『騎士と貴族令嬢』というタイトルの本を嫁ぎ先にも持っていきます。この本に書いてある事が私の全てだからです。父と言う人と違いこの本の令嬢の父は優しく、時に厳しい愛情溢れる人です。令嬢の母はいつも見守り、時に盾になり守ってくれる無償の愛の人です。

私の父と母はどこにいるのでしょうか?





「女の子です」


産婆が取り上げた伯爵家長子は伯爵が望んだ男児ではなかった。


「おいっ!必ず男児を産むと言ったではないか!」


「も、申し訳ありませんっ!次は必ず!」


男は妻を罵倒し続けた。翌年、男児が産まれる時まで。

妻は娘を呪い続けた。娘が家を出るその時まで。





「これで王国一の資産家の侯爵家と縁続になれる!最初は殺したいほど憎んでいたが子供とはどう転ぶかわからんものだな!」


男は最近節約して飲んでいた高級酒を煽った。


「あの侯爵様が結婚相手とは…我が娘ながら同情を禁じ得ませんわ!おほほっ」


女は満面の笑みで娘を憐れんだ。


マゼラン侯爵は50歳でありながら自身の子より年下の娘との婚姻を繰り返していると王国中で話題の人物である。

妊娠すると妻は幾許かの金銭を渡されて放逐される。二十歳を超えると娼館に売り飛ばされる。

色々な噂があるが全て事実であると知っているのはマゼラン本人だけである。






私は生まれて初めて馬車に揺られています。

目的はもちろん侯爵様との婚姻。私は侯爵家の人として生きていくのです。お相手は騎士様ではないですが旦那様を支えられる貴族令嬢にはなれるので頑張ります。

私をここまで支えてくれた、宝物のヒロインのように。




「ほほーう。中々の娘だな。おい!伯爵家には金を贈っておけ」


この方が侯爵様でしょうか?父という人よりも年上に見えます。お腹も…まさか男性でも妊娠を!?いえ。私は本でしか世のことを知らないのです。もしかしたらそういう人がいてもおかしくありません。


「侯爵様。セレスティーヌと申します。不束者ですが精一杯お支えしますので何卒よろしくお願い致します」


「ほっほっほっ!これは殊勝な心掛けである。マーク!」


「はっ!ここに!」


マークと呼ばれた方は昨日までの私と同じ、埃塗れの姿をしていました。


「この娘を部屋に連れて行け」


「はっ!奥様、こちらへ」


「では侯爵様失礼します」


私は付け焼き刃で覚えさせられたカーテシーをぎこちなく行い、マーク様の後について行きました。




「こちらのお部屋になります」


マーク様に通された部屋はとても豪華な部屋です。天井にはシャンデリア、床にはフカフカの絨毯に猫足のテーブルセット。チェストもとても大きくて立派なものですが…あれがありません。私の小さな屋根裏部屋にもあった物が。


「ベッドがございませんが、床で寝たら良かったでしょうか?」


私の言葉にマーク様は鋭く細い目を丸くされます。私、おかしな事をいってしまいました?ベッドが無ければ床に寝るのは当然では?あっ!まさか上級貴族様はベッドではなく椅子に座って寝るのでしょうか?

確かにあの本にも騎士様が本を読みながら椅子に座りうたた寝していた描写がありました。


「すみません。椅子で寝ますのでご安心を」


危うく恥を掻くところでした…


「…」


まだマーク様は固まったままです。もしやまだ見落としている事が?


「ふっ、はっはっはっ!すみません。おかしかったもので。今日はその椅子で我慢して下さい。必ず迎えにきますので」


「はぁ…」


何故かマーク様はよくわからない事を仰られて退室されました。迎えは来てもらわなければ私は迷ってしまうので出られません。

ただ…笑われていたあの顔は素敵でした。

あれが本に書いてあった笑顔と言うものなのでしょうか?わかりません。







「マーク!」


侯爵が下男を呼ぶ。


「はっ。ここに」


「あの娘を捨ててこい」


「はっ」


男は命じられたので侯爵の妻として来ているはずの娘を捨てに行く。

もちろん犬猫ではないから、捨てると言っても娼館に売るか、僅かな金を持たせて侯爵家領地のスラムの空き家に置いていくかだ。




「私はどうなるの?あの豚に穢されてもう新たに嫁げるところも無いわ。殺しなさい」


娘はここに来ても尚、貴族であった。


「ミスティ様。私は宰相様の密命により侯爵家に潜入している諜報部の者です。ミスティ様には王城で侍女として生きる道があります。どうかご考慮を」


マークは素性を明かした。元よりその予定だったし、ミスティという名のまだ少女と呼べる女性を早まらせない為でもあった。


「結婚前であれば喜んで受けたことでしょう。もう遅いの。女性は一度しか傷を負えないわ。特に貴族はね。殺しなさい。最後の命よ」


マークは自身と同じく宰相の密命を受けた者と落ち合う場所に着く前に馬車を停めた。


「ミスティ様。最後です。この先の村に仲間がいます。そこまで行けば城で働く未来があるのです!」


「マークが騎士で良かったわ。苦しまずに逝けるもの。貴族として死なせてちょうだい」


馬車が村に着くことはなかった。


マークは王国騎士隊の諜報部に所属している。諜報部は名前は知られているが、所属している者は王家と歴代の宰相しか知らない。

名前が知られているのはそこに入れるのは優秀な者のみと実しやかに噂されているからだ。

ミスティも優秀であれば剣技も優れているはずだと思い、最期の時を頼んだ。


「くそっ!あと少しで不正を暴けるはずなのに…」


マークがその手にかけた命はこれが初めてではなかった。この任務についてから三年で三人。すでにマークの心は壊れかけている。

それとは裏腹に侯爵は尻尾を掴ませない。




(その日、またやって来た花嫁は変わっていた。

あのマゼランに恭しく接していたのだ。今までの花嫁達は良くて顔が引き攣っていて話せない。悪くて最初から暴れていて手がつけられないかだった。

ここに来る令嬢はやはり何かしらの事情を抱えている人ばかりだが、この娘は…)


「ベッドがございませんが、床で寝たら良かったでしょうか?」


(何を言っているんだ?馬だって藁の上で寝るぞ?)


「すみません。椅子で寝ますのでご安心を」


(椅子で寝るだと?

何でそれで微笑んでいられるんだ?

こんなクソ豚に嫁がされてまで…

ベッドがないのはアイツと寝なきゃいけないからだ!そんな事も理解出来ないのか?

そんな娘をまた犠牲にするのか?

ホントにそれが死に物狂いで努力して入った騎士隊でやりたかったことなのか?俺には何も出来ないのか?


いや、出来る。この娘と死のう。もう自分の心に嘘をつくのはやめだ。

そう思うと何故か笑えてきた)






「夕餉は頂けないのかしら?家でも夕餉だけは毎日食べれましたのに」


朝は良くて2日に一度でしたが、夕餉は家人の食べ残しを始末する方が居られなかったので食べ放題でしたのに。


そんな事を考えていたら窓から物音が。


コンコンッ


「ここは二階の筈ですが…」


私は恐る恐る窓際に向かい、錠を外しました。


カシャン


「お姫様。お迎えにあがりました」


「騎士様…?」


「はい。行きましょう」


窓から現れたのは漆黒のマントを纏った騎士様でした。ただ、物語の挿絵の騎士様はいつも白を基調としたお召し物でしたので、少し違和感がありました。それにこの騎士様はどこかでお見かけした様な気がします。


いえ。私の知り合いに騎士様はいらっしゃいません。気のせいでしょう。


「お手を」


「はい」


私は生まれて初めて手を握られました。人の手と言うものは暖かいのですね。


騎士様に従い、地に足が着くと目の前には…


「お馬さん…」


こちらも挿絵とは違い、漆黒の馬体をしています。

騎士様は手慣れた様子で馬に跨ると手を差し伸べてくれました。これは挿絵と同じです。やはり騎士様です。


「これからどちらに?」


「貴女の望むところへ」


「騎士様は…」


「貴女の騎士です。貴女だけの」

物語は何処にでもあるものです。ただ、何処にも答えはない、正解もない、そんな話しです。

騎士がこの後ヒロインを死ぬまで幸せにしたかもしれません。

又は、二人で侯爵の悪事を暴いたかもしれません。

もしくは他の貴族令嬢と同じ様に。

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