とりかご
「じゃあ、とりかごをしましょう」
メンバの組み合わせを変えながらパス練習を終えると千佳が言った。
「みさきと理紗、美紗はマーカーを四枚残してあとは片付けてくれる?」
「分かったー」
「千佳は何をするの?」
「藍那にとりかごの説明をするわ。あ、残した四枚で正方形作ってくれる?」
「分かったで」
千佳の指示のもと、藍那以外の三人はうなずき各々マーカーを取りに行く。
「さて、藍那。とりかごについて説明するわ」
「はいっ」
千佳の言葉に背筋を伸ばして話を聞く藍那。
「とりかご、はパスゲームなの」
「パスゲーム?」
「ええ」
千佳はしゃがみ、地面に図を描いていく。
まず正方形を、次に正方形の中に丸印を四つ、三角形を二つ描いた。
描き終えたあと、近くに落ちていた小石を拾い、一つの丸印の横に置く。
「基本は四人対二人。四人のほうがパスを交換し、二人――鬼はそのボールを取ることが目的よ」
小石を丸印同士で動かす。
「ボールを取ったら?」
「鬼とパスを失敗した人が交代。そしてとりかごを続けるの」
「どうしたら終わりになるの?」
「明確な終わりはないけど……みんなが疲れたらかな」
手に付いた砂を払い、千佳は立ち上がる。
「基本的なとりかごの説明は以上。他に細かいルールがあるけど、それはみんなにも説明するわ」
「……わかった」
「習うより慣れよ、よ」
「うん」
「準備できたよー」
準備を終えたらみさきが二人に声をかけた。二人はみさきたちが集まっている場所へ向かう。
「さてこれからとりかごをするけど、いくつか条件をつけるわよ」
到着すると千佳はみんなを見渡し、右手の人差し指を立てる。
「まず、正方形の中なら自由に動いていいわ。ただし外には出ないこと」
「そのための正方形だったんか」
「ええ。次に」
人差し指を立てたまま、中指を立てる。
「トラップミスを除いて、基本的にボールを取られたらパサー――ボールを持っていた人が鬼と交代ね」
「オッケー」
「それで、私やみさき、理紗、美紗はタッチ数を制限するわよ」
「何タッチ?」
「スリータッチかな」
「了解や。それで藍那は?」
制限されていない藍那がどうなっているか気になった理紗が尋ねる。
「藍那はタッチ数を気にせずに自由にやってもらうわ」
「自由?」
首を傾げる藍那。
「その代わりパスをする・もらうとき、ボールを取るときにどうすればいいのか、自分なりに考えながらやってみて」
「……うんっ!」
自身のすべきことを理解し、藍那は両手に握りこぶしを作り元気よくうなずいた。
「それで鬼は何人でするんや?」
「二人よ」
「三人対二人か……美紗、うちらが鬼をするぞ」
「じゃんけんして決めるのも面倒だし、いいわ」
理紗の言葉に美紗は同意する。
「それでは始めましょう」
千佳が言い、五人はマーカーで作った正方形の中に入る。
理紗と美紗を囲うように千佳と藍那、みさきが立つ。
最初にボールを持つのは千佳。
「みさき」
千佳は右側にいたみさきへパスを出す。みさきはボールが届くまでの間に周囲を見渡し鬼の位置、藍那と千佳の距離を確認する。
(んー)
鬼の一人、美紗が近づいてきている。勢いよく接近してくる訳ではなく、どちらかというと藍那へのパスコースを遮るような動き。
しかも遮りつつ、みさきへと近寄ってきている。
トラップをすれば足を出され、ボールを取られる可能性が高い。
そう判断し、みさきは千佳へダイレクトでボールを返す。
「取ったぁ!」
美紗の背後、みさきの死角にいた理紗が飛び出し足を伸ばす。ボールを取ることはできなかったが触れることができ、軌道が変化。
ボールはそのまま正方形の外へと出る。
「よしっ。美紗、ナイス囮や」
「結果的にそうなっただけだよ」
パスを遮ることができ、ガッツポーズをする理紗と姉の言葉に呆れている美紗。
彼女はみさきのボールを本気で取りに行こうとしていた。だけど思いのほかみさきの判断が早く、トラップをせずに千佳へとボールを返した。
それを美紗の後ろで待ち構えていた理紗が狙っていたのだった。
「もー、ボールを取りに行ってよー」
「分かってる」
みさきに言われ、理紗はボールを取りに行く。
「……は、はやい」
千佳とみさきのパスを見ていた藍那の口からため息が漏れる。
マーカーを使ったパス練習のときよりもボールの動きが速い。
美紗が動いたことで藍那の視界は遮られ、彼女はどう動けばいいのか迷っているうちに、いつの間にかボールが正方形の外に出ていた。
何が起きていたのか分かっていない。
「見やすいところに移動することを意識したらいいよー」
鬼をするために正方形の真ん中辺りに動いていたみさきが言う。
「鬼が邪魔をするのは当然だし、藍那ちゃんはそれに対応するために動かないと」
「それが見やすいところに、動く?」
「そうだよー。美紗ちゃんも、あたしが藍那ちゃんにボールを出させないように動いていたんでしょ?」
「そうね」
「?」
「んーとね、例えば……」
みんなの立ち位置を確認してみさきは、移動する。
その位置は藍那と千佳を直線で結んだ線上だった。
「ここだと千佳ちゃんの顔は見えるかもしれないけど、よく見えないでしょ?」
「うん」
「だったら藍那ちゃんが動かないとねー」
「こ、こう?」
藍那はおずおずと一歩、横に立ち位置を変える。
「もっと大きく移動していいよー。正方形の中ならどこに動いてもいいんだから」
「そうね。それにその場所でボールを貰うことは難しいわ」
みさきの言葉に同意する千佳。
「そ、そう?」
藍那は首をかしげた。
彼女の立つ場所からは千佳の様子がよく見える。これが「違う」ことがよく分からない。
その様子を見て、千佳は短く息を吐く。
「鬼はボールを取ることが目的だから、その場所だと私がパスを出しても、みさきが足をのばしたら取られてしまうわよ」
「……あっ」
「だからもっと大きく動くほうがいいの」
「わ、わかった」
「さっき言った「考えてやってみて」とはこのことよ」
「うん!」
藍那は理解し大きくうなずく。
「ボール取ってきたで」
ドリブルしながら理紗が戻ってきた。そのボールを千佳へとパスをする。
「じゃあ、続きをしましょう」
千佳はトラップをすると藍那に向けてボールを蹴る。