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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第一章】サッカークラブの三人と新しい二人
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パス練習

「は、入ってくれるのですか?」


 思ってもいなかった言葉に藍那は戸惑う。


「そうですね。私たちもサッカークラブを探していたところでしたし」

「せや。ちょうどええことやし」

「他にもサッカークラブはあるけど……」

「袖振り合うも多生の縁」


 よろしゅうな、と藍那の手を握る。藍那も笑みを浮かべた。

 理紗は握っていた手を離すと、確認するように人数を数える。


「それで今はこの五人かいな?」

「そうです。まだ人数が足りていないです……」

「やったら……あいつか」


 思い当たる人がいるのか、人差し指であごを叩きながらつぶやく理紗。


「もしかして、親戚の?」

「せや。中学サッカー部のマネージャーをしていたって聞いたことあるし」


 理紗は妹の美紗の問いにうなずく。

 親戚の人はこの町に住んでいて、同い年のはずだと彼女は記憶していた。中学生時代、夏休みに親戚の家に訪れ、会った時に「中学のサッカー部のマネージャーをしている」と言って、毎日部活に行っていたはず。

 人数がぎりぎりのサッカー部で、ボール出しやミニゲームには数合わせで参加していたとも聞いている。

 ただ一年に数回会うか会わないかの親戚だから、自信を持って男子に混じってサッカーをしていたとは言い切れない。

 それに現在どこの高校に進学したのかも知らない。


「誰かいるの?」

「んー、確認するわ」

「お、おねがいします」


 深々とお辞儀をする藍那。


「まーそれは明日以降のことや。それで、今日はどうするん?」


 藍那の顔を見ながら尋ねる理紗。戸惑った藍那は隣にいた千佳のほうを向く。

 千佳は自身が置いたコーンを確認し、腕を組む。


「マーカーを置き直すから、パスの練習をしましょう。その後にとりかごかな」

「わかったー」

「分かりました」

「わかったわ」

「?」


 一人だけ首をかしげる藍那。千佳は何が伝わっていなかったのか少し考え、口を開く。


「とりかごが何なのか、後で教えるわ」

「……ありがとう」

「やっぱり藍那って初心者なん?」


 理紗が藍那に尋ねる。真新しいジャージに抱えているボール。それを見て彼女はそう思っていた。


「そうなの。高校に入学して、やってみようかなって……」

「なるほどなぁ」

「お、おかしいかな?」


 自信なさげに理紗に聞く藍那。そんな彼女に理紗は両手を横に振り否定する。


「そんなことないよ。最初は大変かもしれんけど、頑張りな」

「は、はい!」


 大きくうなずく藍那。やる気は十分あるんやな、と理紗は感じた。あとはどれだけ上手くなることができるかが鍵だと彼女は思う。


 五人は談笑しながら並べられたマーカーへ向かう。千佳はマーカーをパス練習のために間隔を広げる。その幅は約二メートル。

 そのマーカーの列をを間にして、右に三人、左に二人に分かれる。

 三人側の先頭はみさきで二人側は千佳。みさきの後ろには理紗、藍那の順に並び、千佳の後ろには美紗が立つ。


「することは単純。マーカーの間にボールを転がしてパスをする。マーカーは十個並べているから、間は合計で九個……つまり九回パス。向こうまで行ったら、折り返して同じ事をすること」

「はーい」

「あと、ボールはなるべく浮かさないこと……みさき、行くわよ」


 千佳がボールを左足で蹴る。その軌道はマーカーのちょうど中心を通った。みさきは右足のインサイドで前に転がすようにトラップし、次のタッチでボールを千佳に返す。

 返ってきたボールを千佳はダイレクトで蹴った。


「っとと」


 みさきは少しダッシュをしてトラップ。ギリギリ足が届く距離。


「もっと優しくー」

「優しくしたら、練習の意味がないでしょ」

「そんなこと言うなら……」


 インサイドではなく、インステップでボールを蹴る。低く、勢いよく転がるボール。

 しかし強くけったためボールはみさきが思っていたよりも手前に転がり、マーカーに当たった。軌道が変わり、バウンドしながら千佳の前方へと逸れる。

 蹴った本人は軌道が大きく変わってしまったことに口を開けて「しまった」という表情。


「ふっ」


 対して千佳は短く息を吐き、左足を伸ばして難なくボールを収める。

 彼女はみさきが蹴った瞬間、ボールがマーカーに当たり、軌道か変わることを直感で感じ取っていた。そのため無意識だが少しだけ立ち位置を前にし、軌道が変わっても対応できるように体を動かしていた。


「ちゃんとマーカーに当てないように蹴りなさい」

「ごめんー」

「……もう」


 軽い口調。みさきらしいと言えば彼女らしい反面、しっかり練習をして欲しいと千佳は思う。

 その後は二人ともミスを犯すことはせず、反対側までパス交換を終わらせる。

 そしてその折り返し。左右逆の足になっても二人はミスをすることはなかった。


「二人ともうまいなぁ。千佳は一度も失敗しなかったな?」

「一つ一つ確実にしているね」


 岸本姉妹は初めて見た千佳のボールタッチに感心する。正確にパスを出し、乱れてイレギュラーしたボールでも慌てずトラップができる技術。どちらも上手い、と一言で表現することで充分だった。


「本郷さんもみさきちゃ……川内さんも中学で男子に混ざってサッカーをしていたんです」

「中学でサッカーかぁ……うちらも気ぃ抜いたプレーはできないな」

「そうかも」


 気合いを入れるために両方の頬を叩く理紗とジャージを腕まくりする美紗。


「今度は、りさみさだよー」


 みさきは足下にあるボールを理紗へパスをする。


「なんや、その「りさみさ」は?」

「岸本姉妹の名前を繋げてみただけー」

「コンビ名か」


 突っ込みを入れつつ、理紗は受け取ったボールでリフティングをする。


「ちょっと固い気ぃするけど、まあ大丈夫か」

「理紗、早く蹴ろ?」

「せやな」


 美紗に促され、理紗はボールを足の裏で止める。


「美紗」


 一度美紗とマーカーの位置を確認し、パスを出す。内側に巻くように回転をかけた、美紗が取りやすいボール。


「はい、理紗」


 進行方向に向かって左側にいる美紗は器用に右足のアウトサイドでトラップ。次いでそのままアウトサイドでボールを返す。ボールに横回転がかかっていたが、理紗の足下へ正確に届くパス。姉妹はパス交換をそつなくこなし、反対側にたどり着く。


「んー、左足かぁ」


 ぼやいたのは理紗。彼女は左足でボールを蹴ることが苦手だった。美紗のようにアウトサイドでボールを蹴ることもできない。


「練習あるのみだよ?」

「わかっとる」


 髪の毛をくしゃくしゃと()きむしり、ハァと息を吐く。


「失敗したら、頑張ってボールを取りに行ってな」

「失敗宣言をしないで」


 失敗することを前提に話している姉に美紗はボールを蹴る。理紗は左足でぎこちなくトラップした。

 しかし勢いを吸収することができず、前方にボールは流れる。


「あっ、とっと……」


 理紗は慌てて転がるボールを追いかける。追いつき足の裏で止め、立ち止まると反転してすぐに美紗にむけてボールを蹴る。美紗はボールを受けとるとパスを出さず動きを止める。


「左足で蹴ろうよ」

「あの角度からは無理や」


 反転した理紗から見て、美紗のいる位置はマーカーの左側になる。加えて前へ進んでしまった分、蹴る位置は後方になっていたため、左足でマーカーの間を通すのは難しい。

 左足でボールを扱うことが苦手だという事実を差し引いても困難なこと。


「練習だよ?」

「鬼か」


 無茶苦茶なことを言う妹に理紗は立ち尽くしそうになってしまう。しかし今はパスの練習中。立ちすくす訳にはいかないので、一度大きく首を横に振って両手を使ってパスを要求する。


「再開するぞ、美紗」

「ええ」


 美紗はうなずくと理紗にめがけてボールを蹴る。理紗は二度は失敗しまいと丁寧に左足で受け取る。そしてマーカーと美紗の位置をしっかり確認してパスを出す。ボールに勢いはなかったが、途中で止まることなく美紗へと届く。

 スタート位置に戻ってくる双子のパス練習は、テンポを落としたゆっくりとしたものだった。その分相手のことがよく分かっているからか、パスが乱れることはない。


「ふぅ」

「お疲れ、理紗」


 全てのパスをする終え、一息ついた姉に美紗は声をかける。


「意識しないでも左足で蹴れるようになりたいわ」

「もっと練習しようね」

「せやな。で次は……」


 列の先頭に立つ人を見る。立っているのは藍那とみさき。


「藍那ちゃん、がんばろーね」

「う、うん!」


 みさきの言葉に藍那は大きくうなずく。

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