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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第四章】暫定指導者とサッカークラブ
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休憩

「休憩しよう」


 基礎練習を終え、両手を叩きながら水上が全員に言った。


「次の練習の準備をするから、それまで休憩」

「「分かりました」」

「ああ、湊は手伝って」

「えー」


 一人指名された佳央梨は不満を言いつつも水上のもとへ行き、準備を手伝う。

 二人の大人が離れていき、高校生の六人は自然と集まって一息入れる。


「ねーねー千佳ちゃん、湊さんはどーだった?」


 一息入れたあと、最初に口を開いたのはみさきだった。

 その質問に全員が千佳のほうを向く。


「普通に上手いわよ」


 スポーツドリンクで喉を潤し、千佳は答える。


「キックもトラップもミスが全然なかったわ」

「さすが元選抜、って感じー?」

「そう」


 練習の準備をしている佳央梨を眺めながら千佳はうなずく。

 頭の中には先ほどのリフティングの光景が浮かんでいた。

 丁寧なトラップに正確なキック。

 ツートラップというタッチ数が少ない中で要求した箇所にボールが飛んでくるので、判断も早いことが分かった。


(経験からきているのもあると思うけれど)


 千佳たちと佳央梨は年齢が一回りぐらい違うはず。サッカーに関する経験に差があるのは当然のことだ。


「一つ一つの動きを参考にしたいわ」

「千佳ちゃんの学校の先生だし、教わる時間はたくさんあるねー」

「そうね」


 みさきの言うことはもっともだ。休み時間でもサッカーの話をすることができるかもしれない。

 来週からでも聞きに行こうかしら、と千佳は考える。


「そういえば、藍那」

「は、はいっ」

「私と湊先生のリフティングを見ていたけど、何を見ていたの?」

「えっと、トラップの仕方をどうしているのかな……って」

「……見てできるものなの?」

「それ、うちも気になってたんや」


 理紗が興味津々に藍那を見る。藍那は腕を組んで空を見上げた。


「うーん……自分自身に当てはめて、イメージできたらできたよ?」


 当たり前のように言う藍那。理紗は目を丸くした。


「や、普通はできへんって」

「そうなの?」

「首をかしげられてもなぁ」

「理紗、大嶋さんはたまに常識の外にいるわよ」


 由依は理紗の肩を触り、首を横に振る。


「全力でサッカーした翌朝に「お(なか)空いていたから」って、朝からカレーを食べることができるし」

「……それはうちもできへんな」

「藍那……」

「えっえっ?」


 ジッと理紗と千佳に見つめられ、戸惑った声を上げる藍那。


「ふ、普通だと思っていたけど……」

「今日の朝は何を食べたんや?」

「……パスタ?」

「藍那の普通が何なのか知りたいわ」


 ため息交じりぼやくのは千佳。由依の言う通り、藍那の考え方はどこか違う。

 これ以上、とやかく言っても仕方ないことだが。


「……話を戻して、藍那は感覚でボールを蹴っているんやな」

「みんなは違うの?」

「昔からサッカーをしているから、今は感覚で蹴っているけど……」


 藍那は違うやろ、と理紗は言う。その言葉に藍那はコクンと首を縦に振った。


「サッカーとは別に、ボールを蹴ったことは?」

「試合や練習を中学校の時に見たことがるくらいかな」


 過去のことを振り返りながら藍那は答える。


「他に運動は?」

「体育の授業くらい……あ、あと自転車?」

「なぜ疑問形?」

「えっとね……」


 どう説明しようか考えているらしく、藍那は再度空を見上げる。しばらく時間が経ち、考えがまとまったのか視線を前に戻した。


「中学校の友達のランニングを自転車で追いかけていたことがあるの」

「追いかけていた? どれくらい?」

「えっと……三十分から一時間ぐらいを週に二回かな」

「確かに運動とは少し違うわね」


 ランニングしていた友達がどれくらいのスピードで走っていたのかは分からないが、定期的に体を動かしていたことは確かなようだ。


「サッカーを始めたきっかけって、引越しした友達の影響だったっけ? その人に付き合っていたの?」


 昨日の昼休み、由依が藍那から聞いたことを思い出す。

 すると懐かしむように藍那は目を細くした。


「そうだよ。練習が休みの日はわたしが個人練習に付き合っていたよ」

「その時に藍那ちゃんはボールを蹴らなかったのー?」

「うん。走ることがメインだったらしいの」

「藍那、その人の名前を聞いてもいい?」


 そんな同年代がいたのかと千佳思い、藍那に尋ねる。もしかしたら千佳の知っている人なのかもしれないと思ったからだ。


「えっとね……」

「おーい、練習を再開するぞ」


 話を聞いて千佳が尋ねたところで、水上が声をかける。藍那は「またあとで」と千佳に言い、六人は水上の元へ向かう。


「水上さん、何するのー?」

「シュート練習だよ」

「じゃあー、キーパーしていいー?」

「もちろん」


 水上がうなずくと、みさきはグローブを取りに行く。


「シュート練習はフォワードに当てて落としたボールをシュートするのですか?」


 手を挙げて由依が質問をする。すると水上は首を横に振った。


「少し違うかな。ゴール前を見てくれる?」


 彼が指さし、高校生五人はゴール前を見る。そこには等間隔で並べられたマーカーが四つ置かれていた。

 そのうちの真ん中の片方に佳央梨が立っている。


「マーカーが相手のディフェンスライン。湊にパスをして落としてもらったボールをマーカーの間からシュートする練習だ」

「単にゴールに向かってシュートではないのですね」

「ノーマークでシュートできることなんて、めったにないからね」


 マーカーだから勝手には動かないが、その間からシュートすることは重要な練習。

 この練習で彼がイメージしているのは試合中、ディフェンス間からゴールを狙うこと。

 練習を重ねて意識付けし、とっさの判断でシュートができるようになることが大切、そう彼は考えていた。


「まずはゴール正面から始めよう。最初は……」

「うちがやってええか?」


 勢いよく手を上げ、理紗が立候補した。水上はうなずいて彼女に準備させる。

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