水上拓海の振り返り
シュート練習を終え、水上は再び休憩をとる。
その休憩の間、彼はみんなのことを考えていた。
出会ってから短い間だが、彼は彼女たちの会話を見て大体の雰囲気が理解できた。
改めて一人ひとりの性格を振り返る。
まずは川内みさき。
口調からしておっとりとしているように見えるが、周囲の空気を感じ取ることができるのか、気配りができている。
また物怖じしない性格で、最初に水上に対して「初めまして」と声をかけたのは彼女だったりする。
シュート練習時のゴールキーパーでは判断が早く、上手くセービングができていた。
ただ弾くことが多かったから、実際の試合をとなったときに相手に詰められたらゴールを決められる可能性が高い。
しっかりとキャッチすることが今後の課題か。
次に岸本双子。
姉の理紗は率直に感じたことを正直に言う性格。そして明るく元気が一番をモットーにしているような関西弁の学生。
関西人らしい?ボケをやって妹の美紗にツッコミをされていることを数回の休憩時間で何度か目撃をしている。
ノリと勢いはこの中では一番だろう。チームのムードメーカーになるかもしれない。
一方妹の美紗は姉とは違い関西弁を喋らない。また身近にいる姉とプレーを比較し、姉より上手くなりたい、という気持ちが見え隠れする。
気が強いのかもしれない、と水上は感じていた。
続いて吉野由依。
彼女は水上が最初に声をかけた学生だ。中学時代にサッカー部のマネージャをしていた経験がある。
ボールを蹴ったことはあるらしく全くの初心者ではない。また指示されたことをきちんと理解し、それをプレーすることができている。
単にマネージャをしていただけではないことは事実で、単に経験が少ないとのことだろう。
本郷千佳は水上の大学の同期・佳央梨の教え子。この中で一番技術がある学生だ。
基礎練習とリフティング、シュート練習しか見ていないが一つ一つを丁寧にこなし、普通に上手い。
昨日佳央梨から聞いたことだったが、彼女は高校では男子サッカー部の練習に参加しているらしい。しかもその中でも、そこそこ通用しているとのこと。
もしそれが事実なら、ここにいるメンバで構成したチームを作ると、彼女を中心としたゲーム運びになることは違いない。
最後に大嶋藍那。
六人の中で唯一の初心者。他の五人が話をしているときも遠巻きに見ていて、分からないことがあると首をかしげて理解しようとしている場面を水上は何度か目撃している。
本来なら頭で理解しても即座にプレーに反映することはできない。しかし彼女は理解し、プレーするイメージに落とし込むことができると、ほとんどのことができてしまう。
この特殊な能力?があるため、彼女の成長は著しい。シュート練習の最後のほうでは、キーパーにとって嫌なコースに打つことができていた。
あとは筋力をつけることができれば十分通用するだろう。
(って)
彼なりに彼女たちの性格を整理したところで、水上はふと気づく。
そこまで考えている彼はいったい何者なのだろう。
指導者代理と自称したわりには、彼女たちのことを考え過ぎているのではないか。
代理だったらもっと適当に教えていくべきじゃないのか?
「なーに、考え込んでいるのよ」
腕を組んで女子高生を眺めていた水上に佳央梨が近づく。
「不審者になっているわよ」
「……真面目だな。この子たち」
佳央梨の言葉を無視し、思っていたことを言葉にする。すると佳央梨は「何を言っているの?」とでも言うように息を吐く。
「サッカーがしたいから集まったのよ。やる気があるのは当然」
「ああ、そうか」
「それよりも水上君。今日は適当にこなすと思っていたけど、がっつりと教えていたわね」
ポンと肩を佳央梨に叩かれ、つい先ほど思っていたことを指摘される。
何か言って否定しようと考えた彼だったが、思いついた言葉はすべて言い訳にしかならなかった。
「練習を見ると言ったし、今日は誠心誠意教えるよ」
「今後は?」
「……それは本郷さんの回答によるかな」
昨日、水上が千佳に言った言葉を脳裏に浮かべる。
何のためにサッカークラブを作る?
クラブを作って何を目指す?
この二つを水上は彼女に質問していた。
「ああ、それ、気になっていたんだけど」
「どうした?」
「水上君は答え持っているの?」
「……いや」
すると佳央梨が怪訝そうな面持ちになった。
「だったらどうして聞いたの?」
「チームの方針の基準にするためだよ」
「基準?」
「はっきりした方針――目標がないとクラブなんてすぐに潰れるからな」
「まるで経験したかのようね」
「うるさい。それで、今は六人だろ」
「そうね」
「その六人の考えがまとまっていなかったら、チームは作っても仕方がない」
彼女たちには悪いが、とつぶやきつつ彼は続ける。
「チームを作らずに今のままボールを蹴っているだけのほうが幸せだ」
「手厳しいわね」
水上の考えに佳央梨はため息を吐く。
「まだ高校生よ。方針は指導者が示したらいいじゃない」
「実際の試合をするのは彼女たちだからな。俺から押し付けても意味がないよ」
「そういう考え方もあるのね」
「……まあ実際は俺の「逃げ」と捉えられても仕方がないけど」
「なんか言った?」
「いや」
小声で言った水上の言葉は佳央梨には届いていなかった。届いていなかったのならそれでいい、と思った彼は首を横に振り、空を見上げた。
二度もチームを解散させる気はない。
だからこそ結成する前にチームの方向性を決めておく必要がある。
そうすればチームの目標ができ、それに向かって突き進むことができる。
チームを解散させいろいろ考えた結果、水上がたどり着いた結論だった。
「さて、湊」
憂鬱になってしまった水上は気分を変えようと佳央梨に声をかける。
「なに?」
「これからミニゲームをしようと思うんだけど」
「いいんじゃないの?」
佳央梨も異論はない。彼女たちのプレーを見ることができるから、純粋に楽しむことができる。
「湊にも入ってもらうから」
「私が入ったら人数のバランスが悪くなるわよ」
「大丈夫。湊にはフリーマンになってもらうから」
「それ、大変なやつじゃん」
「知ってる。だけどやってもらう」
「ええー」