第八話 奴隷の思い - 目の治療 -
女主人は、私を部屋の中央にある寝台に導いた。
私は彼女の指示のまま、その寝台に座った。
本来、ここは奴隷の座るような処ではない。軋む寝台は大きく立派なもので、上に載せられている寝具は肌ざわりの良い素晴らしいものだった。
ここに横になれたら、どんなに気持ちが良いことだろう。
それに、女主人は私の思いを見越したかのようにこう言った。
「セス、そこに横になりなさい。目の治療をしてあげるから」
私は大人しく、寝具の上に横になった。
ふわりとその身を受け止める、その素晴らしい寝具に頬も緩む。
新しい女主人は、寝具にはこだわりがあるようだった。
王家で使用していたものと遜色のない寝具だった。
新しい包帯を巻いてくれるのだろうか。
女主人は、私を奴隷市場で購入してから、私の目を覆っていた血と膿で汚れきっていた包帯を捨て、清潔なものに変えてくれた。
包帯の下の目は、抉られている。あれは何人目の主人だろう。私の目が美しいと気に入った男が抉ったのだった。
両目とも見えなくなった私は、何の役にも立たない者に成り下がり、ただ虐待される日々だった。
包帯を外され、その後、ひんやりとした冷たい何かが触れた。布に何かが浸されて、それを目に当てられている。
丁寧に何度も触れて拭われていく。
その都度、目のあたりが温かく感じた。
その感覚に驚いた。
女主人は、私にまたポーションを使ってくれているのだ。
以前も、死にかけていた私を助けるために、彼女は惜しみなく高級なポーションを飲ませた。
そのおかげで、私の傷は癒され、こうして身動きが取れるようになったのだ。
まさか、目も治してもらえるのか。
だが、残念なことに彼女は言った。
「目は抉られていて、欠損を治すようなポーションはここにはない」
「…………そうですか」
それでも感謝すべきだ。私は慌てて礼を言った。
「ありがとうございます」
「うん。目の周りの傷はこれで綺麗に治ると思う」
以前、手で触れた時、目の周りは傷で酷かった。それが綺麗になるのだけでも有難い。
「ありがとうございます」
「うん」
私は、女主人に頼んで目を覆う布を用意してもらった。顔が露わになることは避けたかった。
まだ母国が滅亡してたった八年しか経っていなかった。
私は死んだことになっているらしい。
だけど、見つかれば間違いなく殺されると思っていた。
女主人は、私に寝間着を用意してくれた。
柔らかな生地のその寝間着を、私は礼を言って受け取り、指で確かめながらそれを身に付けていく。
彼女は私に「先に眠っていていい」と言った。
私はあの素晴らしい寝具に包まれて眠ることのできる喜びに、内心震えながらうなずいていた。
「はい。ご主人様、眠らせていただきます」
私がご主人様と、彼女を呼んだ時、彼女は一瞬驚いたような様子だった。
だが、それは一瞬のことで、彼女はすぐに平静に戻り、そのまま部屋を黙って出ていった。
私は環境の変化に疲れ切り、柔らかな寝具に潜るとすぐさま眠りの中に落ちてしまった。