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Para bellum  作者: Kitson
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第一話 百戦錬磨の鷹と戦友との約束 前編

この男の名前は菊池玲という。元自衛隊特殊事案海外派遣部隊所属のれっきとしたエリート兵士であった。除隊時の階級は三等陸尉である。彼は各国の軍と一緒に様々なカウンターテロ作戦に従事してきた。という表向きの経歴と、様々な紛争地域を渡り歩き、ダーティーな任務もこなしてきたという裏の経歴を持っている。上からの評価は品行方正、質実剛健であり、他の模範となる理想的な兵士であった。そんな彼が任意除隊と言う名の事実上の懲戒除隊をさせられらのは一ヶ月前のことである。

荒廃した街、度々発生する砂嵐のせいで砂埃が舞うビル街に菊池玲は任務で派遣されていた。

「それを手に取るんじゃないんだぞ。」

玲はぼそっと呟いた。彼は建物の中の窓から少し離れた所で、イギリス軍から払い下げられたアキュラシーインターナショナル製のL115ライフルを構えていた。彼の覗くスコープには興味深そうに道端に落ちている銃に近づく男の子が映っている。過去のイラク戦争で問題となった囮狙撃である。彼の隣にはプラチナブロンドで黒瞳の西洋人の男がいる。男の覗くフィールドスコープにも男の子が映る。

「お、確認戦果100を超えるキリングサイボーグ・レイにも人の心があったとはこれは驚きだ。」

彼の名は、アントニオ。プーゲンビルと呼ばれる国の出身。玲とは初めて作戦行動をともにしてからかれこれ一年以上経過している。彼らは中東地域でのゲリラ鎮圧作戦で派遣されていた。

「うるさいな。撃つと場所もバレるし、弾も使う。ただそれだけだ。任務は任務だきっちりこなすさ。」

「はい、はい。そういうことにしておくよ。まあ嫌な仕事だよな。」

「子供を撃つことをためらって死んだ奴を俺は知っている。子供は無邪気だからこそ大人を超えることをしでかすのさ。」

「俺の妹たちのような年の子供がライフル抱えてゲリラ戦をやっているのが想像つかないが、そんなもんなのか?」

アントニオには妹がいた。玲も写真だけなら見たことがあった。ただし血の繋がった妹ではない。彼は孤児院の出身であった。最年長であった彼は自分よりも年下の子どもたちを兄弟のように接していた。その中でもとりわけ懐かれていたのが、写真で見た少女であった。

「ああ。そんなもんなんだよ。まあ、あの子が銃を撃つと、多分銃に撃たされているようにしか見えないだろうがな。」

「だろうな。そういえばあいつお前に会いたがってるからさ、今度会いに来てくれないか?」

「構わないが、今度の休暇が何時になるのかは、俺の雇い主の日本政府と、サムおじさんの気分次第だな。」

和気藹々とした会話を遮るように無線が入ってくる。

「リーパーワンからリーパーツーへ。客人がトイボックスを手に取った。繰り返す客人がトイボックスを手に取った。至急、リーパーツーは対応を願う。」

アントニオは無線に応答した。

「リーパーツーからリーパーワンへ状況は理解した。客人を目視。至急対応に当たる。オーバー。」

玲の願いは虚しく、男の子は銃を手に取り遊んでいた。

「あーあ、残念だが弾は節約できないようだ。距離200メートル、風なし。」

「分かっている。せめて一発で済ませるさ。」

乾いた銃声がなった。マズルフラッシュで一瞬視界が白くなった。

「ヘッドショット。目標沈黙。上出来だ、玲。」

小さな男の子の頭はザクロのように弾けていた。

「リーパーツーからリーパーワンへ、客人は沈黙した。繰り返す、客人は沈黙した。引き続き任務を続行する。オーバー。」

一通り終わり、彼ら二人はまた罠に人がかかるまで待つこととなった。

「なあお前の妹は何歳になるんだ?」

玲はアントニオに聞いた。

「もうそろそろ16歳ぐらいになっているはずだ。どうした?惚れたのか?無理もないな。あれに敵う美人なんて世界に一人としていないからな。」

「なあ手前味噌って言葉を知っているか?」

アントニオの自慢話に玲は呆れて閉口していた。ただこうやって何事もなくバカ話ができる平穏無事が続くことを彼は祈った。しかし、彼の祈りを突っぱねるかのように風を切ったような音が聞こえた。玲は一瞬何が起こったのか理解するのに戸惑った。ただ隣の男を見ると腹に弾をもらっていたのだった。

 「ぐぁぁぁぁ」

 隣にいた男がもがき、叫ぶ。その男が今の今まで自分と親しくしていた男だということを理解するまで数秒かかった。アントニオを窓のそばに引きずり、射線から隠し応急処置をした。しかし、出血は止まらず周りの布に血が滲んでいく。とりあえず玲は窓から頭を少しだけだし、状況を再確認した。ざっと見たところで周囲に兵士はいない。つまりこれはカウンタースナイパーの仕業である。窓の下に隠れ、仲間に通信をした。

「リーパーツーからリーパーワンへ、スポッターがカウンタースナイパーにやられた。腹部に銃創。任務続行は困難。RTBを要請する。」

「リーパーワン了解。今からそちらに衛生兵を急行させる。だが、その前にスナイパーを排除してくれ。」

「リーパーツー了解。300秒待ってくれ。」

玲は無線交信を終えた。彼は思考した。裏ではリーパーワンがHQにRTB要請しているが、恐らくそれは通るだろう。目下の問題は敵スナイパーの対処であった。まずは場所を変えなくては。彼は屋上に移動することを決意した。

「すまん、すぐに衛生兵が来るからな。」

相棒に声をかけ、彼は敵に気取られることなく部屋を出た。


プロローグからの過去編です。もう少し菊池三尉の過去編にお付き合いください。

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