モノポリズム
ふと、仕事に疲れて窓の外を見下ろす。
そこには俺の知らない世界で知らない人々に囲まれて生きる、あなたの笑顔があった。
***
「すっごくいい笑顔でわらうんだね」
背後からの唐突な言葉に、私は持っているコーヒーを取り落としそうになった。
「……ハイ?」
振り返ると、きみは雑誌から目を上げて、こちらを見ていた。
その鋭い眼差しに、怯む。
たじろぐ私に気付いたのか、彼はまたすぐに雑誌に目を落として、ぼそりと言った。
「そんなにまずいの? そのコーヒー」
「ちがうよ。またわけわかんないこと言い出したと思って」
確かに、コーヒーはまずかった。
しかしそれに輪をかけて、何故か機嫌の悪くなった彼の相手をするのが憂鬱でならなかった。
「そうやってすぐ俺のせいにする」
「だってきみのせいでしょ」
ふっ、と嘆息音。
飽くまで目を合わせずに。
――それでいて、声色の揺らぎは隠せずに。
「あなたが笑わないのは?」
「は?」
ようやく、きみは顔を上げた。
そこには、哀しげに眉を歪めながらも、辛うじて笑みを貼りつけたきみがいた。
胸の奥が疼く。
「笑ってるじゃん、ちゃんと」
「ちゃんとってなに? ――俺の前では、フツーには笑えないの?」
彼は立ち上がって、私の方まで歩いてきた。
「――ねぇ、俺、すっごく性格わるいんだけど」
「……知ってる」
そう軽口を叩きながらも、私はその目を見つめ返すことができなかった。
その、強い眼差しに捉われてしまうから。
深い瞳の色に吸い込まれてしまうから。
視界の端で、きみの口唇が上機嫌に歪んだ。
「――俺、あなたのこと知らないの、やなんだよ」
手が重なる。
彼はそのまま、私のコーヒーを口まで導き――そして、眉をしかめた。
「やっぱりまずいじゃないか」
「……きみの方が、よっぽどまずいよ」
「そう?」
ふふっと得意げに笑う。
「どういたしまして」
「褒めてねーし」
その男、気まぐれ、寂しがり、強すぎる愛情ゆえに――なんとも扱い難し、独占の獣。
(了)
ヤンデレ男子が書きたくなって書いてみました。このくらいならまだかわいいでしょうか……。