放課後の会議
敷瀬駅前のカフェ「スタダ」の一角。藍那、みさき、由依、そして岸本姉妹がそれぞれ飲み物を注文して座っていた。
「ではー、第n回チーム会議を始めたいと思いますー」
みんなが集まり一息ついたところで、みさきが宣言する。
「なんやその「第n回」ってのは?」
「藍那ちゃんと千佳ちゃん、それにあたしの三人で話し合っているからねー。何回やったかは忘れちゃったけど」
「それで「第n回」か」
「そういうことー」
「で、今日のチーム会議のお題は?」
五人が顔をそろえて会議をしたことがないから、認識を合わせたほうがいいと理紗は感じたからだ。
みさきはノートを取り出し、テーブルの真ん中に広げた。残りの四人はそのノートを覗き込む。
一行目に「第n回チーム会議」と今日の日付、その下の行に「練習日の決定」「ユニフォーム案」「チーム名」と横並びに書いてあった。
「今日はこの三つを決めたいかなー」
「了解や」
「で、何から決めるの?」
「これかなー」
美紗の質問にみさきは「練習日の決定」を指差す。
「これが決めやすいと思うんだー」
「本郷さんがいないけど、決めて大丈夫なの?」
この場に唯一いない千佳の名前を出す由依。
「この中だったら一番サッカーが上手いと思うから、本郷さんのスケジュールに合わせたほうがいいと思うけど……」
「そこは大丈夫ー」
ふっふっふと笑い、みさきはスマートフォンの画面を見せる。
「事前に千佳ちゃんから吉川高校の時間割をもらってるんだー」
「用意周到ね」
「えへん」
胸を張るみさき。
「藍那ちゃん、東山高校の時間割出せるー?」
「うん」
「美紗ちゃんは西寺学園の時間割出してー」
「わかった」
それぞれが時間割を取り出し、テーブルの上に広げる。
まず五人は千佳の高校――吉川高校の時間割を見る。吉川高校は金曜日が七限まであり、土曜日の午前にも授業があった。
それ以外の日は六限までの授業となっている。
次にみさきと岸本姉妹の高校――西寺学園。こちらは月曜日に七限、そして土曜日の午前に授業がある。
最後に藍那と由依の高校――東山高校。西寺学園と同じく月曜日に七限があり、土曜日・日曜日に授業はなかった。
じっと五人は時間割を見比べる。
「これだと火・水・木・日のうち、いつ練習するかだね」
「あー、水曜は難しいんちゃう?」
理紗がストローから口を離し、藍那に意見する。
「あの河川敷なら駅の北にある大学――敷瀬大学やったっけ?――のサークルが使っているらしいで」
「どうしてそんなことを知っているの?」
引っ越してきて間もないはずなのに、大学のサークルのことを知っている姉に美紗は目を丸くする。
すると理紗がどや顔になった。
「ネットで調べたら出てきた。確かフリスビーサークルやったと思うで」
理紗はスマートフォンの検索履歴からサークルのサイトを見つけ、妹に見せる。
「本当だ。いつ調べたの?」
「今日の午後の授業中」
「……理紗、授業を何だと思っているの?」
不真面目な態度に呆れ、睨みつける美紗。理紗は冷や汗を流し、たじろぐ。
「せ、せやけど、練習できない日を事前にわかってよかったやんか」
「結果論よ。引っ越していたばかりなのに、そんなことをしていたら、後々大変なことになるわ」
「正論ね。授業についていけなくなるよ」
由依が美紗の肩を持つ。理紗は困ったように藍那のほうを見るが、彼女は苦笑いしているだけで助け舟を出そうとはしなかった。
「みさきー、助けてくれ」
「理紗ちゃんを問い詰めるのは家に帰ってからにしてねー」
「親に報告かな」
「止めてくれ……」
「話し戻すよー」
がっくりと肩を落としている理紗の隣でみさきはノートに書き込んでいた「水曜日」の上にバツ印を書く。
「他にこの日は絶対に駄目ってのはあるー?」
「に、日曜日の午後は難しい……かも」
おずおずと手を上げながら藍那が言う。
「お家の手伝いをしないといけないから……」
「りょーかい」
日曜日の単語の横に「午前のみ」と追記する。追記したあとみさきは他のメンバの顔を見るが「大丈夫」と全員が首を横に振った。
「じゃあ、この四日で練習を調整しよっかー。場所は昨日練習した河川敷だけでいいよねー?」
「今のところはいいんじゃない? 他の場所だったらお金かかるし」
「オッケー」
練習日の項目に「練習場所:いつもの場所」と書き込み、写真を撮る。
「あ、そうだ。「RiME」でクラブのグループトーク作らない?」
みさきが写真を撮っているのを見て、美紗が思いついたように言う。
「そうだね」
最初にうなずいたのは藍那だった。
「わたしは必要だと、思う」
「私も賛成。そのほうが情報共有しやすいし」
異議はなく、由依も賛成する。
「じゃあ、藍那ちゃんグループ作成してー」
「わかった」
「作ったらあたしを招待して―。りさみさを招待するからー」
「なんや、その「りさみさ」は?」
みさきの発した単語に理紗が反応する。
「岸本姉妹のことー。ちなみに使うのは二回目ー」
「コンビ名か」
「その反応も二回目」
「二番煎じやったか」
「……わかってて言っているでしょ?」
由依の問いかけに理紗はにやりと笑う。
「あ」
グループを作成していた藍那が「しまった」とでも言うように声を上げる。
「どうしたの?」
「グループ名はどうするの? 普通はチーム名だと思うけど」
藍那の質問に五人は会議で決める順序を間違えたと感じた。




