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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第一章】サッカークラブの三人と新しい二人
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路面電車にて

 スタダを出たあと、藍那は駆けていた。

 三人の中だと路面電車に乗り、移動する彼女が一番最後になることは自明のことだった。

 加えて家に寄り、運動着に着替えるため、時間がかかる。

 彼女は着替えてから河川敷に向かうことを、千佳やみさきに路面電車の電停に向かう間にメッセージアプリを使って伝えていた。二人とも「わかった」と返信をしていたけど、迷惑をかけていることに変わりはない。


「ま、間に合ったぁ」


 電停に停車している路面電車を見つけ、ホッと息を吐く。乗り遅れると十分以上待つことになる。

 彼女はスマートフォンの時計を見た。そろそろ発車時刻。ICカードをカード読み取り部にタッチし、路面電車に乗り込む。ぎりぎりに乗ったこともあって、席は空いていない。周囲を見て近くのつり革に手をかけた。

 しばらくしてエンジン音とともに路面電車が振動し、ドアが閉まるとゆっくりと動き出す。


「ふぅ」


 電車に揺られながら息を整え、藍那は車窓の外を眺める。脳裏に浮かんできたきたことは今日の出来事。

 放課後の校門前。藍那はサッカークラブのチラシを配った。だけど人見知りの彼女は全てを配りきることができなかった。残りは背負っているエナメルバッグの中に入っている。

 そのチラシを一枚取り出し、見つめる。デザインは藍那が考えた。白黒のサッカーボールがデザインされ「メンバー募集中!」と書かれている。


(はぁ)


 ため息が出る。藍那はチラシを配っていたときのことを反省していた。緊張して上手く渡すことができず、変な目で見られてしまったことが心に残っている。


(人見知り、直したいなぁ)


 藍那はもともと他人と話すことは苦手だった。会話をしているときじっと視線を向けられることが怖かった。

 ハキハキとした口調で話せるようになりたい、と彼女は思っていた。


「ん? それサッカークラブの募集か?」

「ひゃあ!」


 不意に背後から声をかけられ、藍那は頓狂な声を上げた。激しく動悸する胸をおさえながら、後ろを向く。そこにはジャージを着た、ショートヘアの女子がいた。彼女も驚いたのか片手で胸をおさえている。


「す、すまん。驚かせたか?」

「わ、わたしも大きな声を上げて、ごめんなさい……」


 乗客の視線が痛い。藍那は恥ずかしくなってうつむく。


「……ほんで、それはサッカークラブの募集なん?」


 呼吸を整え、再びショートヘアの女子が尋ねる。


「そうです。まだ人数も少ないので、試合はできないですけど……」

「ふーん」


 まじまじとチラシを見る。興味がありそうだったので、藍那はエナメルバッグから一枚取り出し、彼女に手渡す。


「練習はしてるん?」

「えっと……たまに」

「次はいつなん?」

「これから河川敷のグラウンドでボールを蹴りに行くところです」


 藍那がそう答えると、ショートヘアの子は笑みを浮かべた。


「うちも混ぜてや」

「えっ?」

「ちょうどボール蹴れる場所と人を探してたんや」


 引っ越してきたばかりで、この辺りあまり知らんのや、と付け加える。


「構わんやろ?」

「えっと……」


 急なお願いに藍那は戸惑う。来てくれると言ってくれることが嬉しく思う反面、突然連れていって千佳とみさきが受け入れてくれるか分からなくて心配になる葛藤。


「ダメなん?」

「……大丈夫、です」


 不安げに言われると断りづらい。藍那はうなずくしかなかった。


「よし、じゃあ美紗(みさ)にも連絡しないとな」


 スマートフォンを取り出し、手際よく画面をタップしていく。ちょうど藍那の視界にも少女のスマートフォンの画面が見えた。アプリを使って連絡を取っているようだ。


「みさ?」

「うちの双子の妹や――ああ、自己紹介がまだだったな」


 連絡を終えジャージのポケットにスマートフォンをしまうと、こほんと一回咳払いをする。


「うちは岸本理紗(きしもとりさ)や」

「わ、わたしは大嶋藍那、です」

「よろしゅうな」

「は、はい」

「これからすぐに行くん?」

「一旦家に行って、着替えます」

「そりゃそうか」


 理紗は藍那の姿を見る。彼女は学校帰りの制服のままだった。靴もスニーカーだから、ボールを蹴ることができるはずがない。


「うちも藍那の家へついていってもええか? 河川敷に行っても誰がおるか分からんし」

「いいですよ――あ、ここで降ります」


 路面電車が電停で停車し、藍那と理紗は降りる。路面電車が発車し、通り過ぎるのを待ってから、電停とは反対側の道へと出る。

 五分ほど歩き、住宅街の中へと入る。しばらくして一戸建ての正面で藍那は立ち止まった。


「すぐに戻ってくるので、待っていてもらえますか?」

「わかった」


 理紗がうなずくのを見て藍那は家の中へと入っていった。理紗は藍那を待つ間、スマートフォンを取り出し、妹の美紗に連絡を入れる。


『美紗、今どこにおるん?』

『路面電車の中だよ。理紗は?』

『さっき伝えたサッカー少女の家の前。ボール蹴ることは問題なさそうや』

『合流できる?』


 妹の言葉に理紗は考え込む。藍那は初対面の理紗を自身の家まで連れてきた。どんなにお人好しでも気軽に他人を家の前まで連れていかないだろう。だから不用意に藍那の家まで妹を連れてくることは理紗は気が引けた。

 しかし彼女もどこでボールを蹴るのかはっきり分かっていない。


『河川敷でボールを蹴るらしいから、とりあえず吉川(よしかわ)のどこかで』


 河川敷というと、この辺りには吉川しかない。そこで合流しようと理紗は伝える。


『ざっくりしすぎだけど……わかったわ』


 美紗は了解の旨を返す。理紗はその内容を既読にすると、スマートフォンを片付ける。


(まあ、なんとかなるやろ)


 初対面の藍那に飛び入り参加という、無茶なお願いをしたことを反省しつつ、理紗は久しぶりにボールを蹴ることができることに笑みを浮かべていた。

美紗にざっくりとした合流場所を言ったことには反省していない、理紗。

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