師の思い、子へ届かず。子の思い、師へ届かず。
話口調とか適当だし、調べるまで「免許皆伝」って一つのランクかと思ってました。
免許と皆伝は別なんですねー。
思いつきで書いてるので引っかかるところがあるかと思いますが、そんなもんです。
あと、フィクションです!
酒を飲んだ男が妻と話していた。
今日は師の命日である。それを知っていて妻はあえて浸り話を聞きだすのだ。
ただ一言「あの時のこと覚えてる?」というだけでいい。
そうすれば男は話し始めるのだから。
ススキに囲まれた広めの稽古場には、深護法流の師弟子が揃っていた。
月明かりに照らされた者たちの面持ちは其々にあり。
後ろ手を組み、小柄な割に一際鋭い眼光の男が一人。
苛立ちに加え重ねた分の重みを放つ男が一人。
散漫な重心だが隙のない若さの混じる男が一人。
風の音に混じりため息が舞う中、小柄な男が話を始める。
「お前たち。今までの修練により力を付けたことは分かった。
だが覚悟があるのかを今一度確認しよう。」
真面目な性格の男が苛立ちながら話を遮る。
「師匠!お言葉ですが我らの意志は固い!
揺るがぬものを確認して何になりましよう!」
隙を突いたかのように会話に混じる比較的若い男が話す。
「兄者。師のお言葉を切り捨てるとは如何なものか。
師は嘆いておられるやもしれぬ。今一度師のお顔を見るのです。」
兄者と呼ばれる一番弟子が言葉を受け流し、切り返す。
「ふん。大方視線を外した隙を突くのだろう、弟よ。
お前の作法は知れたものよ!」
「いえ、兄者よ。師は憂いておられるのです。
何故我らが皆伝を奪い合うのかと。」
師匠と呼ばれる男は大きく頷いている。
兄者は鼻で笑いながら答える。
「何を言っている!師から学び師を越えることこそが我らの本懐であろう!」
「確かに!」
弟は思わず感心するが、師匠は首を横に振った。
「お前たち、よく聞け。切紙、目録、免許、皆伝へと進む道は険しい。
しかし、お前たち二人はよくやっている。
ここまで至ったことに私は嬉しく思っているのだ。
そんなお前たちが争うのを見たいと思うか?
いや、私は協力して欲しいのだよ。
その心を読み取れぬとはまだ浅い。さあ、今一度修練を積むのだ!」
「修練は嫌だ。」
弟は手練れ。流派の中でも秀でた才能の持ち主である。
その反応速度は兄弟子や恐らく師匠をも越えているのだろう。
条件反射で修練を嫌がる。
「うむ。すでに我らは皆伝へと至っているはずだ。
だからこそ我らは戦わなくてはならぬ!」
覚悟の決まった兄者は刀の鍔に指を掛け押し、刀身を光らせる。
紛う事なき真剣。青白く月明かりを反射するそれは寒気を広め、
まるで感染するかのように恐怖となって伝播する。
背筋に震えを感じた弟はやはり条件反射的に、自らの刀に指を掛ける。
「それで良いのだ、体は正直だ。死にたくなければ戦うしかないのだ!」
「ハックショイ!」
「!」「!」
夜。それもススキ舞う夜。秋の風が強い夜。寒かろう。
老体には堪えるものがある。致し方なし。
「もう良い。お前たちの覚悟は分かった。
天気次第だが太陽が照らす暖かな日にしよう。」
寒さに震えながら話す師の姿は、どこか小さく見えた。
しかし事態は一転する。
くしゃみに驚き互いに刀を抜いてしまったのだ。
間合いこそ離れているものの、抜いた刀を仕舞うのは剣士の恥である。
抜かれた刀を仕舞われるのもまた、情けを掛けられることとして恥である。
ならば既に道は一つ。
互いに不意な形とはいえ、やらねばならないのだ。
「」
「」
「」
覚悟の揺らいだ兄弟子。
元々揺らいでいるがたぶん勝ってしまう弟弟子。
結果は大方予想がつくが、二人に勝負の声を掛けなければならない師匠。
三者を踊るように囲むススキは、
かさかさと音を立てながら月の光に照らされて光る。
今宵は大きな満月で、道場には団子が飾ってあるのだ。
他の門下生は何も知らず、今か今かと待ち侘びているに違いない。
深護法流とは、名もなき剣豪が編み出した流派で、
「深く入り、護ること」を目的として作られた。
先代の記した規定書によると、『真剣勝負ノ勝利者ヲ皆伝トス。』とされている。
師匠は無論このことを知っている。
しかしそれを守ればどちらかを失うことになる。
兄弟子には、後を継いで道場を経営して欲しい。
弟弟子には、皆伝に至り他流試合に励んで欲しい。
どちらが欠けても駄目なのだ。
師の思い、子へ届かず。
兄弟子は皆伝に至った後、故郷へ帰るつもりでいた。
故郷で深護法流を広め、護れなかった母の墓参りに行くのだ。
兄弟子の父は強い男であったため、少年はその背中を誇りに思った。
その父が亡くなり疎開することとなる。
失意の中の少年は母と荷車を押していたが、
ふと思い出す父の言葉に力が湧いたものだ。
「お前が母を守るのだぞ!男だからな!」
しかし、野党に襲われ、少年は母を護れなかった。
少年は歯を食いしばりながら一人で生きてきた。
剣の腕を磨きあの日の復讐を誓っていたが、師の教えにより改心。
切り捨てるのではなく、活かすことこそ本懐であると考えた。
だが時は過ぎるも、皆伝には至らず。
苛立ちはやがて師と弟弟子へと向けられてしまったのである。
弟弟子はあるがままに生き、あるがままに死ぬものと考えていた。
親はなく、拾い物や狩りで生きる様は野生であった。
その後、師に拾われ剣を仕込まれる。
生きることが戦いに染まっていた少年は
持ち前の運動能力で一線を画す存在となっていた。
しかし、実は刀が嫌いで持たない方が強い。
丸腰でいれば戦わなくて済むことが分かってからは、更に刀を持たなくなった。
言葉を信用しない少年は常に相手の内側を読み、戦わずに済む方法を探していた。
そんな青年は一度だけ刀を持って戦ったことがあった。
兄弟子が不意打ちされた時。
体が勝手に動き、兄弟子を護ったのだ。
その時初めて野生の少年にはっきりとした繋がりが芽生えたのである。
子の思い、師へ届かず。
今弟子の二人は刀を抜いて向き合い、師がそれを見守る。
運命は目に見えるほどに残酷に役割を示していた。
剣士は多くは語らず、背中で語るものである。
事、真剣勝負に措いて語る背もなくなれば何も誰にも伝わらない。
そのことを分かっていながらも、師は後ろ手を解き右手を前に伸ばす。
ゆっくりと、ゆっくりと伸ばすその手は、別れの挨拶そのものである。
決意を胸に師は「始め!」という言葉を喉元に構えたその時!
可愛らしい声が細くたどたどしく、風と共に三人の耳を撫でた。
「それからどうなったの?」
齢二十歳かそこらの妻が問う。
「そこで助けられたのさ。お前はある意味、我ら兄弟の命の恩人だよ。」
優しく微笑みながら答えた者は兄弟子であった。もう三十歳になったか。
酒を飲みながら当時を振り返るのは、もうこれで五度目だろうか。
師匠は当時、行き場を無くした母子を手伝いとして道場に置いていたが、
その娘がススキの間に隠れていたらしい。
「今夜は徹夜で修練するの?」
弟子二人は語らず、刀をするりと鞘に納める。
師は右手を後ろに回し組む。
三人は同時に溜めていた思いを溜息として吐き出した。
師は娘に話しかける。
「寒かろう!今日はここまでなんじゃ。道場へみんなで一緒に帰ろうかのう。」
娘は兄弟子と弟弟子の間に入り、手を繋いだ。
そして一言、少女らしからぬお叱りを話す。
「腹ん中は誰も見られないから、
ちゃんと話すべきだって裏のばっちゃんが言ってたよ!」
嬉しそうにはしゃぐ娘はにっこり微笑みながら弟子二人を交互に見る。
兄弟子は緩く脱力して返す。「そうか、分かった。」
弟弟子は調子良く返す。「そうだよね!俺もそうだと思ってたんだ!」
「その日の団子は旨かった。お前といるとそれを思い出すのだ。」
眠った兄者の肌蹴た着物を直し。その横で眠る娘。
弟は別の道場で剣の腕を試しているだろう。
師は最後に言っていた。「二人仲良く、道場を頼んだぞ。」
その言葉を深く胸に刻み、師の教えを護って生きることを
二人は誓ったのであった。
適当なものを書いていますが、良かったら他のもお目通しいただきたく…。
感想等もらえるとやる気になりますので、ぜひ宜しくお願い致します!
読んでいただきありがとうございました!