第十一話 奴隷の思い - 新しい仕事 -
食事を終えた私を、リザンヌは別の部屋に案内してくれた。
「エイヴが、貴方には魔力がたくさんあると言っていたの。まず、その魔力を測らせてもらっていいかしら」
「はい」
リザンヌも、女主人に似て丁寧な口調だった。奴隷に対する態度とは思えないほどだった。
だいたい、リザンヌも奴隷だというのに、彼女は奴隷とは思えない品の良さがあった。
考えてみれば、エイヴという女主人もそうだった。
傲慢な口をききながらも、気品を感じることがある。不思議な女だった。
リザンヌは私の右手を、滑らかな玉に触れさせた。鑑定の水晶玉であろうと思った。
彼女は水晶玉を覗き込んで驚いていた。
「……確かに、人間にしては膨大な魔力を持っているわね。これなら魔術師としても、ひとかどのモノになれるでしょうに」
殿下は素晴らしい。
もう上級魔法をお修めになったのですか。
王宮にいた時、人々が口々にした賛辞を思い出す。
私は当然のようにそれを受け止めていた。
誰よりも賢く、才能ある、美しい王太子。
それがかつての私だった。
一瞬、その頃のことを思い出し、眩暈にも似た想いを抱く。
「ポーションを作ったことがあるかしら。それを作ってもらうわ」
作り方は知っているが、実際に作ったことはない。
リザンヌが丁寧に、私に説明してくれる。そして液体を注いだ容器を幾つも用意してくれた。
「目が見えないと不便ね。あー、私が容器に清浄水は入れておいてあげる。力を込めたらすぐに蓋をして頂戴。それはできるわよね。うんうん。じゃあ、こう決めましょう。右側のケースには私が清浄水を入れた容器をとりあえず、十個置いておくわ。蓋はあなたのすぐ前の、そう、その箱にまとめてある。ケースの中の清浄水の入った容器を手に取って、ポーションに変化するように念じて。あああ、あなた無詠唱でできるの? 本当に凄いわね。ちょっと、エイヴが貴方を買ったのを呆れて見ていたけど、お買い得だったのかも知れないわ」
私が無詠唱でポーションに変化させ、手早く蓋をしている様子を見て、これならできそうだと彼女は満足そうな様子だった。
「貴方の魔力量だと、十個位は軽いでしょうが、今日は初日だからそれをきちんと作り上げることを目標にしましょう。無理はしなくていいわ」
「はい」
椅子に座って淡々と仕事をこなしていく。
リザンヌは私が仕事をきちんとやっているのを見て、何か別の仕事をやり始めていた。
気になって問いかける私に、彼女は「帳簿を付けている」と言った。
リザンヌは相応の学識があるようだった。当然だ。ポーションの作り方を他人に指示できるのだから、魔法学を修めているのだろう。
カリカリと文字を書いている音がする。
そしてそうした学のある奴隷を使役するのだから、エイヴという女主人も文字を読め、数字を理解できるのではないかと思った。
文盲の者が多いところ、珍しいといえる。
午前中にポーションを十個作り上げた。
私は疲れを覚えてぐったりと椅子に座っていると、リザンヌは言った。
「貴方の魔力量だと、本当はもっとたくさん作れるのでしょうけど、慣れていないし、体力もないので疲労してしまうのでしょうね。当面の目標は、この作業に慣れること。早く体力を回復させることね。十個の低級ポーションを作れたわ。ありがとう」
そう言われて、私は無意識に満足そうに微笑んでいた。
人に褒められることなど、本当に久しぶりのことだった。
嬉しかった。




