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奴隷市場に、私を婚約破棄した王太子が売っていたので買ってきました。[全年齢版]  作者: 曙はるか
第一章

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第九話 エルフの少女の問いかけ

 エルフの少女リザンヌは、私が部屋から出て居間に戻ってくるのを待っていた。

 優美な眉を寄せて、私を見つめている。


「アレは誰? いったいどこでどうして連れてきたの?」


 私は彼女の前の椅子に座り、足を組んだ。

 すでにマンセルもクランプも自室に入り、眠りについているようだ。

 でも、二人は獣人だ。耳は非常に(さと)い。

 だから、テーブルの上に“静寂の魔道具”を置いて、部屋の音が漏れないようにした。

 そうまでして警戒する私に、また一層、リザンヌは眉間の皺を深くした。


「奴隷市場で安く売っていたから、買ってきた。相応の魔力持ちだ。ポーションを作らせればいい。売っても金になり、元手は取れるでしょう」


「………………」


「名前はセスという。随分と虐待を受けていた奴隷だから、そう思って扱って欲しい。私がいない間は、リザンヌに世話を頼むわ」


 リザンヌは深くため息をついた。


「わかったわ。もう、決めちゃった感じなのね」


「そう」


「……彼、随分と綺麗な男だわ。そして、エイヴ、貴女と同じ貴族の匂いがする」


 その言葉に、私はリザンヌを睨みつけた。リザンヌは少しだけ笑った。

 

「わかっているわよ。他の人には言わないわ」


 リザンヌは勘の良いエルフだった。

 その少女のような外見と裏腹に、長く生きるエルフ族だった。

 彼女は気が付いているかもしれない。


 だが、たとえ気が付いていようとそのことを彼女は口にしないだろう。

 

 彼女は私の味方で、私の家族で、私の奴隷だったから。






 セスが眠る寝台の横に滑り込み、私は息を吐いた。

 すでにセスは眠りこけている。

 目の周りの傷をポーションで癒したから、瞼を閉じている限り、その眼窩のひどい有様は見えない。

 頬はまだこけて、痩せ細ってはいるけれど、綺麗な顔立ちがよくわかる。


「セオルグ」


 彼の本当の名を呼んでみた。

 その名を呼ぶのも、八年ぶりだった。


 そう呼ぶと、子供の頃のセオルグはまだ優しくエヴェリーナと私の名を呼んでくれた。

 そして大人になった彼は、私の名を呼ばず、ただ冷ややかに見つめるのみだった。

 今はもう、私の名をきっと忘れている。


 でもたぶん、それでいいのだと思う。


「おやすみ、セス」







 翌朝、私は眠っているセスをそのままにして、マンセルとクランプを連れて冒険者ギルドに足を運ぶことにした。

 先刻の街での、依頼を完遂した報酬を受け取らなければならなかった。


 セスは疲れているから、起きるまで眠らせたままでいいと言うと、リザンヌはもちろんのこと、マンセルもクランプは何故かため息をついて言った。


「あんまり甘やかさない方がいいぜ。奴隷なんだから」


 貴方達も奴隷なんだと思うのだけど。

 そう言うと、三人は声を上げて笑っていた。


「俺達はいいんだよ。奴隷というよりも、仲間だろ」


「そうそう、エイヴの仲間だ。あんたの背中を守るのは俺達の仕事」


「ご主人様のお帰りになる屋敷を整え、食事を用意するのは私の仕事」


 マンセルもクランプも、そしてリザンヌも自身の仕事をどこか誇らしげに言っていく。

 彼らも皆、奴隷市場で売られていた奴隷達だった。

 八年かけて、彼らの信頼を勝ち得ていた。


 なんとなく気恥ずかしくなって黙り込んでいる私の肩を、マンセルはぽんと叩いて、「行こう」と言った。

 だから私達は、街に向かって歩き始めた。

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