都内ボロアパート、風呂、大魔王付き
下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞参加作品
東祥太郎の夢は都内の会社に勤めて東京人として生きていくことだ。幼い頃からテレビで東京という大都会を見てきた彼の夢だった。しかし、その夢は勤めていた会社が倒産し、貯金も困っている時、優しく声をかけてくれた人達に持っていかれたため打ち砕かれた。
結果として住んでいた賃貸マンションから出ていかなくてはいけなくなり、祥太郎は都内で路頭に迷っていった。
「安いのでも3万円か……」
不動産屋の窓に張り出されている賃貸情報を祥太郎は凝視していた。
「ボロくてもいいから安い部屋……」
「お部屋をお探しですね」
聞こえてきた声の方へ祥太郎が顔を向けるとブロンド髪の女性が立っていた。
「ご希望などありますか?」
「えっと、あの……」
「ふむふむ、とにかく安い場所と。そうなんですね、勤めていた会社が潰れて、悪い人に騙されて」
祥太郎の思考を読むように女性は祥太郎の事情を口にする。
「なんで考えている事……」
「すいません、つい思考盗聴を。人の思考を読むのが癖になっていまして」
直感的にやばい人だと察した祥太郎はその場を去ろうとしたがその思考も読まれたのか女性に先回りされる。
「いい物件があるんですよ。どうですか?」
「い、いえ、結構です。大丈夫ですから」
「都内の古いアパートですけど、家賃一か月千円」
千円という言葉にその場を離れようとした祥太郎の足が止まる。しかし、いい話があると騙されたばかりの祥太郎は警戒心が強かった。
「事故物件とかですか?」
「事故なんて起こってませんよ。ただ古いだけです。でもオプションがついています」
「エアコンとかですか?」
「すいません、エアコンは無いんです。でも代わりにお風呂と大魔王付きです」
満面の笑みを浮かべながら聞きなれない言葉を女性が発したので祥太郎は聞き返さない訳にはいかなかった。
「今何と?」
「都内ボロアパート、オプションでお風呂と大魔王付きです」
大魔王とは自分が想像する大魔王だろうかと悩む祥太郎に対して女性はその大魔王ですと祥太郎の思考盗聴して笑顔で頷く。
祥太郎は一度深く深呼吸をした後、女性に笑顔を返して全力でその場を走り去った。
「大魔王様、また逃げられましたよ? なんででしょうか?」
「思考盗聴するからじゃないかな?」
どこからか聞こえてきた声が女性にツッコミを入れた。