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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第四章】暫定指導者とサッカークラブ
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第二戦目

「メンバは同じ。攻撃方向はさっきとは反対でやるよ」


 二回目を始める前に水上はコートの中にいる全員に向かって言う。


「今度は本郷さんチームからの再開だね」

「はい」

「よし」


 水上は千佳にボールを渡し、短くホイッスルを吹く。千佳は受け取ったボールを美紗へ下げた。


 美紗が顔を上げると、右サイドで由依が裏に抜け出そうと走り出しているのが見えた。しかし由依の駆け出しのタイミングが早く、合わせることができない。


 美紗はロングボールを蹴らず、千佳へボールを戻す。ボールの動きを見た由依は前線へ走ることを止め、ゆっくりと自陣に戻る。


「ごめん、合わなかった!」


 自陣へ戻った由依に美紗は謝る。由依は「構わない」とでも言うように手を上げて応える。


(さて)


 一方でボールを受けた千佳は次の攻撃を考えていた。


 千佳と佳央梨で攻撃を組み立て、パス交換での中央突破。もしくはロングボールで右サイドの由依を走らせたサイド攻撃。

 ただ、その攻撃方法は一回目と変わらない。相手に読まれているから攻撃がし辛くなるのは確実だった。


 現に今も理紗が佳央梨をマークし、由依には藍那がついている。

 その後ろではみさきが抜かれたときに対応できるよう、構えていた。


(攻撃しづらい)


 解決するためには攻撃パターンを増やすことが最善。

 だけどそれを考えている時間はミニゲームの五分間では短すぎる。


 だったらすることは一つ。


(ドリブル突破)


 そう決めると千佳は敵陣へとボールを運ぶ。それにあわせて佳央梨が左サイドへと動いた。

 理紗は佳央梨の動きにつられ、体を移動させる。


 その瞬間、ドリブルコースが現れた。


(よしっ)


 彼女はそのコースに従い、ドリブルを開始する。


「っ理紗ちゃん! 湊さんへのパスコースを塞ぎながら千佳ちゃんをマーク!」


 みさきが指示を出す。理紗は声に反応して千佳にマークをしに行く。


 千佳から見て左側からのマーク。みさきの指示通り動く理紗のおかげで佳央梨へのパスコースはない。

 また右側にいる由依はポジショニングが微妙に悪い。藍那にマークされいい場所にいない。今パスをしたら攻撃のテンポが悪くなってしまう。

 ただ隙を狙い、藍那の背後から攻め上がろうとする動きが千佳には見えていた。


(今は耐えるべきね)


 となるとボールをキープして、取られないようにすることが重要となる。

 体を寄せられた千佳は腕で理紗を押し返し、少しずつ前へとボールを運ぶ。


「本郷さんっ!」


 由依がボールを要求する。千佳は彼女のポジションを確認し、パスを出す。


「ダイレクト!」


 千佳はパスを出すと同時に声を出し、理紗のマークを振り切り縦へ抜ける。由依は顔を上げ、千佳が走る方向へとボールを蹴った。


(ナイスパス)


 千佳の足元ではなく彼女が走る先へ蹴られたボール。だからと言って、追いつかないボールの勢いではない。彼女は右足のアウトサイドでワンタッチ、そしてすぐにインサイドで触りドリブルの方向をゴール側へ変える。


(ここからのシュートは……難しいわね)


 目の前ではみさきがシュートコースを塞いで待ち構えている。

 佳央梨は理紗をマークされていた。

 そして由依には藍那がついている。


「千佳!」


 背後からの声。チラッと声のしたほうを見る。美紗が駆け上がってきていた。

 チャンスだと感じて駆け上がってきたのだろう。当然、彼女にはマークはついていない。


 千佳はシュートフェイントをしてみさきを騙し、美紗が走り込む先にパスを出す。


「ナイスパス!」


 転がるボールを見て美紗が叫ぶ。

 相手のことを想ったパス。美紗が足を振り抜くだけでいいボール。

 ゴールを見ればシュートコースがある。


 つまり絶好のシュートチャンス。


 美紗は短く息を吐き、ボールを足の内側に当て、丁寧にコースを狙った。

 ボールは彼女が想像した通りの軌道を描き、ゴールの中を通過する。


「っし!」

「ナイスシュート」


 ガッツポーズをしている美紗をアシストした千佳が称賛する。そして二人はハイタッチし、言葉を交わしながら後ろへと戻る。


「上がってくるとは思わなかったわ」

「チャンスだったらディフェンスの私でも攻めるわよ」

「基本三人だから、もっと攻め上がって得点を狙いましょ」


 すると美紗は眉をひそめた。


「慎重にやらない?」

「そう?」

「だってカウンターを食らいたくないのよ」


 ため息を混じえながら答える美紗。


「カウンター、ね」

「湊さんが怖いからのよ……パス一本で裏を狙われたら追いつけないわ」


 美紗の言いたいことが千佳には理解できる。


 湊は足元が上手いし、パスを受けてほしい場所に顔を出してくれる。

 献身的に動いてくれるから、攻撃がしやすい。

 裏を返せば敵になると要注意人物になる。


 相手にしたくないのは当たり前だ。


「分かったわ。でもチャンスだったら、攻撃に参加してよ」

「オッケー」


 会話を終え、相手ゴールを見る。ちょうどみさきが藍那にパスを出したところだった。


「藍那ちゃんー、ドンマイー」

「うん……吉野さんのマーク、外しちゃった……」


 目を離さずしっかり見ていたはずなのに、一瞬目を離した時にマークを外されていた。

 そしてトントン拍子にパスを繋がれ、得点されてしまった。


「由依ちゃんは足が速いからねー。今のは仕方ないよー」


 切り替えていこーと声を出し、ボールを返すよう要求する。藍那はそれに応えるようにボールを蹴る。


「理紗ちゃんー」

「おう!」


 ボールを受け取り、理紗は相手ゴールに向けて指を指した。


「今度はうちらがゴールを決めたるからな!」

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