第四話 隷属の首輪をした獣人達
汚れたシーツを取り替え、私は裸の彼を毛布でくるんで自分の寝台に横たわらせた。
何をしたわけではないのに、彼は疲れきってしまったようで、すうっと寝息を立てて眠りに落ちたが、檻の中にいた時のあの息苦しそうな様子が見えないことにほっとしていた。
汚れたシーツを階下に抱えて運んだ時、ちょうどマンセルとクランプが外から帰って来たのか、宿の入口前でかち合った。
「おかえり、マンセル、クランプ」
そう声をかけると、マンセルとクランプは二人揃ってにやりと笑った。
「「ただいまー」」
マンセルは猫の獣人で、クランプは狼の獣人だった。二人はとても仲良しだ。私が彼らを買った時は仲は悪かったのだけど、今では親友のような有様だ。
二人の若者の首には、隷属の首輪がある。
八年前に彼らを奴隷として購入したのは私で、未だに私は彼らの主人の設定がされている。
でも、彼らは奴隷であっても、私の大切な仲間だった。
私の顔色があまりよくないことに、マンセルが気が付いた。
「あれ、エイヴどうしたの?」
「新しい奴隷を買ったので、あとで紹介するわ」
「「え?」」
マンセルとクランプは声を上げて驚く。
「マジ?」
「エイヴが奴隷買ったの? 俺達で打ち止めじゃなかったの」
「……ちょっと事情があってね。新しい奴隷は怪我していて弱っているの。だから、優しくしてあげてね」
マンセルとクランプは顔を見合わせて、困惑していた。
「わかった。でもなんでまた」
マンセルが問いかけると、私は「先日の報酬が余っていたでしょう。屋敷で働かせようと思ったの」というと、二人は納得したような納得していないような顔を見せた。
「そいつは上の部屋にいるの?」
「ええ。とりあえず、私のベットに寝かせている」
「……」
それに、クランプは不満そうな顔を見せた。
「エイヴ、新入りをあんたのベッドに寝かせるのは反対だ。示しがつかない」
「怪我をしていると話したでしょう。あんた達のベッドじゃ狭い」
「おいおいおい、一緒に寝るつもりなのかよ」
「怪我をしていると話したはず。何もできないわ」
足の腱を切られ、鞭で打たれ、両目まで抉られているのだ。とてもとても、女に手を出す力などないだろう。
ましてや私は女冒険者だ。彼などやすやすとこちらから組み伏せられる。
再びマンセルとクランプは顔を見合わせていた。
部屋に入って、未だ眠ったままの奴隷の若者を見て、マンセルとクランプは絶句していた。
「え? え? え? こいつ、役に立つの?」
「静かにして。目を覚ましちゃうでしょう」
私がそう言うと、マンセルは信じられないかのように私を見つめた。
「両目包帯って、目が見えない? それで働けるのか? 屋敷で働かせるといっても、こいつに何ができるんだ」
「……それは連れて帰ってから、教えればいいことよ」
「エイヴ、こいつは役立たずだ。連れていっても仕方がないだろう。今からでも、奴隷商人に突っ返してこい」
「マンセル」
私は彼を睨みつけた。
マンセルはびくんと身体を強張らせる。
ため息をつきながら告げた。
「この男を買うと決めたのは、あなた達の主人の私なの。文句は言わないで頂戴。私が決めたのだから」
「……………………………………わかった」
もの凄く不満そうな様子で、マンセルはうなずいていた。