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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第三章】それぞれの日常
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西寺学園にて

 場所は変わり、西寺高校。


 東山高校と同じく昼休み。みさきと理紗、そして美紗の三人はみさきのクラスの窓際で三つ机を合わせて談笑しながらご飯を食べていた。

 最初はみさきが転校してきた二人に西寺高校のことを説明していたが次第にサッカーの話題となり、最後には彼女たちのサッカークラブの内容になった。


「じゃあ、お願いねー」


 早々に昼ご飯を食べ終えたみさきは通話を切り、スマートフォンを机の上に置く。

 通話の相手は藍那。今日の放課後に打ち合わせをする約束は問題なくできた。


「どーやった?」


 紙パックに入っていた牛乳を飲みながら理紗が尋ねる。


「問題ないよー。由依ちゃんからも聞いていたらしいしー」

「ああ、うちがさっきRiME(ライム)で連絡したからか」

「一緒にご飯を食べていたのかもねー」

「すぐに仲良くなったんやな」


 出会ってからまだ数日しか経過していないのに、彼女たちは気心の知れた友達になっていた。

 サッカーという共通の趣味を持ち、一緒にボールを蹴ったことを通じて心の距離が近づいたのだ。


「それはあたしたちもでしょー?」

「それもそうやな」

「みさき、放課後に集まって何を話すの?」


 最後までゆっくりと食べていた美紗が自身の鞄に弁当箱を片付けながら尋ねる。


「んー、未定ー」


 片付けられた机の上にみさきは突っ伏す。


「ちょっと」

「冗談だよー。というかー、あたしがさっき理紗に話していたこと聞いていなかったの?」

「……何か話していたの?」


 確かに二人が話していたことは事実だった。美紗が食事をしている目の前で話していたのは確か。

 ただスマートフォンの画面を見ながらコソコソと話していたから、美紗には何を話していたのかは聞こえていない。

 どちらかと言うと何か悪だくみでもしようとしているのだと思い、ご飯を食べることに集中して詳しく聞こうとは思わなかった。


(由依の高校に押しかけた前科があるからね)


 共犯者にはなりたくなかった美紗は見て見ぬふりをするのは当然。しかし今回はそれが裏目に出てしまったようだ。


「二つは決まっているんだー」


 うつ伏せのまま、みさきは指を二本立てる。


「まずはー、スケジュール。みんなの意見を聞いて、曜日を固定しようと思うのー」

「固定? 毎日するんじゃないの?」

「それぞれの学校で時間割が違うからねー」


 だらけた格好のままみさきはスマートフォンの画像フォルダを漁り、美紗に三種類の画像を順番に見せる。


「それぞれ西寺高校、東山高校、吉川高校の時間割ー」

「七限がある日が違うわね」


 美紗はじっくりと各高校の時間割を見る。西寺高校と東山高校は月曜日、吉川高校は金曜日に七限があった。その曜日に全員が集まって練習をしようとすると、どうしても十六時半は過ぎることになる。


「今は人数がまだ少ないし、みんなの他の予定が合う日にするほうが練習効率がいいでしょー」


 理にかなっている。少ない人数で練習しても出来ることが限られる。

 人数が確実に集まる日に絞ることが重要だ。


「ほかにも習い事があるかもしれないしねー」

「わかったわ」

「じゃあ、次ー」


 気の抜けるような口調で続ける。


「ユニフォームを決めるのー」

「ユニフォーム?」

「藍那ちゃんがデザインしているから、それを見るのー」


 どんなデザインになっているのか楽しみらしく、みさきは笑みを浮かべている。


「サッカーをしたことがないのに、デザインなんて作れるんか?」

「見たことぐらいあるでしょ。そうじゃないとサッカーを「すること」に興味を持たないわ」


 姉の疑問に美紗はため息を吐く。


 少なくとも藍那はサッカーを「知っている」と美紗は理解していた。

 彼女がどんな形でサッカーを知ったのか分からないけど――スタジアムで試合を見たのか、はたまた中学時代にサッカー部を見ていたのか――サッカーがどのようなスポーツなのかを大雑把だが知っている。


 ただサッカーを「見る側」から「する側」になるとは稀なことだった。


(辞めなければいいけどね……)


 実際にボールを蹴ってみて「辛い」とか「しんどい」と感じてしまっていたら容易に辞めてしまうだろう。

 そうならないためにも、どれだけサッカーが「楽しい」ものなのかを感じてもらう必要があると美紗は考える。


(けどまあ、ユニフォームのデザインを考えているくらいだし)


 やる気はあるから、当面は大丈夫だろうと彼女は首を横に振る。


「どしたん?」


 ため息を吐いたあと眉間にしわを寄せ、無言で首を振った妹に理紗は首をかしげた。

 美紗は「何でもない」と答え、机に突っ伏したままのみさきの頭を小突く。


「いたっ」

「痛くないでしょ」

「条件反射だよー。条件反射」

「……はぁ。それで、みさきは藍那のデザインは見たことがあるの?」

「ないよー。だから楽しみなんだけどねー」


 早く放課後にならないかなぁ、みさきと体を起こし天井を見上げる。


「それにー、色が分かれば、キーパーユニフォームも準備しやすいからねー」


 彼女にとって色はデザインの次に重要なことだった。ゴールキーパーのユニフォームはフィールドプレーヤーと異なる色にしなければならない。

 また相手ゴールキーパーのユニフォームと色が被ることも極力避ける必要がある。


「みさきはキーパーなんか?」

「そだよー。言ってなかったっけー」

「……そういや、昨日キーパーやってたな」

「なにその意外そうな顔ー」


 心外だとでも言うように理紗を睨む。


「上手かったでしょー?」

「まぁな。反応はよかった」


 昨日のみさきのプレーを思い浮かべる。彼女はミニゲームの時と同様、声を出して美紗に指示を出し、千佳のシュートコースを限定させていた。

 美紗もそれに応えてプレーし、得点が決まることはほとんどなかった。


「せやけど、あれだけ弾いていたらダメやろ」


 確かにゴールは決まらなかった。だけどみさきがが防いだシュートの大半はボールをキャッチせず、ゴールの外に弾き出すようなプレーだった。

 実際の試合なら誰かが詰めてゴールを決めるだろうし、コーナーキックになるとピンチが続くことになる。


「私もシュートを打たせてヒヤヒヤしていたわ。弾いたボールのカバーもしないといけないし」

「キャッチできるボールはキャッチせなあかんな」

「……手厳しいことでー」


 岸本姉妹の言葉にみさきはそう言うだけに留める。彼女たちの言いたいことをみさきは理解していた。


(男子サッカーでキーパーしていたからなぁー)


 みさきは力の強い男子のシュートを防ぐためにキャッチを最初から諦め、弾くことに専念していた。

 そのせいで弾く癖がついてしまい、キャッチングが苦手になっていた。


「キャッチするようにするよー」

「練習あるのみやな」

「そだねー」


 みさきが頷くと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。理紗と美紗は立ちあがり、合わせていた机を元に戻す。


「じゃあ、続きは放課後ね」

「一緒に行こうよー」

「じゃあ、授業が終わったらみさきの教室前に行くわ」

「わかったー」


 みさきは教室を出ていく二人に手を振り、午後の最初の授業の準備を始めた。

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