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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第三章】それぞれの日常
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本郷千佳の昼休み

時間は遡り、吉川高校の昼休み。


『一年C組の本郷千佳さん、職員室に来てください。繰り返します――』


 呼出音が鳴り、千佳を呼ぶアナウンスが流れた。しかし机の上に突っ伏している彼女は微動だにしない。


「……本郷さん、呼んでいるよ?」

「……ん」


 クラスメイトに肩を叩かれ、千佳は体を上げる。

 千佳は昼休み、ご飯を食べたあとに昼寝をする習慣があった。

 それは無理もなく彼女は毎朝男子サッカー部で朝練をし、疲れている体で午前の授業を受けているからだ。

 昼休みは大切な休息時間。だけど今日はそれを邪魔された。

 寝惚け眼を両手で擦り、大きく伸びをする。そして声をかけてきたクラスメイトに顔を向ける。


「誰が呼んでいるの?」

「さぁ? 職員室へ来るようにしか言っていないわ」

「……そう」


 千佳は立ち上がり、教室の外へ向かう。教室にいた生徒は呼び出された彼女を奇異の目で見るが、誰も声をかけることはしない。

 視線を感じながらも教室を出て、クラスメイトがいなくなったことを確認してからため息を吐く。

 視線の意味は理解している。


(スポーツ科で部活に入っていないのは私だけだからね)


 男子サッカー部に混じってサッカーをしているが、入部している訳ではなかった。

 千佳は本来なら吉川高校に入学し、女子サッカー部に入部する予定だったが、三月に廃部になってしまっていた。

 想定外の出来事に彼女は元女子サッカー部顧問に問いただした。すると拍子抜けするような答えが返ってきた。


『二年生――新三年生が退部したのよ』


 しかも退部した上、クラブチームの「備丘(びおか)GFC」に入ったということ。

 そしてもともと新二年生は少なかったため、千佳が入部する直前に人数不足として廃部になった。


 実績の少なく、人数の足りない部活は廃部にする。


 理にかなってるかもしれないが急な出来事で、千佳には受け入れ難いことだった。

 彼女はサッカーのスポーツ推薦で入学しているため、無くなるとなると大きな問題になる。


 すると元女子サッカー部顧問は違う部活――ボールを使っていたからハンドボール部や体力があるなら陸上部など――に入るよう提案されたが、固辞した。


 千佳はサッカーがやりたいのだ。そこだけは譲れなった。


 頑なに態度を変えない彼女に顧問は――学校側の問題もあったので――他の部活に入部させることは諦めた。代わりに妥協案として「クラブチームに入り活躍すること」ということを告げ、彼女はそれを受け入れたのだった。


(駄目ね)


 あまり思い出したくもないことを頭によぎらせ、気分が悪くなっている自分自身に気づく。ネガティブ思考はいけない、と千佳は首を横に振る。


「失礼します」


 職員室のドアをノックし中に入る。


「あ、本郷さん。こっちよ」


 入ってきた生徒を確認し、教師が手招きをする。

 手招きしていた教師は元女子サッカー部の顧問。千佳は顔をしかめる。


「あからさまに嫌な顔をしないで。先生傷つくわ」


 顧問は両手を胸に当て、悲しそうな表情をする。

 だけど台詞は棒読みだった。

 千佳はその教師の態度を何度か見たことがある。


「……湊先生、傷ついていないですよね?」

「バレた?」


 悲しい表情をするのをやめ、教師――(みなと)佳央梨(かおり)は笑みを浮かべる。


「本郷さんのその顔は何度も見たから。もう傷つくことはないわ」

「……そうですか」


 湊先生のざっくばらんな返事に肩を落とす。千佳は最初、湊先生の言動に戸惑っていたが、入学して一ヶ月も経つと慣れた。

 そして千佳も気兼ねなく話すことができている。


「それで、なんでしょうか。朝練して眠いので、早く教室に戻って寝たいのですが」

「クラブは見つかった?」

「……いえ」


 湊先生の質問に千佳は言葉を詰まらせる。


「いいクラブが見つかりません」

「「備丘(びおか)GFC」に入ればいいのに」

「あそこは……嫌です」


 言おうかどうか一瞬迷った近くだったが、ハッキリと答える。


「退部した先輩と一緒にサッカーをしたくはありません」

「本郷さんならそう言うと思ったわ」


 私もそう考えるわ、と湊先生は付け足す。


「でも実際問題どうするの? 他に活躍できるチームはあるの?」

「……えっと」


 藍那とみさきの顔が思い浮かぶ。彼女たちとクラブを結成しようとしているが今は人数が少なく、クラブとして機能していない。


 そのことを言っていいのか悩んでいると、湊先生が目を光らせた。


「何か心当たりでもあるの?」

「実は……」


 隠す理由もないと感じた千佳はクラブを作ろうとしている現状を湊先生に説明する。


「いいんじゃない?」


 話を聞き、湊先生は相槌を打った。否定されずすぐに同意を得ることができた千佳は拍子抜けする。


「いい挑戦だわ。頑張りなさい」

「しかし、学校からの条件が……」

「あれは単なる目標よ……あら失礼」


 教師らしからぬとんでもない発言に職員室にいた全員が湊先生を向き、失言に気づいた彼女は咳払いをする。


「代わりになる結果を残せばいいの――例えば地区大会で優勝とか」

「それ、活躍することと同じでは?」

「あら、そうね」


 ケラケラと笑う湊先生。千佳はしかめっ面になり先生を睨む。

 ひとしきり笑い、深呼吸すると今度はうって変わって真面目な表情になる。


「優勝するしないはともかく、学校が好印象になるようにすればいいのよ」

「好印象……」


 湊先生の言葉を頭の中で反芻させる千佳。だけどスポーツクラブが好印象残すためには実績を作ることした思いつかない。


「難しいですね」

「まあ、私にもどうするべきかは分からないけどね」

「身も蓋もない……」

「最終的な目的や目標を教えてくれれば、フォローするわよ……っと」


 予鈴が鳴った。職員室にいる先生達は教材を持ち、各々教室へと向かう。


「本郷さん、最後に確認」


 湊先生も席から立ち上がりつつ、千佳に尋ねる。


「男子サッカー部として公式戦には出ないのね?」

「はい」

「じゃあ、学校側での選手登録はしないことを伝えておくわよ」


 チラッと千佳のほうを見る。彼女は黙ったままうなずいた。


「ああ、それと。今日の放課後空いてる?」

「はい?」

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