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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第四章】暫定指導者とサッカークラブ
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ポジショニング

 水上は休憩を終わらせ、全員を集める。


「さて、これからミニゲームをしようと思う」

「おおー、いいですねー」


 みさきの目が輝く。ゴールキーパーしていた彼女はさすがに疲れ、別のことをやりたいと思っていたところだった。


「どんなゲームにするんですかー?」

「三対三プラスフリーマンだよ」

「フリーマン?」


 藍那が首を傾げる。彼女の隣にいた由依も意味を理解していない表情だった。


「フリーマンとは、攻撃側――ボールを持っている側の味方をするプレイヤーのこと」

「えっと……攻守が変わったらパスを出す相手も変わる、ということですか?」

「そういうこと」


 水上が顔を縦に振り、肯定する。それをみて藍那と由依は合点した表情になった。


「そのフリーマンは誰がするのですか?」


 美紗が手を挙げる。このメンバーだとフリーマンは理紗か千佳がすることになる。

 しかし二人がその役割をやってしまうと、ミニゲームの戦力的なバランスが崩れてしまうのではとも美紗は感じていた。


「今回は湊にやらせる」

「ご紹介にあずかりました、湊です」


 高校生六人に向けて手を振る佳央梨。


「練習だけど、楽しくやっていきましょ」

「「「「「「はい」」」」」」

「それで、ミニゲームのチーム分けだけど、俺のほうで分けさせてもらうね」


 水上は赤色のビブスを千佳、由依、美紗へ、藍那、みさき、理紗には緑色のビブスを渡した。

 そしてフリーマンの佳央梨には黄色のビブス。


「それでコートだけど、休憩中に作っておいた」


 彼が指さす先には三角形の小さなコーンが四隅に置かれた長方形のコート。その長方形の短い辺の上には丸いマーカーが各二つずつ置かれていた。


「丸いマーカーの間がゴール。ラインサッカーじゃないから、間を通したら得点ね」

「他にルールはありますか?」

「タッチラインやゴールラインからボールが出たら、キックイン。一回あたりのミニゲーム時間はそうだな……五分間にしよう」

「わかりました」


 水上の返答に由依はうなずく。


「それじゃあ、始めようか」


 両手を叩きコートに入るよう水上は促し、ボールは理紗に渡した。


「さぁ、始めよう」

「りょうかいや……ほい、藍那」


 理紗は藍那にめがけて蹴る。

 藍那は転がってきたボールをインサイドで受け止め、近くにいたみさきに名前を呼んでパスをする。


「湊さんー」


 顔を上げたみさきは鋭いボールを佳央梨へ渡す。そして彼女自身はサイドへと移動する。

 湊は周囲を見渡しながらボールへ近寄る。彼女の背後からプレスをかけてきているのは由依。千佳は理紗の動きを見ている。


 ノーマークなのは、サイドへと広がったみさきと自陣後方で突っ立っている藍那。


「大嶋さんっ」


 彼女の名前を叫び、佳央梨はダイレクトでパスを出す。名前を叫ばれた藍那はビクッとしたが、気を取り直してボールを受け止める。

 そこに近づくのは由依だった。佳央梨にプレスをかけていたスピードを落とさず、正面から奪いに行く。


 藍那は由依に気づくと、慌ててみさきへボールを蹴った。


「藍那ちゃん、蹴ったあとは動いてねー」

「う、うん」


 藍那は由依から逃げるよう、ボールがもらえる後ろへと下がる。由依は深追いしても無駄だと悟ったのか、走ることをやめた。


 フリーとなった藍那にみさきはボールを戻す。


「一昨日やった三対三と同じで「考えて動く」ことをしてねー」

「あ」


 言われて藍那は思い出す。

 三対三では「味方がパスを出しやすい場所」に移動することを意識していた。


 今回も同じことをすればいいのだろうか。

 パスをつないで得点を決めるということに変わりはないから、基本的な動きが違うはずがない。


(ということは……)


 今はみさきがフリーで近くにいる。ただパスを出してもゴールには近づかない。

 藍那は理紗を見た。彼女は千佳を引き付けながらコートの中央を動き回っている。


 パスが出しづらい、と藍那は感じた。


「大嶋さん!」


 迷っている藍那に向けて佳央梨が声を出し、両手を広げ要求した。その声に藍那は反応し、ボールを蹴る。


(よしっ)


 佳央梨は小さくうなずく。先ほどは由依にプレスをかけられていたが、彼女は佳央梨、藍那と立て続けにボールを取りに行った直後で、中途半端なポジショニングをしていた。


 今、佳央梨にプレスをかける相手はいない。


 ワンタッチで前を向くと、左右に首を振る。右サイドで理紗が走り出しているのが見えた。左サイドにはみさきがいたが、こちらは足元で受けようとしていている。

 佳央梨は攻撃スピードが速いと感じたのは理紗の動き。彼女のの走る先にボールを蹴った。


「っしゃぁ!」


 理紗は右足のインサイドで触れ、ドリブルを開始する。彼女の正面には千佳がいた。


(まずは)


 千佳を突破する必要がある。その千佳は理紗が最短距離でゴールに行かないよう、サイドへ追いやる構えを取っている。


 理紗は笑みを浮かべ、その誘いに乗ることにする。

 右足の甲を伸ばしアウトサイドでボールを持つ。そして左足の足首、膝のバネを使って斜め前へ飛び出す。

 同時に理紗はボールと千佳の間に体を入れ、取られない体勢にした。


「っ」


 千佳は眉間にシワを寄せる。

 取ろうと足を伸ばせば理紗の足を引っかけ、ファールになる。

 一瞬千佳が考えている間に、彼女の左脇を理紗が駆け抜けようとしていた。千佳は並走して理紗にプレスをかける。


 理紗はボールを取られまいと左手で千佳を押し返しながらドリブルを続ける。

 ゴールラインの近くまでたどり着くとドリブルを止め、ボールを上手く捌いてゴールのほうを向き、千佳と対峙する。


(ゴール前は……)


 敵の美紗がいる。味方は誰も上がってきていない。


「岸本――理紗さん!」


 声がした方向を見る。佳央梨が理紗のフォローに回っていた。理紗はすかさずボールを渡す。


「由依!」


 美紗が名前を呼ぶ。由依は短く息を吐いて、佳央梨へ接近する。


(練習が必要ね)


 由依の動きはとりあえず奪うために急いで近づいてきていると感じた。


 まだまだ甘い。


 トラップするタイミングを遅らせ、由依が来るのを待つ。ボールを触らない佳央梨に由依はチャンスだと感じ、さらに走るスピードを上げ、右足を伸ばす。


「残念」

「っ!」


 佳央梨はワンタッチでボールを由依の左足の方向へ転がす。右足を伸ばしている由依は逆を突かれ、奪うことができなかった。


「っと」


 今度は美紗が行く手を阻む。腰を落とし、簡単には突破させない、との気持ちがこもった構えをとっている。

 シュートを打つべきか、と頭佳央梨は考える。しかし美紗のポジショニングがよく、入りそうにない。


 すぐに左右を見渡す。右には理紗と彼女をマークしている千佳。

 そして左にはノーマークの藍那がいる。


(へぇ)


 なぜそこにいるのか分からなかったが、彼女のいるポジションは絶好の場所。

 美紗も藍那が見えているはずだが、佳央梨に突破されることを警戒して、対応ができていない。


(数的有利になっていることもあるけどね)


 焦ることはない。確実に決まると感じた相手にパス。

 それに今の佳央梨はフリーマンだ。チャンスだと思ったらシュートをしていいが、それだと高校生たち(この子たち)の練習にならない。


 サッカー経験者として、また教師として佳央梨は初心者の藍那の足元へボールを出し、口を開く。


「大嶋さん、シュート!」

「っ」


 トラップしてから次のプレーを考えようとしていた藍那は、佳央梨の言葉でゴールを見る。


 彼女から見てゴール前には誰もいない。さらに周囲に視野を広げる。

 ゴールに一番近い場所にいるのは美紗。彼女は佳央梨をマークしていたため、藍那のシュートを防ぐにはポジションが悪い。

 理紗はゴール前へ走りこんでいる。藍那にパスを要求しているのか両手を広げていた。

 藍那は理紗へパスしようかと考えたが、千佳が理紗の背後にいることに気づいた。あれだと理紗がシュートするためにはもう一度千佳と勝負する必要がある。

 みさきと由依は藍那の視界の外にいる。ということはゴールから最も離れた場所にいるということ。

 ゴールを決めるには今は気にする必要がない。


 そこまでの情報が刹那の瞬間に藍那の脳裏を駆け巡る。選択肢はたくさんあった。


(でも)


 この中でベストな選択。それは佳央梨が言った藍那のシュート。


(決まる……かな?)


 不安がよぎる。


 外したらどうしよう。

 湊さんに怒られるかな?


 ちゃんと足に当たるかな?


 ゴールに入るかな?


 それでも……


(わたしがゴールを決めたい)


 様々な思いを込め、藍那は右足を振りぬいた。

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