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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第四章】暫定指導者とサッカークラブ
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初めまして

第三章での新しい登場人物ですが、本章以降の地の文では下記に統一します。

湊佳央梨→佳央梨

水上拓海→水上

「暑い……」


 河川敷のグラウンド。由依が滴る汗を拭い、ぼやく。

 季節は夏にどんどん向かっている。昼間が暑いのは当然のことで、河川敷のように日陰がない場所いるとなおさらだ。


(早く来すぎたかしら)


 昨日、作成したグループトーク「サッカー連絡用(仮)」に投稿された千佳のトーク。それに従って河川敷に来たのだが、由依が一番乗りだった。


 そもそも今日は土曜日。理紗たちの西寺学園、千佳の吉川高校は午前は授業がある。

 授業を終え着替えることを考えたら、午後一時頃の時間は早いのかもしれない。


 時間を持て余してしまった由依はグループトークに「河川敷にいるよ」と投稿するが、誰からも返信はない。

 ただ既読にした人数は全員分あるから、見ていることは確かだ。


(はぁ)


 暑い中突っ立っていることも馬鹿らしくなり、ランニングでもしようと由依は靴をスパイクに履き替える。


「あの……本郷さんの知り合い?」


 靴を履き替え走ろうとしていた矢先、声をかけられた。

 見るとタイヤの太いマウンテンバイクを両手で押し、エナメルバッグを肩から下げた男性がいた。


 本来なら声をかけられても無視をすることが当然の行為。だけど発せられた言葉の中に千佳の名前があった。

 警戒しつつ由依は口を開く。


「……誰ですか?」

「ああ、俺は水上(みずかみ)拓海(たくみ)。本郷さんに依頼されてチームを見に来たんだ」

「依頼?」

「指導者の依頼。暫定だけど」


 よろしく、とジャージ姿の男性――水上は頭を下げる。つられて由依も頭を下げた。


「暫定の指導者、ですか?」

「そ。資格もちゃんと持っているよ」


 ポケットから指導者ライセンス証を取り出し、由依に見せる。

 指導者ライセンス証は選手証と同じくらい、名刺の大きさだった。色と書いている内容が多少異なるだけで、ほとんど変わらなかった。


「どこかで指導をしていたのですか?」

「三月まで他のクラブで……」

「おーい、何しているのー?」


 水上が話している途中、割り込むように大きな声が聞こえた。声のした方角を見ると土手の上を歩くみさきたち――西寺学園の三人がいた。

 由依は彼女たちに手招きをする。


「誰や、この人?」

「水上さん。サッカー指導者よ。本郷さんの知り合い」

「おー?」


 由依の紹介にみさきが興味を持つ。


「水上さんー、はじめましてー」

「初めまして」

「彼女いますかー?」

「初対面にする話じゃないやろ」

「いたっ」


 パシッと理紗に頭を(はた)かれるみさき。みさきはたたらを踏み、叩かれた箇所をさすりながら理紗を見る。理紗も手をブラブラさせながらみさきを見返す。


「元気だな。俺は暑くて死にそうになっているのに」

「それは、五月なのに長袖の黒いジャージを着ているからだと思いますけど」


 美紗の指摘され、水上は自分自身の格好を確認する。そして彼は苦笑した。


「だから暑いのか」

「……こんな人が指導者なの?」


 ルーズな男性に美紗は不信感を募らせる。


「研究室にこもっていたんだ。そこは大目に見てくれ」

「大学の人ー?」

「ああ、敷瀬大学の院生だ」

「指導者って、大学生がなれるものなんですかー?」

「制限があるのは、年齢だけだよ」


 首をかしげるみさきに水上が答える。


「受講年度の四月時点で満十八歳ならD級とC級は受けることができるよ」

「水上さんの資格は?」

「俺はC級だよ」


 由依に見せたライセンス証を改めて取り出して見せる。


「どこかで指導者をしていたんですか?」

「……三月まで別のチームで、ね」

「もしかして「敷瀬GSC」の元指導者?」


 歯切れの悪い口調に由依が気づく。すると水上はうなずいた。


「ああ。人数が少なくなったからな」

「解散時は何人だったんですか?」

「五人。加えてキーパーはいない」

「あー」


 中学時代、人数がギリギリのサッカー部のマネージャだった由依は同情の声を上げる。


「それは無理ですね……」

「だろ……っと、それは言い訳になるか」

「解散をもー少し遅くしてくれれば、あたしがキーパーとして入ったのになー」


 両手を頭の後ろにまわし、ぼやくみさき。


「すまない…それで本郷さんを除いて全員なのか?」

「えっとねー……あの離れた場所にいる人を含めたら、そだよー」


 みさきが水上の後方を指差す。そこにはエナメルバッグを背負った少女がいた。


「大嶋さん、こっちに来て」

「! うんっ」


 由依に声をかけられ、小走りで駆け寄る。


「え、えっと……この人は?」

「水上さん。敷瀬GSCの元指導者で、本郷さんの知り合いだそうよ」

「は、はじめまして。わたし、大嶋藍那です」


 自己紹介をして、頭を下げる藍那。それを見た由依たち女子メンバは顔を見合わせる。


「そういや、自己紹介をしてなかったな。うちは岸本理紗や」

「私は岸本美紗です。理紗の双子の妹です」

「あたしはー、川内みさきー」

「吉野由依です」

「じゃあ、改めて。俺は水上拓海。指導者代理だ」


 会釈し、お互いの名前を覚える。


「みんなサッカー経験者?」


 尋ねると手を挙げたのは理紗と美紗、そしてみさきの三人。藍那と由依は「初心者です」と水上に話す。


「吉野さん、あなたは初心者ではないよね?」

「初心者よ」

「どこがや。中学時代はサッカー部マネージャ兼プレイヤーやったんやろ?」

「そうよ」

「ボールの蹴り方を知っていたらー、初心者じゃないかなー」

「……もう」


 西寺学園の三人に言われ、由依はしぶしぶと手を挙げる。

 水上は手を挙げなかった藍那のほうを向き口を開く。


「大嶋さんだっけ? 今までサッカーに触れたことはある?」

「え、えっと……試合を観たことがあります」

「プロサッカー?」

「い、いえ。お友達の試合、です」

「なるほど。サッカーを全く知らない、というわけじゃないんだ」

「は、はい。高校からサッカーをやってみたくて……」


 自信なさげに言う藍那。それを見た水上は微笑む。


「やってみたいと思うことは悪くないよ。その友達はここにはいないの?」

「三月に県外に引っ越しちゃいました」

「そうなんだ」


 かなり特殊な経歴だ、と水上は感じた。普通なら友達に誘われて、一緒にクラブチームや部活に入ることがほどんどだ。

 初心者だけが一人で行動し、クラブチームに入ろうとすることは珍しい。


(理由を聞くなんて野暮なことはしないけどな)

「やっほー、水上君」


 水上は土手の上を見る。車が停まっていて、運転席から女性が手を振っていた。


「……湊?」

「本郷さんを連れてきたよー」


 助手席から千佳が降り、水上に向かって頭を下げる。

 これで全員かな、と水上はつぶやく。


「じゃあ、練習を始めようか」

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