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Para bellum  作者: Kitson
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第一話 百戦錬磨の鷹と戦友との約束 中編

玲は敵に気づかれないようにそっと屋上の扉を開け、銃を置いた。彼は双眼鏡を取り出し、床に伏せ、めぼしいところを探っていく。対スナイパー戦はとにかく我慢と思考の勝負だと自分に言い聞かせ、思考を加速させていく。あの窓の奥の場所を狙撃するには高低差があったら窓枠に邪魔されて狙撃ができないはずだ。となると向かいのビルの窓のそばに陣取るか屋上に陣取るかのどちらかだ。相手からの射線が広く取られてしまう窓のそばは悪手になり普通の思考をする奴なら屋上を選ぶはずだ。彼はそう考え、屋上を探ったがスナイパーは見つからなかった。彼は部屋の窓の景色を考える。どこに射線が通っていたのか。しかし、彼が考えうる射線が通っている場所にはスナイパーはいない。ふと、彼はなぜ敵が自分を狙わなかったのか疑問に思った。普通ならスポッターではなく、自分を狙うはずだ。まさか、外れてしまうほどの距離だったのか。彼の頭の中で段々とパズルのピースが埋まっていく。じゃあどうして距離を取ったのか。囮狙撃の対抗としてきたはいいものの、場所まで絞りきれなくて遠くから偵察をしてから自分たちに気づかれないように遠くに陣取り、狙った。街の外周は小高い丘になっていて、街全体を見るのにはちょうどいい。彼は考えた。そして、丘からあの部屋の中を狙撃できるような場所を双眼鏡で探った。すると、ちょうど砂漠迷彩をした二人を発見した。モノポッドを使用し、腰掛けるようにしてこちらの建物を狙っているが、まだ、玲のことはまだ見えていないようだ。彼は双眼鏡をしまい、バイポッドを展開し、銃を構えた。銃を構えている男の顔が見えた。何かスポッターと話しているようだが、流石にわからない。だが、これまでよくある復讐劇を冷ややかな目で見ていたはずの玲だったが、何故かふつふつと彼をの頭をぶち抜いてやりたい。と感じていたのだった。

 距離を目算で計算する。スコープで見ると敵の肩幅は1.25milだった。肩幅を50cmと計算すると大体2000メートル離れていることになる。弾が落ちる高さを計算し、スコープのヴィンテージノブを調整していく。長距離狙撃をする時のルーティーンでタバコを咥え、火をつけた。ストックのサムホールに親指を通し、引き金に人差し指を掛けた。そして、ウィークハンドでメインハンド側の手首を支える。繰り返しやって来たプローンの姿勢を作り、彼は大きく息を吸った。肺の中に立ち込める紫煙の香りが気分を落ち着けてくれる。そして大きく息を吐き、紫煙を吐き出して今度は息を3割ぐらい吸って呼吸を止めた。引き金に指を掛け、引き絞っていく。スコープには男が映っている。段々と指にかける力を入れていく。まるで桜の花びらが地面に落ちていくようにゆっくりと引き金を引いていき、そしてファイアリングピンが前進するのを感じた刹那、マズルフラッシュで視界が白む。直後反動が来て、何回もやったように肩を上手く使い反動を逃した。その間大体0.1秒くらいだろうか。玲は再びスコープを覗くが、弾はまだ命中していない。大体4秒ぐらい待っただろうか男の頭に命中し、血しぶきが上がったのを確認した後、薬莢を排莢、もう一発装填し、今度はスポッターに照準を合わせた。さっきと同じ要領でテンポよく息を止め、引き絞り、発射した。また4秒後に命中を確認した。彼は立ち上がり、タバコを足元に吐き捨て、踏んで火を消し、時計を確認した。ちょうど300秒くらいであった。彼は無線機を手に取った。

「リーパーツーからリーパーワンへ。敵スナイパーを排除した。繰り返す敵スナイパーを排除した。」

「リーパーワン了解。至急そちらに向かう。」

交信を終え、玲は銃を抱え、急いで元の部屋に戻った。

 「おい、大丈夫か。」

玲は部屋に入るやいなや横たわっているアントニオに声を掛けた。

「ああ、何とかな。やっと鎮痛剤が効いてきたようだ。」

だが、顔は青白く、声もあまり生気を感じられるものでもなかった。気休めだろうが、玲はアントニオを目に入った部屋の奥の方のベッドまで運んで寝かした。

「それは良かった。もうすぐで衛生兵が来るからな。」

玲は気休めと分かっていてもアントニオに声を掛けた。沈黙の時間が流れていく。彼は心の中で衛生兵が早く来ることを祈ったが中々やって来ない。苛立った彼は舌打ちをし、時計を確認したが、まだ最後に通信をしてから1分しか立っていなかった。

 結局5分ぐらいしてエンジン音が聞こえ始めた頃、リーパーワンから通信があった。

「リーパーワンからリーパーツーへ。たった今そちらの建物についた。」

「リーパーツー了解。」

やっと衛生兵がやって来て玲は胸をなでおろした。足音がしてくる。ちょうど4人分だ。

「けが人はどこだ。」

黒人の男が話しかけてきた。彼は衛生兵と言っても、アメリカ軍からの派遣で陸軍のQコースで医療技術コースを専攻した奴だったはずだ。寄せ集めのリーパー中隊では医療知識のある人材として重宝されていたのであった。

「あそこに寝かしている。」

玲は指を指し、部屋の奥の方を指した。

「後は任せろ。」

黒人の男は素っ気なく言い、部屋の奥の方へ行った。

後から三人入ってきて、そのうちの口に髭が生えている白人の男が声を掛けてきた。確かリーパーワン小隊の隊長で海兵隊出身だったはずだ。

「RTBの許可は出た。ヘリが出るそうだ。LDまで出撃時使用した車両で移動し、ヘリに移乗し、車両は放棄するらしい。けちん坊のHQにしては随分と気前のいいことを言う。そんなに怪我した奴は大事なのか?」

「彼はプーゲンビル出身の少尉ですが特殊部隊出身でプーゲンビルから死なせないように要請があったそうですよ。」

もう一人のリーパーワン小隊の男が口を挟む。金髪で少しチャラけている男である。

「そうか。まあ気を落とすなキクチ少尉。戦場ではままあることだ。こんなことで青くなっていったら、海に入ると見分けがつかなくなるほどになってしまうぞ。」

「分かっているのですが中尉、やはり自分の不注意が原因だったのではないかと思ってしまうのです。」

小隊長は冗談で励ましてくれようとしているのは分かっているが、玲はやはり、自分になにかできることはあったのではないかと考えてしまうのだった。

「まあ、いい。深く考えるな。」

小隊長が言った時、黒人の男ともう一人の男が担架を抱えて出てきた。

「中尉、準備ができました。」

「よし、諸君撤退だ。」

玲がライフルをライフルバックに仕舞って背負い、バックアップのMP7を取り出した時、全員が出発を始めた。玲は最後尾についたが、アントニオとすれ違った時、彼の呼吸は早くなり、顔もより青ざめたように見えた。

 車に全員が乗車し、車は発進した。二列あるシートの一番後ろにアントニオと黒人の男がその前にリーパーワン小隊のメンツが、玲は助手席に座った。運転は小隊長である。大体ここからLDまで五分かかり、ヘリでもう十分ぐらいだろうか。

「脈が早くなってきています。薬で持たせてはいますが、助かるかは五分五分です。急いでください。」

車に乗って三分ぐらいしてから、黒人の男が叫ぶようにして言った。もう町からは出て、LDまではもうすぐである。ヘリのローターが風を切る音が聞こえてくる。UH-60ブラックホークが見えてきた。よく見ると国連軍の識別マークのUNが小さく書かれている。

 少し広めの広場に車を止め、車から降り、ヘリに移乗した。2,3分してからヘリは離陸した。玲はヘリの椅子に座るとちょうどアントニオの顔が足元に来ていた。黒人の男がせっせと処置をしている。玲は何も考えることが出来ず、ただ黙って相棒の青ざめた顔を見るほか何も出来なかった。すると、アントニオが途切れ途切れに喋りだした。

「どうした、レイ、そんな、湿気た顔、するなよ。」

「済まない、俺がちゃんと警戒していればこんなことにはならなかったはずだ。」

「バーカ、あんなに離れた、距離のスナイパーに、気付ける奴なんていねーよ。運が悪かっただけだ。それに、こういう時は、覚悟して、俺らは、この稼業に、ついている。」

「だが、お前には家族がいるだろう?孤児院へ仕送りしている話はどうなった?」

「そう、だな。もし、お前の、気が、向いたら、お前が、面倒を、見てくれ、ないか?特に、あいつは、寂しがり屋、だからな、あいつが、唯一の、俺の、家族、のような、存在、だから、な。」

そう言い残し、アントニオは目を閉じ何も言わなくなった。

「おい!起きろ!」

玲は何も言わなくなったアントニオの肩を激しく揺さぶったが、彼は起きることなく頭が揺れただけであった。

「どけろ!」

黒人の男が叫び、迫ってくる。玲は仕方なく場所を譲った。すぐにCPRを始めた。玲は予期していたことだが、相棒が死ぬという事実を受け入れることができなくて呆然として到着を待つしかなかった。そして、到着するとすぐにアントニオはERに担ぎ込まれたものの、すぐに死亡が診断された。


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