束の間の休憩
ホイッスルの音を聞いてプレーヤーは足を止める。
「再開する時にまた声をかけるから、それまで休憩」
「「「はい」」」
それぞれうなずき、休息を取る。
彼女たちはベンチまで行き、置いていた飲み物に口を付ける。
「一本目は一対一の同点だったねー」
「せやな。チャンスは何回かあったけど、決めきれんかったな」
「ご、ごめんね。チャンスで決めることができなくて……」
藍那は自身の得点後、何度も理紗や佳央梨からパスを受け、シュートチャンスがあった。しかしその度に美紗に阻まれ、得点することができなかった。
「美紗は生粋のセンターバックやし、そう簡単に決められへんよ」
反省している藍那に理紗が言う。
「それに経験の差や。その差を埋めるのは簡単やない」
「どうしたら美紗ちゃんからゴールを決めれるかな?」
「んー、素直にシュートを打つだけだったらだめだねー」
藍那の疑問に今度はみさきが言う。
「素直?」
「シュートフェイントやタイミングをずらすってことー」
藍那の疑問にみさきは答える。
「相手はゴールさせないためにー、シュートコースを防ぐからー、騙さないとねー」
「……騙す」
「まー、シュートするときに相手の動きを見てみてー。藍那ちゃんがシュートする先に足を伸ばしたり、体を入れていると思うからー」
「う、うん」
次のミニゲームですることを頭に入れ、藍那は大きくうなずく。
「嫌なことを教えるわね。理紗とみさきは」
相手チームの会話が聞こえてきた美紗は眉間にシワを寄せ、文句を言う。
「藍那ちゃんには上手くなってほしいからねー」
「せやな」
「まぁ、いいけど」
同じチームの仲間だし、彼女が上手くなることは悪いことではない。
それに藍那が上手くなれば、勝負した時の美紗の練習の効率も上がる。
マイナスの要素はなかった。
「由依ちゃんもー、いいポジショニングをしていたよー」
「私はサイドに張っていただけだけどね」
コート中央のパス回しには参加できないと感じた由依は、終始右サイドに構えていた。
ボールを受け取った時は基本ドリブルで攻め込み中央へ折り返すことに専念し、チャンスがあったら切り込むことにしていた。
「もっとトラップを上手くなりたいわ」
「次のプレーをするための、トラップがいいかもねー」
みさきが言いたいことはトラップをした時のボールを転がす場所。
ファーストタッチで次のプレーを意識すればスムーズにプレーを続けることができる。
「頭ではわかっているけど、それが難しいのよ」
「練習するのみだよー」
「そうね。湊さんのトラップの仕方を参考にしようかしら」
「そういえば、湊さんはー?」
ふと辺りを見渡すみさき。しかし佳央梨の姿はどこにも見当たらなかった。
「せんせ……湊さんなら、向こうで倒れているわ」
そう言い千佳が指さした先はベンチから少し離れた土手の斜面だった。
生い茂る雑草の中に佳央梨が上を向いて倒れている。
「久しぶりの運動が体に負荷をかけたらしいわ」
「だ、大丈夫なの?」
「たぶん……」
フリーマンとして精力的に動き回っていたことは誰が見ても明らかだった。
攻撃がスムーズにできるように様々な場所に顔を出してボールを受け取り、周囲の状況を確認してパスを出す。
心身ともに疲れるのは当然だった。
「放っておいて大丈夫だよ」
佳央梨を心配して眺める女子高生たちに水上が言う。
「これまでの経験で体が動いてしまうことは仕方ないけど、自今の体の状態を理解して動かないとね」
「うるさいわね……」
水上の言葉に反応した佳央梨は体を起こす。
「この子たちがこんなに動くとは思っていなかったのよ」
「現役をなめたら駄目だろ」
「彼女たちに合わせただけよ」
立ち上がり、ベンチに置いていたドリンクを手に取ると一気に飲み干す。
「あー、酸欠になって頭が痛いわ」
「頭が痛いのは、二日酔いだからじゃないだろうな?」
視線を逸らす佳央梨。
「おい」
「てへっ」
「……さて、再開するか」




