陸 入学式事件
ミラル学園の入学式当日。
ディーゼル=ジョンとして職員室に通勤した。
ミスリルの剣を父から朝受け取った。
今日のガチャは『竹の槍』と『契約』。
武器はいまいちだけど契約は便利だな!
ノーリスクでどんな契約を結ぶことができるらしい。
そして契約を強制的に切って契約し直すことも可能。
ガチャのチェックも終わり学園のことに集中する。
受け持つ一年の名簿を受け取る。
ペラベラとめくり、とあるところで手が止まった。
『ランドルフ=ランフィース』。
俺の…弟。
あいつを…俺が育成する。
あいつは…どうなっているんだろうか。
いや、切り替えろ。
俺はもうあいつの兄でも家族でもなく、ここにはディーゼル=ジョンとして、教師としてあいつの前に立つ。
頭を切り替えて他の生徒の情報を詰め込んでいく。
最初に名前と顔の一致から。
あとは出身地や彼らの親の事。
見事に貴族しかいない一年。
……双子の王子と王女がいるだと!?
それに四柱貴族が勢ぞろい!
…不安しか感じないなこの一年生は!
全員で25人。
この狭き門を通ってきた子供たち。
俺も子供で学ぶべき年なんだけど…
ガラリ。
入ってきたのはファーラ。
「ディーゼル。どうだい?うまく行きそうかな?」
「さぁ…わかり…ません。怖いですね。」
「ガッハッハ!おいおい!俺様に食って掛かったお前が心配事か?安心しろよ!この俺様が副担任だからな!」
そう、ガタナが副担任なのだ。
教師としての相棒となる。
「ガタナ、一年生を怖がらせないでよね?貴方、外見も中身もよく小さい子たちを怖がらせるのだから。」
「ララスー、そりゃ無いぜー。ガッハッハ!」
本当に仲の良い人たちだ。
「ハハ。ありがとう。気が楽になった。」
時間になり体育館に移動。
簡単に説明を受ける。
先に在校生が入りそこで新任として話してから入学式が開始される。
呼ばれたら簡単に挨拶してくれとのことだと。
席に座り少しすると生徒達が入ってきた。
そして。
「新任のディーゼル=ジョンです。」
前に上がり話し出す。
スピーカーの魔具があるから声を張り上げなくてもいいんだ。
「はじめまして。ディーゼル=ジョンだ。教師も初めてだが学園長に認められたものとして、精一杯頑張るつもりだ。君達の力はどのくらいか、後で見せてもらおう。」
そう言って下がった。
そして入学式。
入ってくる生徒を見て、見つけた。
自信満々にここは俺の王道だというかのように。
そして、人一倍目立ち勝ち組だ!といった顔で入ってきたランドルフ。
この天才たちの中で挫折を知ってほしいんだが…
そして滞りなく式が終わるその時。
「ん?」
「どうした?ディーゼル。」
「なんか…近づいてくる?」
感のようなものだがだが、何かが…
「!皆さん伏せて!」
ファーラ学園長が叫ぶ。
そして運良く誰もいないところに何かが突っ込んできた。
素早く剣を抜き戦闘態勢に入る。
先生は皆そうして土煙を囲っていく。
「いったたー。バランス崩しちまったなぁ!んーと?ここはどこだぁ?」
土煙が晴れたところにいたのは悪魔だった。
鳥の頭に牙が鋭い悪魔。
「おっとぉ?人間が沢山だなぁ?こりゃあ失礼した!事故で、落ちちまったんでぇ…見逃してはくれねぇかね?つーかここどこ?」
「ここはミラル学園。私はここの学園長のファーラ=クラーチェ。悪魔よ、見逃しますのでどうか去っていってください。」
「マジ?ここがミラル学園?なら…目的地だったみたいだなぁ!俺様はアモン様だ!ここに剣聖が来るって聞いて戦いに来てやったぜ!」
目的はランドルフか!
「そうかい…だが学園を代表するものとして、子どもたちを預かる身として、やらせはしないさ!」
「はっは!いせいのいいやつは嫌いじゃない!」
学園長の隣に立ち声を小さくして話す。
「学園長。ぜひ、俺に行かせてください。」
「ディーゼル…。」
「一応兄ですし。それに俺が受け持つクラスの一員です。」
「分かった。頼むよ。」
「はい。これでも剣神ですから。」
「うん。行ってきなさい!」
「はい!」
「アモン!俺が相手になろう。」
「ああ?おまえのような子供がかぁ?」
「これでも教師だ。俺の担当するクラスの子供を傷つけさせるわけにはいかないさ。」
「ふーん。じゃ、遊び相手になってくれや。」
ミスリルの剣では心細い。
一応、と予備に持ってきていた妖刀村正を構える。
「刀ぁ?へぇー、面白いなぁ!」
一応剣神に刀も使えるからな。
「では、やろうか。」
「…中々楽しめそうだなぁ。」
最初に動いたのはアモン。
相手の武器は剣だった。
相手は悪魔。
油断できない。
けれど自分の実力がどのくらいなのか分からない。
だけどみんなを守るため、本気を出させてもらう!
「フゥー…『飛翔桜嵐』!」
まるで飛ぶように、舞いながら嵐のように。
先行したアモンを避け斬り込み舞う。
「グァアーー!?」
効いている!
「ぐ!妖刀か!?」
妖刀村正、血を吸ってる…?
そして俺に力を渡してくれている…
強い!
アモンの血を吸った妖刀村正はギラギラと光り獲物の血を待っている。
「吸わせてやるよ。存分に。」
「ダークネス!」
闇の魔法か!
「『風花雪月』!」
風に舞う花のように複数の闇の塊を避ける。
そして切り込む。
長い刀。
リーチはこちらのものだから。
アモンの攻撃を受け止め流し後ろに下がる。
「お前…強いな!楽しいなぁ!俺の本気、見せてやる!」
するとアモンを中心に魔力の風が吹き渡る。
これを放置するのはやばい。
「絶技、『弧月一閃』。」
居合の状態で一撃で斬る絶技。
弧を描く月のような跡が残る。
「な…にぃ…!?」
変身ネタは隙だらけだと思うぞ。
「グァ…ハァハァ…グゥ…。」
まぁ生きていたか。
とどめを刺そうと構えたとき。
「あー参った!降参降参!」
「は?」
「まさか俺より強い奴が人間にいるなんてなぁ!つーか、えっと、センコウ?だっけ?お前。」
「教師のことか?」
「そうそう、きょーしきょーし!教える立場なんだろ?カッケェじゃねぇか!」
「は、はぁ…。」
「なぁ!俺、お前についていっていいか?お前の強さの秘訣が知りたいんだ!」
そ、そんなこと言われても…
スキルの実力だろう?
今までの努力何てあまりにも活かせてないし…
「なんか自信なさげだなぁ?この悪魔のアモン様に勝ったのに?大丈夫だ!俺たち悪魔は約束を破らない。特に契約するとなったら契約主の命令は絶対だからな!」
「はぁ…わかった。じゃあ安心のため契約するか?」
「おうよ!じゃあ契約書…。」
そういや今日のスキルガチャ、契約だったな。
契約を発動。
「お、おおう?できるのか?じゃあまぁよろしくな。あ、名前聞いてなかったなぁ!教えてくれよ!」
「ディーゼル。ディーゼル=ジョン。」
「…ふーん…オッケーディーゼルな!よろしくな!」
「ああ。」
ようやく一安心だ、と緊張を解くと周囲の様子が変だったことに気づいた。
「すげぇ!悪魔を負かせて契約しやがった!あの先生強い!」
「刀流って地味だと思っていたけどあんなに綺麗だなんて!」
「流石ミラル学園!先生強すぎだろ!」
「小さくて心配だったけど強くて安心したわ!」
等。
好印象になったらしい。
「ディーゼル、お疲れ様。さて、ディーゼル先生は一年生の担任で剣を教えてくれます!授業が始まったらよく学ぶように!」
「「「「はい!!!」」」」
こうして、ハプニングがあったけれど入学式は幕を下ろした。
「なぁ主ー。御前さん名前偽ってるな?」
「ああ。ごめんな。俺の名前はディール=クラーチェ。ばれたくないのさ。」
「誰に?」
「弟に。」
「弟?」
「ランドルフ=ランフィース。」
「ああ、あいつか。…気をつけろ。あいつに何か、付いてるぞ。」
「…ランドルフ…。」