第十三話 奴隷の思い - 新しい生活 -
それからの日々は、単調なものだった。
朝起きて、身支度を済ませると、食事をする。その後、冒険者たる女主人とその連れの獣人達は仕事に出かけ、私は午前中いっぱい、低級ポーションを作る。
そして午後もポーション作りだ。
午後に入ると、リザンヌは中級ポーションも作らせてくれるようになった。
まだ失敗することも多いが、リザンヌはそのうち確実に作れるようになるとお墨付きをくれた。
根を詰めすぎると良くないと言って、リザンヌは途中、お茶の時間を入れたり、庭への散策に連れ出してくれる。
あまりにも穏やかすぎるその日々に、私は自分が奴隷の身であることを忘れそうになる。
つい先日まで、私は鞭を打たれ、鉄格子の中、肉の塊のように転がり、蠅にたかられていたのだ。
そんな悲惨な生活が、嘘のようだった。
女主人は腕の良い冒険者のようで、リザンヌに報酬の入った革袋を差し出しては、リザンヌを大喜びさせていた。
リザンヌは革袋の中の貨幣を嬉しそうに一枚ずつ数えて、それをまた街のギルドに預けているようだ。
屋敷の中に金品を置いておくと、強盗がくるからだと言っていた。
そして私が作ったポーションも、リザンヌは時々街に出て売りに行き、その売り上げを持ち帰っていた。
驚いたことに、彼女は私にその売り上げの一部を渡してくれた。
「エイヴが、そうしていいと言ったのよ。あなたの稼いだ報酬だから、あなたも受け取りなさいと言っていたわ」
私は驚きすぎて、言葉を失っていた。
冷たい硬貨の感触に、それが嘘ではないことを知った。
「お財布も、お古だけど私のを上げる。それに入れておきなさい」
私は革の財布に、そっと硬貨を入れた。
それが私の稼いだ初めての金で、私はあまりにもそのことが嬉しくて、それを使う気には到底なれなかった。
一月、二月と経つうちに、私は自分の体力が回復して来たことを知った。
以前は少し歩くと息が上がって疲れ切っていたが、いつの間にか疲れなくなっていた。もちろん、足の腱が切られているため、相変わらず壁に手を這わせ、階段は手すりにつかまり慎重に下りる必要があった。
ある日、リザンヌが私の髪を綺麗に切って整えてくれた。
伸びた黄金の髪は綺麗な巻き毛となっている。
彼女は、それを見て口笛を吹いた。
「王子様みたいに綺麗な髪。貴方の顔も綺麗だもの」
私は内心、震えていた。
気付かれてはいけない。
でも、身体が癒されれば癒されるほど、かつての自分の姿に近づいていく。
体力を回復した私は、それでも女主人にぬいぐるみのように抱かれて眠る毎日だった。
正直、苦行だった。
女主人は、若かった。
自分が考えていたよりも遥かに若いような娘だった。
滑らかで弾力のある肌の感触。甘い吐息。柔らかな髪の毛。
それらが毎晩毎晩、私の身に密着するのだ。
どんな修行僧でもたまらないだろう。
私は何度となく、してはいけないことだと思っていたが、夢の中で、この若い女主人を抱いていた。
私は懸想していた。
私を夜に抱きしめる女主人に恋焦がれるようになっていた。
ひどい苦境にあった私を救い、私に慈悲を垂れ、私の怪我を癒し、私に人としての生活を与えてくれた。
感謝し、そして、次第にその愛を求めるのは仕方ないだろう。
彼女を愛し、愛されたい。
でも、私は奴隷の身だった。
すでに、彼女には拒絶されたこともある。
いらないと。
けれど私は自分の美しさを自負していた。
その目こそ失っていたが、顔立ちの良さ、その黄金の巻き毛の美しさ、その肢体の素晴らしさが人にどう思われ、そしてどう影響を与えるのか理解していた。
王家の青い血の持ち主たる私は、大層美しい男だった。
だから、身体が回復しつつある今、私は彼女に再度、奉仕を申し出たのだった。




