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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第四章】暫定指導者とサッカークラブ
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ゴールキーパー

「なんだかー嫌な感じー」


 千佳に笑みを返され、みさきはぼやく。彼女が「絶対にシュートを決める」と決意し、スイッチが入ったと感じ取っていた。


(練習なんだからー、気楽にやればいいのにー)


 彼女が気楽に練習をするわけがない。手を抜くというわけではないが真面目に彼女は練習をしているのだ。

 みさきはそんなことを考えつつ手を叩き、気持ちを入れ直す。

 やる気がないわけではない。単に千佳との間にある気持ちのギャップに嫌気が差したのだ。


「……ふぅ」


 深呼吸をし前を見据え、両手を広げる。千佳のシュートは、岸本姉妹のときのように枠外にはならないだろう。

 千佳はみさきが構えたのを見て、佳央梨へパスを出す。そして彼女自身はみさきからみて佳央梨の左側へとダッシュする。


 そのダッシュした場所はゴール正面からシュートできる位置。ゴールの左右どちらも狙える場所だ。

 予測することができない。それに加えコースを狙ったシュートを打たれると、反応に一歩遅れ止めることは確実に無理だった。


(誘おっか)


 千佳がみさきの位置をを確認するため顔を上げた。それを見てみさきは左へ足を動かす。

 次いで千佳は顔を下げ、ボールの横に踏み込む。


 みさきは千佳の踏み込んだ足の爪先の方向を確認する。

 その方向は右。

 みさきが動いた方向とは反対側を向いていた。


 となると、狙う方向はゴールの右側。


 誘うことができたことを確認すると、みさきは右へ一歩戻る。


(あとは我慢)


 シュートを打つ前に飛んでしまうと、コースを変えられる可能性がある。そうなれば誘った意味が無意味になる。それだけは避けなければならない。


 ボールが蹴られる瞬間、その一点だけに集中。


(今っ!)


 千佳がシュートを打つと同時にみさきは右へ跳ぶ。ボールは彼女が想定していた通り、ゴールの右側へ弧を描いている。

 しかもサイドネットを狙った、ゴールキーパーの手が一番届きにくいコース。

 幸いなことと言えばグラウンダーのシュートだということか。ゴール上部を狙われたら確実に決められている。


 それでも予測して跳んだみさきの手がギリギリ届くかどうかだったが。


(嫌なシュート……だけどっ)


 懸命に右手を伸ばす。それが功を奏し、中指の先にボールが触れる。

 みさきに触れられたボールは軌道が変わり、ゴールポストに当たる。跳ね返ったボールはみさきの手元へと転がった。


 彼女は落ち着いてボールをキャッチする。


「っしゃあ!」


 みさきはボールを抱え立ち上がるとガッツポーズをする。そして千佳を指差した。


「残念だったねー」

「……ちっ」


 千佳は小さく舌打ちし、みさきから視線を逸らす。そんな彼女にみさきはボールを投げた。


「左へ動いたのが見えたのに」

「駆け引きだよー」

「騙されたわ」


 投げられたボールを足の裏で受け止め、ため息を吐く。


「反応されてても届かないようなコースを正確に狙ったけれどね」

「ギリギリだったよー。一歩飛びつくのが遅かったら届いていなかったしー」

「……次は浮き球で狙うわ」

「それは止めて欲しいかなー」


 それは絶対に手が届かない。飛びつくことさえも諦めるだろう。


「まーこれで、あとは由依ちゃんと藍那ちゃんかー」


 チラッと二人を見る。すると二人は水上から声をかけられ、何か話し込んでいた。

 そして由依はうなずくと持っていたボールを佳央梨に向けて蹴る。


(由依ちゃんはー、どこにシュートするかなー)


 話し込んでいたことが気になる。シュートについて知恵を吹き込まれていたら厄介。

 色々なことを考えているうちに佳央梨がボールを落とし、由依がシュート体勢に入る。


 みさきは由依が顔を上げてシュートコースを確認すると思っていたが、彼女はボールを見たままだった。


 千佳のときみたいに揺さぶりをかけることができない。

 由依が踏み込む。千佳のときと同様、みさきは由依の軸足を見た。


 爪先の方向は左。みさきは由依が蹴った瞬間に左へと跳んだ。


「えっ」


 跳んだ直後、みさきは呆気にとられた声を上げた。


 ボールが蹴られた方向は中央。由依は足を開き、軸足の爪先の向きとは異なる方向にシュートを打っていた。

 逆を突かれたみさきは足を伸ばしてボールに触れようとする。しかし由依が放ったシュートはボールスピードが遅く、勢いよく左へ跳んだみさきが触れることは叶わなかった。


 由依のシュートはゴール真ん中に決まる。


「決まった……わね」


 シュートを決めた由依も目を丸くしていた。


「完全に反対を突かれたよー」

「水上さんが言ったとおりになったわね」

「何を言われたのー?」


 ゴールネットに絡まるボールを取りながら尋ねる。由依はボールを受け取るためにゴール近づき口を開く。


「「湊さんにパスをする前にシュートコースを決める」ことと「軸足の爪先の方向とは反対を狙うこと」を言われたわ」

「なるほどねー」


 してやられた、とみさきは思った。理紗から千佳までがシュートをしたときのみさきの動きを見て、水上は彼女のセービング方法に気づいたということだ。


(細かいところまでよく見ているなー)


 基礎練習だけではなく、シュート練習でもきちんと指導している。解散したサッカークラブの指導していたことは確かだった。


 そこまで考えてみさきは苦笑した。水上が今日「指導者代理」だと自己紹介していたが、代理だとは思えないほど真剣にみんなを見ていることに矛盾を感じたからだ。


 今後も本当に指導をしてくれることを確約してくれていると錯覚してしまう。


(どうやったら代理じゃなくなるんだろーなー)

「どうしたの?」


 突然笑みを浮かべたみさきに由依は怪訝な顔をする。みさきは「なんでもないよー」と言いながら由依へボールを返した。


「今日初めてゴールを決められたのが由依ちゃんだったからー、あたしもまだまだだなーって」

「……もう」


 呆れたのか、由依はボールを受け取ると息を吐いてみんなが集まっている場所へと戻る。


(さて、とー)


 どうすれば水上が本当の指導者になってくれるのかを考えることは置いといて、次のシュート練習をする相手を見る。


 今度は藍那。今回も水上が彼女に指示を出している。


「止めることが難しいから、指示は出さないで欲しいんだけどなー」


 ぼやくが不満はない。


 そのほうがキーパーとしては色々考えることができるし、充実した練習ができるからだ。

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