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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第四章】暫定指導者とサッカークラブ
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リフティングとトラップ

(視線が気になる)


 ボールを足元に置き、佳央梨は思う。水上が藍那に声をかけたことで彼女が見るのは当然だったが、他のメンバも手を止めて佳央梨と千佳を見ている。


(私を見ているのかな)


 水上が佳央梨を紹介したときに「元県選抜」と話したことで注目を浴びているようだ。


 足元のボールを見る。本気でサッカーをしていたのはかなり前の話。今は上手くできる保証なんてない。

 さっき基礎練習を佳央梨もやったが、蹴るための筋力が衰えていたり、感覚がずれてしまっていることは実感していた。


 期待した目で見ないで欲しい。


 そんなことを考えつつ、佳央梨はボールをすくい上げ、宙に浮かす。一度千佳が立つ位置を見て、落下するボールに足を合わせる。

 狙ったのは千佳の胸だったが、思っていたよりも距離があった。届かずに彼女の太ももの付け根あたりにボールが飛ぶ。


 対して千佳は円の大きさを確認するために背後をチラッと見る。まだ余裕があった。彼女は数歩後ろに下がると太ももの真ん中あたりを使ってボールを受け止める。そして次の動作で佳央梨へとボールを返した。

 佳央梨もすぐに千佳へとボールを返す。


(サッカー推薦で入学してきただけはあるわね)


 体の一部でもあるかのようにボールを扱う千佳を見て佳央梨は思う。基礎練習で彼女の動きを見たが、どのプレーも丁寧で正確なものだった。

 テクニックだけなら吉川高校の男子サッカー部に引けを取らない。


 左右どちらの足もきちんと蹴ることができている。利き足がどちらなのか分からないほどだ。


(女子サッカー部があれば)


 確実にレギュラーだ。彼女を中心にチームを作ることもできそう。

 ボールを蹴りながら佳央梨は思う。


「……すごいなぁ」


 ボールが地面に落ちず二十のやり取りを越えた頃、感嘆の声をあげたのは藍那だった。


「どうしてあんなに続くのかな?」

「色々なことが上手いから続くのだけど、大きいことトラップが上手いからかな?」


 藍那の疑問に美紗が答える。


「トラップが上手い?」

「ボールを太ももや胸でトラップするときに、蹴りやすい場所へコントロールしているのよ」

「コントロール?」

「例えば……」


 美紗は理紗に目をやる。理紗は美紗の意図が伝わったのか、ボールを美紗へと投げた。

 そのボールを美紗は右脚の太ももに当て、少し外側へ動かす。そして半身になってインサイドキックで理紗へボールを返した。


「トラップは次のプレーをしやすい場所へボールを動かすの。そうしないと……」


 両手を広げ美紗はボールを要求する。理紗はボールを投げ、美紗は太ももを使い胸元の高さまで真上にボールを上げる。

 すると先ほど外側へトラップしたときとは違い、美紗はもたつきながらボールを蹴り返した。


「今のは大げさにしたけど、変な()って言うのかな……中途半端な感じになるのよ」

「タイミングもずれているのかな?」

「そう。それに思い通りにトラップして蹴ることができると、心に余裕ができるわ」


 だから基礎練習は大切よと美紗は付け加え、藍那へ理解したようにうなずいた。


「それにしても、まだ続いているね」


 美紗は視線を千佳と佳央梨に戻す。彼女が藍那に説明をしている間もリフティングは続いていた。

 コツをつかんだらしく、終わる気配はない。


「あれは放っておいて、こっちの練習をしようか」

「は、はいっ」


 水上に声をかけられ、藍那は二人から視線を外す。


「まずは右太ももからいくよ」


 そう言って水上はボールを投げた。藍那はボールの軌道をよく見てボールを右太ももに当てる。

 しかしボールは膝の関節部に当たり、そのまま水上の元へ飛んでいってしまった。

 反対の足で同じ事をするが、結果は同じだった。


「うーん……」

「もう少し膝の真ん中あたりを使えばいいよ」


 眉間にシワを寄せ、首をかしげる藍那に水上は言う。


「当たる瞬間に軽く太ももを引いてみて」

「わ、わかりました」

「じゃあ、続けよう」


 淡々と続けていく。だがトラップする力加減が分からず、何度やっても上手くできなかった。

 両足交互に十回終え、藍那は一度も水上に返すことができなかった。


 なぜ上手くいかないのか理解できていない藍那は、太ももを触り今までどこに当たっていたのか確認をしている。

 だけど何が違っていたのか全く分からず、上手くできるイメージが浮かばない。


「もう少し続ける?」

「……あの、湊さんと千佳ちゃんのリフティングを見てもいいですか?」


 藍那はチラリと千佳と佳央梨に視線を向ける。彼女たちはまだリフティングを続けていた。


(比較をしたいんだな)


 上手くボールを扱う二人を参考にしたいという彼女の意図を理解し、水上はうなずいた。


(えっと、トラップは……)


 藍那は二人のリフティングを眺め、じっくりと観察する。

 見ているのは二人がボールを足に当てる瞬間。

 どのように足を動かし、ボールを受け止めているのかをしっかりと見る。


(何が違うのかな?)


 難なく太ももでトラップをしている目の前の二人と自分自身のトラップを思い浮かべ、比較する。


 どちらも同じように見えて仕方がない。


(へぇ)


 佳央梨は首をかしげる藍那を横目に見て、水上と同様彼女の考えを理解した。佳央梨は千佳の太ももにめがけて山なりのボールを蹴る。

 千佳は山なりのボールの軌道を確認して、トラップする前に佳央梨を見る。佳央梨は右太ももを叩いて「ここにボールを渡して」と表現をしていた。


 千佳は蹴りやすい場所にボールを移動させ、インサイドキックで佳央梨に返す。


「さっき美紗が言ってたけど「次のプレーをしやすい場所へボールを動かす」って、体から少し離れた場所なんや」


 真剣に見ている藍那に理紗が声をかける。


「近すぎると体を移動させたり、もう一度ボールを触らないといけなくなるからな」


 改めて藍那は二人のリフティングを見る。確かに二人はトラップでボールを体から少し離れた場所に移動させていた。

 移動させているその位置も横だったり前だったり様々だった。


(これが「当たる瞬間に軽く太ももを引く」ってことかな?)


 先ほど水上が言っていた言葉が藍那の脳内に浮かぶ。二人は飛んでくるボールを太ももを引いて勢い殺していた。

 だけど完全に勢いを殺している訳ではなく、太ももに当てたあと少しだけ弾いているようにも見えた。

 完全に勢いを殺さなかったボールは、太ももに当たり、軌道を変えている。


(ああ)


 頭の中で考えがまとまる。

 トラップとは「次のプレーをしやすい場所へボールを動かす」こと。

 単純にボールを足元に置くだけではなく「次の動きを意識する」ことが大切なのだ。


 だとしたら、藍那はどういう動きをするべきなのか?


「水上さん、もう一度トラップ練習をしていいですか?」

「もちろん」

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