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奴隷市場に、私を婚約破棄した王太子が売っていたので買ってきました。[全年齢版]  作者: 曙はるか
第二章

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第一話 迎えに来た騎士

 三年ぶりに現れたバルドゥルは、相変わらず偉そうだった。

 案内された部屋の椅子に、足を組んで座る。

 ちなみに彼を迎えた私も、堂々と足を組んで座っていた。


 バルドゥルが内心(女の癖に、男の客前で足を組んで座って偉そうにしている)と思っているだろうと思ったが、彼の灰色の髪を少しずつ精神的疲労で減らしてやろうと、陰湿な計画をしている私には関係なかった。


 リザンヌに目をやると、彼女は澄ました顔でバルドゥルの前にお茶を置いていた。

 その様子から、うまくセスを隠してくれただろうと思った。


 バルドゥルの前にセスを出したのならば、彼は主家の(かたき)とばかりに間違いなくセスを八つ裂きにしただろう。


「入れる目途が立ったということは、そこまで聖女様が祓って下さったということよね」


「そうです」


 母国が魔族に蹂躙された後、周辺の国々が軍を率いて乗り出した。やがて、聖なる乙女の皮を被ったマリアは討伐と相成った。

 だが、母国の北方の地はひどく汚染されてしまった。

 北方の地は、私の生まれ故郷である元侯爵領のあった土地だった。


 八年前、マリアは王家を乗っ取り(当時、私は婚約破棄され、国外逃亡した)、その後反対する勢力をことごとく潰していった。

 私の元侯爵家は、反対勢力の筆頭で、そこに残った双子の弟のリンデイルは非常に頑張っていた。

 でも、結局彼はマリアに勝つことはできずに命を落とし、父も母も亡くなって侯爵家は滅亡。

 あのあたりは見せしめもあって、多くの住民が殺され、大地は穢された。

 マリアが討伐された後も、ずっと人が入ることができないほど穢され尽くしていた。

 

 五年前、私はバルドゥルに協力してマリア討伐に動いた。

 マリアが討伐された時も、その場所に私は立っていたし、実際、彼女の身体に刃を入れたのは私だった。


 これで私の役割は終わった。


 そう思ったから、私に領地を与えるという周辺諸国の王達の申し出を断り、安穏な冒険者稼業についたのだ。


 もう、うんざりだった。


 マリアは魔族の常で、人間を操ることができた。

 仲間だと思っていた者達が、後から裏切ることを何度も見ていた。

 結局、あの時信頼できたのは、自分と隷属紋で繋がり、決して自分を裏切ることのない奴隷の仲間達だけだった。


 母国に戻り、侯爵家の再興を懇願するバルドゥルに私は言った。


「……侯爵領の近くまで穢れが祓えたら、また手伝いに行くわ」


 

 穢れを祓うには長い歳月がかかるのではないかと言われていた。


 バルドゥルが迎えに来る頃には、長い歳月が経過して、もはや自分は死んでいるかも知れないと、内心ほくそえんでいた。

 それなのに、あの後たったの二年で侯爵領の近くまで穢れを祓ったとは。今代の聖女様が非常に真面目で勤勉な少女だと知っていたが、優秀すぎた。

 でも、約束は約束だった。



 私は頬に手を当て、物憂げにため息をついて言った。


「それでは一週間後、準備を整えて向かうわ。それでいいかしら」


「はい。お嬢様」


 バルドゥルはおかしな騎士だった。

 彼は私のことを嫌っていながらも、私のことはお嬢様と呼ぶ。

 もう侯爵家は存在しないのだ。

 あの家が無くなった後、優秀なバルドゥルを引き抜くべく声をかけた家も多かった。

 だが、彼は頑なにそれを断り、私をお嬢様と呼んで、今は亡き侯爵家に変わらず忠誠を誓っている。


 彼は馬鹿な男だった。

 とっとと、別の主人を見つければいいのに。

 

 彼は弟のリンデイルに剣を捧げていた。

 しかし、リンデイルが命を落とした時に、バルドゥルはその場に立ち会うこともできなかった。

 それがきっと彼の心を深く傷つけてしまったのだろうと思っていた。




 バルドゥルが屋敷から出ていくのを私は見送る。

 それから、リザンヌに言った。


「セスを私の部屋に連れてきてくれる?」


 安穏とした時間は、もうおしまいだった。

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