第十六話 奴隷の思い - 過去の少女 -
王宮の庭園は広い。
噴水の広場もあれば、小さな池に面した東屋もあれば、迷路のように整えられた花園もある。
私はよく、取り巻きの少年少女達を連れて花園の中を歩き回っていた。
私のそばにいる者達は、有望なる将来を約束された貴族の子供達ばかりで、いずれも美しく高貴な者達だった。
そして、そんな中に私の婚約者の少女もいたのだ。
目の覚めるような見事な赤い髪に、緑の瞳のかわいらしい少女だった。
今でもよく覚えている。
私を見つめ、私の声に顔を綻ばせ、おどおどとしながらも、いつも私のことを想っていたあの幼い少女。
彼女には双子の弟がいて、二人の顔立ちはとてもよく似ていた。けれど魂はまったく違った。
剣もよく使え、頭脳も明晰な賢い弟と、どこかぼんやりと夢見がちな少女である姉。
双子なのに、ここまで違うものかと驚いた記憶がある。
弟は、同じ顔をした姉を溺愛していた。
そして、彼女が私の婚約者であることを常に心配していた。
姉には、過ぎた身分だと。
きっと、彼女はその重さに耐えられなくなる。
彼女は殿下の婚約者にはふさわしくない。
そうも言っていた。
だけど、あのかわいらしい婚約者の娘は私に夢中だった。
舌ったらずな口調で、殿下と呼ばれると、こそばゆい気持ちだった。
花々の咲き乱れる園で、私はあの赤毛の少女に崇拝されていた。
それに悪い気持ちはしなかった。
だけど、少女のその手を振り払ったのは私だった。
きっと彼女は泣いていた。
その緑の大きな瞳が溶けてしまうほど、悲しんだろう。
私は何も考えていなかった。
婚約を破棄された彼女が何を思い、そしてどうなるのか。
実際、彼女は婚約破棄された後、新しく私の婚約者となったマリアの手によって無実の罪を着せられて投獄されそうになった。
彼女を逃がしたのは、双子の弟だった。
それ以来、彼女の行方は杳として知れない。
私が寝台で目を覚ました時、隣ではあの女主人が丸くなって眠っていた。
猫のようだった。
常に寝台では抱きしめられていた私は、意外と彼女が小柄な女であることを知っていた。
目が見えないというのは、辛いものだ。
彼女の姿を一目見てみたかった。
きっと美しい女であろうと思う。




