第二戦目
「メンバは同じ。攻撃方向はさっきとは反対でやるよ」
二回目を始める前に水上はコートの中にいる全員に向かって言う。
「今度は本郷さんチームからの再開だね」
「はい」
「よし」
水上は千佳にボールを渡し、短くホイッスルを吹く。千佳は受け取ったボールを美紗へ下げた。
美紗が顔を上げると、右サイドで由依が裏に抜け出そうと走り出しているのが見えた。しかし由依の駆け出しのタイミングが早く、合わせることができない。
美紗はロングボールを蹴らず、千佳へボールを戻す。ボールの動きを見た由依は前線へ走ることを止め、ゆっくりと自陣に戻る。
「ごめん、合わなかった!」
自陣へ戻った由依に美紗は謝る。由依は「構わない」とでも言うように手を上げて応える。
(さて)
一方でボールを受けた千佳は次の攻撃を考えていた。
千佳と佳央梨で攻撃を組み立て、パス交換での中央突破。もしくはロングボールで右サイドの由依を走らせたサイド攻撃。
ただ、その攻撃方法は一回目と変わらない。相手に読まれているから攻撃がし辛くなるのは確実だった。
現に今も理紗が佳央梨をマークし、由依には藍那がついている。
その後ろではみさきが抜かれたときに対応できるよう、構えていた。
(攻撃しづらい)
解決するためには攻撃パターンを増やすことが最善。
だけどそれを考えている時間はミニゲームの五分間では短すぎる。
だったらすることは一つ。
(ドリブル突破)
そう決めると千佳は敵陣へとボールを運ぶ。それにあわせて佳央梨が左サイドへと動いた。
理紗は佳央梨の動きにつられ、体を移動させる。
その瞬間、ドリブルコースが現れた。
(よしっ)
彼女はそのコースに従い、ドリブルを開始する。
「っ理紗ちゃん! 湊さんへのパスコースを塞ぎながら千佳ちゃんをマーク!」
みさきが指示を出す。理紗は声に反応して千佳にマークをしに行く。
千佳から見て左側からのマーク。みさきの指示通り動く理紗のおかげで佳央梨へのパスコースはない。
また右側にいる由依はポジショニングが微妙に悪い。藍那にマークされいい場所にいない。今パスをしたら攻撃のテンポが悪くなってしまう。
ただ隙を狙い、藍那の背後から攻め上がろうとする動きが千佳には見えていた。
(今は耐えるべきね)
となるとボールをキープして、取られないようにすることが重要となる。
体を寄せられた千佳は腕で理紗を押し返し、少しずつ前へとボールを運ぶ。
「本郷さんっ!」
由依がボールを要求する。千佳は彼女のポジションを確認し、パスを出す。
「ダイレクト!」
千佳はパスを出すと同時に声を出し、理紗のマークを振り切り縦へ抜ける。由依は顔を上げ、千佳が走る方向へとボールを蹴った。
(ナイスパス)
千佳の足元ではなく彼女が走る先へ蹴られたボール。だからと言って、追いつかないボールの勢いではない。彼女は右足のアウトサイドでワンタッチ、そしてすぐにインサイドで触りドリブルの方向をゴール側へ変える。
(ここからのシュートは……難しいわね)
目の前ではみさきがシュートコースを塞いで待ち構えている。
佳央梨は理紗をマークされていた。
そして由依には藍那がついている。
「千佳!」
背後からの声。チラッと声のしたほうを見る。美紗が駆け上がってきていた。
チャンスだと感じて駆け上がってきたのだろう。当然、彼女にはマークはついていない。
千佳はシュートフェイントをしてみさきを騙し、美紗が走り込む先にパスを出す。
「ナイスパス!」
転がるボールを見て美紗が叫ぶ。
相手のことを想ったパス。美紗が足を振り抜くだけでいいボール。
ゴールを見ればシュートコースがある。
つまり絶好のシュートチャンス。
美紗は短く息を吐き、ボールを足の内側に当て、丁寧にコースを狙った。
ボールは彼女が想像した通りの軌道を描き、ゴールの中を通過する。
「っし!」
「ナイスシュート」
ガッツポーズをしている美紗をアシストした千佳が称賛する。そして二人はハイタッチし、言葉を交わしながら後ろへと戻る。
「上がってくるとは思わなかったわ」
「チャンスだったらディフェンスの私でも攻めるわよ」
「基本三人だから、もっと攻め上がって得点を狙いましょ」
すると美紗は眉をひそめた。
「慎重にやらない?」
「そう?」
「だってカウンターを食らいたくないのよ」
ため息を混じえながら答える美紗。
「カウンター、ね」
「湊さんが怖いからのよ……パス一本で裏を狙われたら追いつけないわ」
美紗の言いたいことが千佳には理解できる。
湊は足元が上手いし、パスを受けてほしい場所に顔を出してくれる。
献身的に動いてくれるから、攻撃がしやすい。
裏を返せば敵になると要注意人物になる。
相手にしたくないのは当たり前だ。
「分かったわ。でもチャンスだったら、攻撃に参加してよ」
「オッケー」
会話を終え、相手ゴールを見る。ちょうどみさきが藍那にパスを出したところだった。
「藍那ちゃんー、ドンマイー」
「うん……吉野さんのマーク、外しちゃった……」
目を離さずしっかり見ていたはずなのに、一瞬目を離した時にマークを外されていた。
そしてトントン拍子にパスを繋がれ、得点されてしまった。
「由依ちゃんは足が速いからねー。今のは仕方ないよー」
切り替えていこーと声を出し、ボールを返すよう要求する。藍那はそれに応えるようにボールを蹴る。
「理紗ちゃんー」
「おう!」
ボールを受け取り、理紗は相手ゴールに向けて指を指した。
「今度はうちらがゴールを決めたるからな!」