表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷市場に、私を婚約破棄した王太子が売っていたので買ってきました。[全年齢版]  作者: 曙はるか
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/30

第十三話 奴隷の思い - 新しい生活 -

 それからの日々は、単調なものだった。

 朝起きて、身支度を済ませると、食事をする。その後、冒険者たる女主人とその連れの獣人達は仕事に出かけ、私は午前中いっぱい、低級ポーションを作る。

 そして午後もポーション作りだ。

 午後に入ると、リザンヌは中級ポーションも作らせてくれるようになった。

 まだ失敗することも多いが、リザンヌはそのうち確実に作れるようになるとお墨付きをくれた。


 根を詰めすぎると良くないと言って、リザンヌは途中、お茶の時間を入れたり、庭への散策に連れ出してくれる。

 あまりにも穏やかすぎるその日々に、私は自分が奴隷の身であることを忘れそうになる。

 つい先日まで、私は鞭を打たれ、鉄格子の中、肉の塊のように転がり、蠅にたかられていたのだ。

 そんな悲惨な生活が、嘘のようだった。





 女主人は腕の良い冒険者のようで、リザンヌに報酬の入った革袋を差し出しては、リザンヌを大喜びさせていた。

 リザンヌは革袋の中の貨幣を嬉しそうに一枚ずつ数えて、それをまた街のギルドに預けているようだ。

 屋敷の中に金品を置いておくと、強盗がくるからだと言っていた。


 そして私が作ったポーションも、リザンヌは時々街に出て売りに行き、その売り上げを持ち帰っていた。

 驚いたことに、彼女は私にその売り上げの一部を渡してくれた。


「エイヴが、そうしていいと言ったのよ。あなたの稼いだ報酬だから、あなたも受け取りなさいと言っていたわ」


 私は驚きすぎて、言葉を失っていた。

 冷たい硬貨の感触に、それが嘘ではないことを知った。


「お財布も、お古だけど私のを上げる。それに入れておきなさい」


 私は革の財布に、そっと硬貨を入れた。


 それが私の稼いだ初めての金で、私はあまりにもそのことが嬉しくて、それを使う気には到底なれなかった。





 一月、二月と経つうちに、私は自分の体力が回復して来たことを知った。

 以前は少し歩くと息が上がって疲れ切っていたが、いつの間にか疲れなくなっていた。もちろん、足の腱が切られているため、相変わらず壁に手を這わせ、階段は手すりにつかまり慎重に下りる必要があった。


 ある日、リザンヌが私の髪を綺麗に切って整えてくれた。

 伸びた黄金の髪は綺麗な巻き毛となっている。


 彼女は、それを見て口笛を吹いた。


「王子様みたいに綺麗な髪。貴方の顔も綺麗だもの」


 私は内心、震えていた。


 気付かれてはいけない。

 でも、身体が癒されれば癒されるほど、かつての自分の姿に近づいていく。



 体力を回復した私は、それでも女主人にぬいぐるみのように抱かれて眠る毎日だった。

 

 正直、苦行だった。


 女主人は、若かった。

 自分が考えていたよりも遥かに若いような娘だった。

 

 滑らかで弾力のある肌の感触。甘い吐息。柔らかな髪の毛。

 それらが毎晩毎晩、私の身に密着するのだ。


 どんな修行僧でもたまらないだろう。


 私は何度となく、してはいけないことだと思っていたが、夢の中で、この若い女主人を抱いていた。

 

 私は懸想していた。


 私を夜に抱きしめる女主人に恋焦がれるようになっていた。


 

 ひどい苦境にあった私を救い、私に慈悲を垂れ、私の怪我を癒し、私に人としての生活を与えてくれた。

 感謝し、そして、次第にその愛を求めるのは仕方ないだろう。


 彼女を愛し、愛されたい。




 でも、私は奴隷の身だった。

 すでに、彼女には拒絶されたこともある。


 いらないと。






 けれど私は自分の美しさを自負していた。

 その目こそ失っていたが、顔立ちの良さ、その黄金の巻き毛の美しさ、その肢体の素晴らしさが人にどう思われ、そしてどう影響を与えるのか理解していた。

 王家の青い血の持ち主たる私は、大層美しい男だった。


 だから、身体が回復しつつある今、私は彼女に再度、奉仕を申し出たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ