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第六話 屋敷への到着

 馬車が、私の所有する屋敷に到着した。

 冒険者として私は成功していた。

 この屋敷は、私が自分の力で手に入れたもの。

 そしてマンセルもクランプも、私が金を出して買った奴隷達だった。

 屋敷の鉄扉が開かれる。

 その鉄扉を開く、美しいエルフの少女もまた、私が金を出して買った奴隷だった。


 私は人を信じていない。

 もうすでに、嫌になるくらい裏切られてきたからだ。

 隷紋を刻んだ奴隷だけを側に置き、冒険の仲間にしていた。

 屋敷にいる者達はすべて、私の奴隷だった。


 鉄扉を開けてくれた、銀髪の美しいエルフの少女は、クランプが痩せ細った若い男の奴隷を抱えて現れた時、驚いて口をぽかんと開けていた。


「……その人、誰?」


「セスというの。後で紹介してあげるから。とりあえず家の中に入りましょう」

 

 マンセルが馬車を奥の馬車止めに動かしていく。私は馬車から下りるとスタスタと屋敷に向かって歩いて行った。

 クランプと、エルフの少女リザンヌは視線を交わしていた。

 一体どういうことかと混乱しているのだった。




 居間に入ると、クランプはセスを長椅子に座らせた。

 セスは身を縮こませてそこに座る。

 

 私はリザンヌに言った。


「セスはこの屋敷で働かせる。見ての通り、目が見えないから、できる仕事は限られるでしょう。でも、よく働かせて頂戴」


「……目が見えないのに、どうやって働かせろというのよ」


 リザンヌが渋い表情で言うのに、私はこう言った。


「セスには魔力があるの。それも結構たくさんあるわ。人族にしては多いから、それでポーションを作らせたり、魔道具に魔力を入れたりさせて頂戴」


 その言葉に、セスはハッとしたように顔を上げた。


 何故、私がセスに魔力があることを知っているのだというような様子だった。

 知らない筈がないだろう。

 だって、元婚約者なのだから。


 彼は王族で、王族には魔力持ちが多かった。

 そして王太子たる彼も、膨大な魔力を持っていたことを私は知っていた。


 おかしなことに、未だに彼は、私が、彼の元婚約者のエヴェリーナだと気が付いていない。

 それはそうかも知れない。

 彼の元婚約者のエヴェリーナは大人しい、か細い声で喋る、おどおどとした、自分に自信のない少女だった。

 こんな、他の者達に傲然とした口調で命令する女ではなかった。

 そのまま気が付かなくてもいいと思っていた。


「部屋は、最初は私と一緒の部屋でいいわ。目が見えないから、慣れるまでは世話しないといけない」


 その言葉に、露骨にマンセルもクランプもリザンヌも目を見開き、驚きを露わにしていた。


「マジか」

「ええええええ」

「その人って、エイヴの何なの?」



「なんでもない。目が見えないから、勝手がわかるまで世話しないといけないでしょう。それだけよ」


 私は赤い髪を揺らし、自室へ歩いて行こうとする。

 それから、セスに声をかけた。


「部屋に行くわよ」


 手を差し出す。彼はその手をそっと震える手で握り、立ち上がった。

 彼のまだ青ざめた顔を見つめ、私は自身に問いかけた。



 彼は私の何なのだろう。

 元婚約者の彼を買って、私は何をしようとしているんだろう。



 同情? 


 いや、そんなものはもうとうにない。


 復讐?


 ああ、そうしたい気持ちは確かにかつての私の中にはあった。

 でも、今の私の中にはもうない。なくなっている。


 じゃあ、恋情?


 それももうない。欠片もない。

 かつてのエヴェリーナは、彼を愛していた。

 愛していたけれど、八年前に彼女はもう死んだ。

 ここには、かつてのエヴェリーナはいない。

 


 私は首を傾げた。


 一番近いのは、愛玩物(ペット)なのかも知れない。

 愛玩物を可愛がる気持ち。

 そう、彼は私の愛玩物だ。

 

 かつてのエヴェリーナは、この冷たい心を持つ美しい王太子が大好きだった。

 うっとりと、この美しい王太子を眺めていた。見飽きることもせずに。

 王太子が、そのエヴェリーナの熱い視線を煩わしく思っていたことを知っていた。

 邪険にされても、エヴェリーナは王太子にまとわりつき、一生懸命に話しかけていた。


 良かったわね、エヴェリーナ。

 八年の時を経て、ようやく手に入ったのよ。

 貴女の愛しい愛しい王太子殿下が。

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