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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第三章】それぞれの日常
36/55

決まらない

「次はチーム名を決めようかー」


 RiMEのグループ名を決定するためにも、次の議題が決まる。


「質問があるんだけど」


 みさきの書いた「チーム名」という文字を叩きながら、美紗が尋ねる。


敷瀬(しきせ)市内にある女子サッカークラブってどこがあるの? 名前が被っちゃったら駄目でしょ」

「公式に登録されているクラブチームは「備丘(びおか)GFC」一つだけよ。県内になると合計で五、六チームだったかな」


 美紗の質問に由依が答える。


「備丘GFC……チーム内で四つのカテゴリに分かれている実力主義のクラブのことか?」

「そう。三月までにあった敷瀬GSCの旧メンバや同じく解散した吉川高校の旧女子サッカー部のメンバが入ったって聞いているから、結構な大所帯になっているはずよ」

「!? けほっ」


 由依の言葉に驚いた藍那が飲んでいた飲み物を喉に詰まらせた。


「大丈夫ー?」

「う、うん……千佳ちゃんの高校の女子サッカー部、解散しちゃっていたの?」


 呼吸を整えて由依のほうを見る。由依も藍那の反応が想定外のものだったらしく、驚いた表情をしていた。


「知らなかったの?」

「うん」

「川内さんは?」

「初耳ー」


 初期メンバの二人が知らないことに呆れたのか、由依は息を短く吐く。


「本郷さんほどの実力者がスポーツ推薦で吉川高校に入学し、部活動じゃなくてクラブに参加しようとしていることに違和感を持ちなさいよ……」

「そーかもしれないけどさー」


 みさきは両手を頭の後ろで組み、口を尖らせる。


「さすがに個人のことを聞くわけにはいかないでしょー」

「……それもそうね」


 正論を言われ、反論できない由依。


「でも、どうして備丘GFCに入らなかったんだろ?」

「千佳ちゃんは「あのクラブ、私は嫌いなの」って言っていたよ」


 以前千佳が言っていた言葉を藍那は口にする。それを聞いて由依は思案顔で天井を見上げる。


「……あー」

「どうしたの?」

「なんでもない。憶測で話すことじゃないし、これ以上聞くのなら、本人に直接聞きましょ」


 プライバシーもあるからね、と由依は思いついた推測を口にはしなかった。


「脱線したわね。それでチーム名だけど「備丘GFC」のチーム名さえ被らなければ問題ないわよ」

「無難なのは地域名や学校名を入れることだけど……」

「わたしたちの学校名を順番に入れる?」

「それは無理でしょ」


 藍那の発案に由依が首を横に振る。さすがに三つの学校名を入れたチーム名にするわけにはいかない。


 わけがわからないチーム名になる。


「……ん? せやったら「備丘GFC」って何の由来なんや?」


 チーム名を考えていた理紗が首をかしげた。「備丘」という名前、地域名でもなく学校名でもなかった。


「敷瀬市周辺で古代に呼ばれていた地名よ」

「へぇ」


 物知りやなぁと由依の知識量に感心する理紗。

 ここまで打てば響くような回答を得ることができるのは希なことだろう。


「学校名の一文字を入れていく?」


 学校名から取ることにこだわっているのか、藍那が再び言う。

 言葉を聞いた美紗が無言で彼女の額を小突く。


「あいたっ」

「駄目よ、藍那ちゃん。由来もなにも分からなくなるチーム名になるわ」


 西寺学園、東山高校、吉川高校の三校から名前を一文字ずつ取ったら最低でも三文字。

 山川西や吉山寺などの名前ができあがるが、調べてみたら敷瀬市とは全く無関係なものだ。


 もはや別の地域。


「いい案だと思うけどなぁ」

「もし別の学校が増えたらどうするのよ?」

「……文字を増やす?」

「ころころチーム名が変わっちゃ駄目」

「あいたっ」


 もう一度小突く。藍那は額をさすり頬を膨らませていたが、美紗の指摘に言い返すことができない。


「由依、チーム名に規則ってある?」

「ないわ。ただ分かりやすいことがベストだと思う」

「だったらさー「敷瀬」の言葉を使おうよー。「敷瀬GSC」は存在しないから、今は誰も使っていないでしょー?」

「……確かに」


 みさきの言葉に由依は考える。彼女が覚えている限り、今は「敷瀬」の言葉は女子サッカーでは使われていない。チーム名に使うことに問題はないし、重複するリスクもかなり低い。

 周囲のメンバを見ても「それが一番かも」と納得している表情をしていて、不満を唱える者はいなかった。


「入れる地域名は決まったねー」


 みさきはノートへ「敷瀬」の言葉を書き込む。

 次に考えるべきことはその言葉の前後につける単語。


「思いつくのは「敷瀬ガールズ」や「敷瀬FC」かな」

「安直やなぁ」

「じゃあ、理紗が考えてよ」

「思いつかん!」


 威張る理紗に美紗は彼女の脳天に手刀を放つ。藍那を小突いた時とは異なり、容赦のない攻撃。


「いったいなぁ」

「ボケるからツッコミよ」

「愛のあるツッコミにしてや」

「面白くないボケには遠慮はいらないわ」

「冷たいなぁ」

「……理紗は置いといて、どうする? プロのチーム名を参考にする?」


 拗ねる理紗は無視し、美紗は残りの三人を見る。しかしいい名前が思い浮かばないらしく、答えが出てこない。

 しばらく五人は天井を見上げたり、飲み物を口にして考えるが誰からも案は出なかった。


「……ねえ。「敷瀬GSC」を使うのは駄目なのかな?」

「後継のチームじゃないから、ね」


 藍那の提案に由依は強く否定をしない。


 もともとあったチーム名を使えば、地元のサッカークラブだということをすぐに理解してくれるというメリットはある。


(人数を十一人集めることが容易くなるかも)


 もしかしたら、以前「敷瀬GSC」に所属していたメンバが加わる可能性が高い。

 それは戦力的に大きな影響を与える。すぐにでも試合ができるメンバ構成になるかもしれない。


(だけど……)


 名を借りてメンバ集めをすることは気が引けた。

 そんな由依を見て美紗がため息を吐いた。


「この中に解散したメンバの誰かがいて「再結成します」って言えば後継のチームになって、名前は引き継げるかもね」

「大義名分ってやつー?」

「そういうこと……まあチーム名は「敷瀬」の言葉を入れるとして、RiMEのグループ名は「サッカー連絡用」にしておいたら? 今はチーム名は決まりそうにないし」


 チーム名が決まりそうになく、これ以上話し合っても意味がないと判断したのか美紗が皆に聞く。

 異論はなく、全員が無言でうなずいた。


「じゃあ、これからグループトークを作るね」


 藍那がスマートフォンを手にしてRiMEでグループトークを作成する。そして五人をグループトークへ招待していく。


「さて、誰が最初に書き込むかなって……お?」


 最初のトークは誰になるのだろうをワクワクしていた理紗が素っ頓狂な声を上げた。その声につられて残りのメンバも自身のスマートフォンを見る。


 最初に書き込んだのはこの場にいない唯一のメンバ――千佳だった。


――千佳:明日の午後に河川敷に集まることができる?

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