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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第一章】サッカークラブの三人と新しい二人
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パスとトラップ

「藍那ちゃん、気楽にすればいいからねー」

「う、うん!」


 みさきに言われ、大きくうなずく藍那。ボールを蹴る前から不安になっても仕方がない。

 体をみさきのほうに向けて、いつボールが来ても大丈夫な体勢を取る。


「はい、パスー」

「……とっとと」


 みさきは優しくパスを出し、藍那はそのボールを足の裏で受ける。藍那はボールを止めたあと、三歩後ろに下がり、助走をつけてボールをつま先で蹴った。


「あっ」


 正確性を欠いた藍那のパスは、通すはずだったマーカー間ではなく二個先のマーカーの間を通り、みさきの前方を転々と転がっていく。

 力加減もできていなかったから、どんどんボールは離れていく。


「ご、ごめん!」


 パスミスし、藍那は謝ると転がるボールを追いかけようとする。


「藍那ちゃん、あたしが取りに行くから待ってて」

「でも」

「あたしが取りに行ったほうが早いしー」


 そう言い、みさきはボールを取りに行く。取り残された藍那は申し訳なさそうにみさきへ視線を向けている。


「藍那、蹴るときは足の内側を使うのよ」


 取りに行く行っている間、千佳が藍那に近づき声をかける。


「足の内側の、真ん中辺りでボールを蹴るの」


 足元にボールがあるイメージで千佳は足を振る。


「助走もしなくていいわ。足を当てるだけでボールは飛ぶから」

「あ、ありがとう」

「まだ注意することあるで」


 理紗も二人に寄ってきて、会話に混ざる。


「蹴るときの軸足も重要や。ボール横に軸足を置くだけやのうて、つま先をパスする相手のほうに向けるんや」

「軸足……」


 千佳と理紗に教えてもらい、藍那は蹴る真似をする。数回したところで理紗は大きくうなずいた。


「その感覚、忘れたら駄目やで」

「うん」

「美紗は何か気になることあるか?」

「うーん」


 腕を組んで考える美紗。彼女の脳裏には先ほどボールを蹴る真似をしていた藍那が思い浮かんでいた。

 どこかに違和感。だけどすぐに出てこない。


「理紗」

「なんや?」

「ボールを蹴るふりをして。比較するから」


 美紗に言われ、ボールを蹴る動きをする。


「ああ」

「なんか分かったん?」

「体が反っているのよ」


 頭の中で藍那と理紗の動きを重ねて気づく。

 藍那の体勢は後ろに反っていて、上半身が斜め上を向いていた。この蹴り方だとボールが浮く可能性が高い。

 ただ詳しく言っても藍那が理解できないかもしれないので、美紗は視線を上に向け考えながら口を開く。


「転がるボールを蹴るなら、軸足を横に置いて上半身はボールを覆うように前に傾けたらいいかな」

「う、うん。やってみます」


 三人の指摘を聞き、うなずく藍那。足元にボールがあるイメージしてもう一度足を振る。


「藍那ちゃんー、お待たせー」


 ボールを取りに行っていたみさきがドリブルしながら戻ってきた。彼女は少し離れた場所からボールを藍那に向けて蹴る。藍那は足の裏で受け取ろうとしたが、ボールは途中で小石に当たりバウンドした。

 バウンドは小さかったが、予測をしていなかった藍那はそのわずかな変化に対応できなかった。

 タイミングが合わず、トラップできなかったボールが足の下を通過する。


「足の内側でトラップするほうがいいわ」


 背後にいた千佳がボールを止め、藍那に指摘する。


「フットサルならよく使うけど、サッカーなら頻繁には使わないの」

「うん……」


 指摘され、しゅんとうなだれる藍那。千佳は言い過ぎたと思い、どんな言葉をかけたらいいのか考える。

 だけどいい言葉が見つからない。


「……今のは誰でも失敗しやすいし、練習あるのみだから、頑張って」

「本郷さん、ありがとう」


 藍那は頭を下げる。そして千佳から返ってきたボールをさっそく足の内側でトラップする。しかし今度はトラップが大きくなり、次のタッチではボールを蹴ることができない位置に転がった。


「藍那ちゃん、慌てなくていいよー」

「は、はいっ」


 転がるボールを止めると、藍那は深呼吸してみさきにパスを出す。ぎこちなさが残っているが、みさきの足元にボールは届いた。


「千佳は厳しいな」


 藍那とみさきのパス交換を見ている三人。先程の千佳の言動に理紗が言った。


「藍那はまだ少ししかボールを蹴ったことがないんやろ?」

「そうね」

「まずはボールに慣れるためにも、リフティングやドリブルのほうがええんちゃう?」


 もっともな指摘。確かに理紗の言うとおり、藍那にはリフティングなど個人練習できるものにしたほうがいいと千佳も最初は思った。

 パス練習するのではなく、ドリブル練習にしてもよかった。


「親睦深めるためにもパス練習をしようと思ったのよ。パス練習なら自然と会話をするでしょう?」

「あー、そういうこと」

「そうすればみんなの距離感も短くなると思うし……」


 千佳はパスを出している藍那を眺める。彼女の声はどもっていてどこかよそよそしい。

 口調は以前と比べて敬語は減っている。それでもまだ距離があるように感じていた。


(私なんて、まだ苗字でしか呼ばれていない)


 みさきちゃんと呼んでいる藍那の声が聞こえ、千佳もそろそろ名前で呼んでほしいと思っている。

 出会って一カ月ほど。岸本双子が入ってくれたこの機会に距離を縮めていきたい、と千佳は思っていた。


「次は誰がパス練習するのー?」


 みさき達が戻ってきた。千佳が振り向き双子のほうを見ると美紗と目が合う。


「では、私と本郷さんでやりましょう」

「同い年だし千佳でいいわよ。敬語とかもいらないわ」

「……分かったわ。私もそのほうが楽だし」


 順応能力が高い。さっそく砕けた口調で美紗は千佳に言う。


「うちも千佳、藍那、みさきって呼び捨てで呼ぶようにするかー」

「……さっきからあなたは呼び捨てで呼んでいるでしょ?」


 初対面とは感じられない、フランクな会話をしている理紗に千佳は突っ込む。突っ込まれた理紗は千佳に笑みを浮かべた。


「せやったな……なぁ、藍那」

「は、はいっ」

「藍那もみんなを名前で呼んだらええと思うで」

「そ、そうします……」

「丁寧な口調もなるべくなしで」

「う、うん……頑張る」


 藍那と理紗のやり取りを聞いて、千佳は理紗には敵わないなと思った。

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