第十五話 裏切りは御免だから
「……………」
リザンヌは、私を見てため息をついていた。
私もため息をつきたい。
「エイヴ、貴女、何がしたいの? セスと一緒の寝台で寝ていて、彼には何もさせてないの?」
「セスは私の愛玩物だから」
「は?」
「私の愛玩物」
リザンヌは両手で顔を覆った。
「貴女、おかしい。貴女おかしいわよ。愛玩物!! あー、エイヴ、あんたって、けっこう美人だってこと知ってる? 身体だっていい胸しているのよね。男だったらすぐに寝台に引き込んでしまいたい、いい女よ。それなのに、セスと一緒に寝て、やることはしていない」
「彼は目が見えないから、私の胸が大きかろうが、顔が美人だろうが、関係ない。目が見えないから」
「…………生殺しって言うのよ。セスが可哀想だわ。貴女、ちゃんと寝てあげないなら、セスと部屋を分けなさい」
「愛玩物だから、主人のそばで仕えるべき」
以前は、この屋敷に慣れてきたら階下にセスの部屋を作ってあげようと思っていたが、すっかりその気持ちは無くなっていた。だってちょうどいい抱き枕なのだもの。
「貴方、いつかセスに襲われるわよ!!」
「大丈夫、私の方が強いから」
リザンヌはガッと私の両肩を掴んだ。
「八年間、貴女と一緒だったから、私は知っている。貴女、処女よね」
「…………………」
「男っ気まったくないものね。マンセルとクランプも手を出していない」
「私の方が強いから」
リザンヌは顔を両手で覆って嘆いた。
「ああ、こんな子に育てた覚えはないのに」
八年前、一番最初に奴隷市場で購入したのは、このリザンヌというエルフの少女だった。
非常に高価な奴隷だったが、彼女は何も知らない私をよく導いてくれた。
誰も信頼できないのなら、信頼できる奴隷を増やしていけばいい。
そう言ったのも彼女だった。
だから、私はその後にマンセルとクランプを買ったのだ。
私は国を出る時に、相当な資金を持ち出していた。
双子の弟のリンデイルがそう勧めたからだ。
誰も信用できないなら、金で身を固めるしかないよ。
姉さま
金は貴女を裏切らないから
そしてリザンヌも、奴隷なら裏切らないと言った。
主人に尽くすよう、隷紋で縛れるから。
私は、裏切られるのはもう御免だった。
リザンヌは、私がセスにしていることは「ヒドイ」と言った。
男の沽券にもかかわる行為だと言った。
そんな「ヒドイ」ことをしているつもりはない。
良質の食事を与え、仕事を与え、ふかふかの寝台で眠る。
実は、私は彼と一緒に眠るのが好きだ。
あの金の巻き毛を見ていると、遠い過去を思い出す。
悲しみと苦しみのもっと向こうにある、遠い過去の中の幼い私は、幸福の中を生きていた。
きっとセスは知らない。
その頃の私の小さな幸福と、その後の私の不幸を、彼は知らないだろう。




